
母が子を思う、その思いの深さに打たれた。
作家・井上靖の自伝的作品からの映画化で、作家の家庭事情が豪華キャストで描かれる。作家の父親が死に、その後母親が他界するまでの10年余り、時代的には1960年代を中心にした「日本の家族」の物語である。
映画の中の作家は強烈な個性の持ち主であり、それを寛容的に受け止める取り巻きは彼の妹たち、妻と三姉妹という布陣である。息子さんもおられた実際とは違うこの映画的変更は効いている。
作劇の中心となるなる出来事は、「壊れた」と劇中でも表現される作家の母親の認知症である。介護が社会的制度化する以前、家族がそれとどう対処してきたか?きわめて現代的なテーマとして鑑賞することも可能だ。
本作の母と息子の関係はやや屈折しており、それが物語全体の通奏低音として響いている。それは作家の生い立ち、幼少期に遡る出来事によるものだ。その事情は冒頭でコンパクトに提示されるが、井上靖の「しろばんば」を知っていればより深い味わいが増すことは確かだ。
続編が制作される時、オリジナルの前日談に当たるビギニングが語られることが多くなってきた。
本作にも登場する湯ヶ島、沼津は井上靖が幼少から中学時代までを過ごした地で、その時代の井上自身を主人公にした「しろばんば」「夏草冬濤」は1962年に「しろばんば」が映画化されたきりである。
本作のクオリティで原田眞人監督次回作となれば、映画ファン、井上ファンとしてはこの上ない喜びとなるだろう。
公開はゴールデンウィーク。しばし待たれよ!!
