某県某市某町商店街のはずれ「カフェ誇大妄想」図書室でこむぎと先輩が恐竜の本を見ている。

あれ、マスターはお店に出なくていいの?

マスター

こむぎ

マスター:小島くん、横浜の巨大恐竜展の主役はプエルタサウルスだっけ?

先輩:パタゴティタンだけど。アルゼンチンで見つかった竜脚類で、史上2番目ぐらいの大きな恐竜で、卵も展示してあった。

マスター:プエルタサウルスもアルゼンチンの巨大な竜脚類だ。「ダーウィンが来た」によるとプエルタサウルスは卵を地熱を利用してかえす。下あごで地面をなでて暖かいところを探す。下あごの骨には神経が通っていた管があって、そこに温度センサーの神経が通ってたと考えられるんだ。

こむぎ:へえ~

マスター:卵の殻は厚さが2センチもあったそうだ。それが、孵化直前には温泉の酸によって薄くなり、赤ちゃんが外に出られるようになるのだそうだ。

先輩:本当か?温泉水が出なくなったらおしまいじゃないか。

マスター:映像があるとすごくもっともらしく見える反面嘘っぽくも見える、よね…

なんか芝居がかってるというか。ちょっとだけメイキング映像を公開してたけど、あれ人が「演技」をつけてるんだ。食いつく葉っぱがあそこにあって、顔を横向きにしながらこう、みたいに。

プエルタサウルスの卵や赤ちゃんは親に比べてとても小さくて、一緒に生活すると子供を踏み潰す恐れがあるから親は子の面倒を見られない。でも卵を産んだ場所は覚えていて、そこに肉食恐竜が踏み込もうものならみんなで駆けつけて排除する。

こむぎ:排除…

マスター:しっぽを使ってバシーンと!

先輩:おおかっこいい。

マスター:別な場面では最近記載された凶悪な獣脚類恐竜マイプの襲撃を受ける。プエルタサウルスは顔にしがみついてくるマイプを首で持ち上げて、そのまま投げ飛ばす。

『もりのへなそうる』で、へなそうるが頭にてつたくん、しっぽにみつやくんを乗せてシーソーみたいに交互に上げ下げしたりメリーゴーランドみたいにくるくる回ったりしたことを思い出したな。

先輩:なんですか?へなそうるって?

マスター:昔の子供向けの本。てつたくんとみつやくんという5歳と3歳の兄弟が家の近くの森で「でっかいたがも」を見つける。翌日行くと「たがも」は消えていて、首としっぽの長い四本足の「へんなどうぶつ」が現れる。みつやくんが「へんなどうつぶ!」っていうと「へんなどうつぶ」は「ぼかぁへんなどうつぶじゃない!ぼかぁへなそうるのこどもだい」と名乗る。以来この生き物は「へなそうる」。

先輩:へー、なんかオウム返ししてない?

マスター:へなそうるはカバみたいな顔をしていて、体は黄色と赤の縞模様で…恐竜かどうかは微妙だな。カバみたいに耳があるから哺乳類かも。

先輩:「ぼかへなそうるのこどもだい」ってしゃべる時点で動物じゃないよ。

こむぎ:相手は5歳と3歳じゃなくてマイプなんだけど。体重トン単位の恐竜でしょう?それに最近の恐竜博の図録なんか見ると「竜脚類は首を真上に持ち上げることはできなかった」って書いてあるよ。そもそもあんなに長い首の生き物が顔にマイプをくっつけたまま首を真上にあげて相手を投げ飛ばすなんてできるのかな。横ならともかく…

マスター:電柱を横にしててっぺんにお相撲さんをしがみつかせたままその電柱を勢いよく立てる、みたいな感じだよ。いくら太い首だからってそんなことできると思う?

先輩:テレビだから……

マスター:「自由度の高い首で…」って言ってたけどなあ。

こむぎ:それは産卵に適した地面を見つけるときの話で、顔にしがみついてくる敵を何とかするときの話じゃないと思う。

マスター:話を赤ちゃんたちに戻すと、産卵場所は見晴らしがよくて食べ物もないので赤ちゃんたちは隠れ場所と食べ物を求めて移動しなくちゃならない。親が守ってやれるのはそこまでなんだな…ってところで番組はエンディング。

先輩:プエルタサウルスってそこまで知能があるの?

マスター:さあ。

先輩:あんなに小顔だし…

マスター:全体があんなに大きいんだから知能は高かったかもしれないぞ。

先輩:話は変わるけど、モササウルスのアンモナイト狩りの映像もいろいろとツッコミどころが…

マスター:モササウルスって、「海トカゲ竜」のことだよね。首の短い首長竜じゃないよね。

先輩:あれも「ダーウィン」だったかな?モササウルスはアンモナイトの殻に穴を開けて空気を漏れさせて溺れさせたって映像付きで説明するんだけど、アンモナイトはもともとえらを持つ海の生き物だ。「溺れる」ならモササウルスの方だろ?

こむぎ:肺呼吸だもんね……

先輩:モササウルスはかみついて穴を開けてうまく泳げなくなったアンモナイトの中身を引っぱり出して食べた、というんだけど、それってモササウルスに対してアンモナイトが大きい場合じゃないかな。大きいモササウルスだったらいきなり殻ごとかみ砕くかも。

マスター:若いモササウルスがアンモナイトの気室部分を選んでかみつくのも大変じゃないのかな。(小さいアンモナイトを取り出す)これ、どこまで身が入ってると思う?

 

こむぎ:本物?

マスター:我慢できなくて買ってしまった。どこにでも売ってるマダガスカル産ので、ちっちゃいし安いけど。

近所のホームセンターに「ミネラルフェア」が来ててさ…

先輩:こいつは仲間を呼びそうだ。「北海道のお友達に会いたいよう」って。

マスター:うわー、せっかく誘惑と戦ってるのに。

こむぎ:うーん、ここの下半分に身が入っていて、穴を開けるなら上半分かな?住房(身が入る部分)以外は全部気室だけど、殻の中の方は細かく隔壁で分かれていて、かみついて穴を開けてもあまり影響がないと思うんだ。ところで生きているアンモナイトの気室に穴が開いたらアンモナイトはどうするんだろう。

先輩:おれもずっと気になってた。異常巻きアンモナイトの気室部分がぽっきり折れたらどうなるのかとか…

こむぎ:痛そうだからやめて。

先輩:痛いかな?あ、…連室細管が生きている組織だからやっぱり痛いか。アンモナイトやオウムガイには隔壁で仕切られてる「気室」があって、そこを貫通している「連室細管」でガスや液体を出し入れして浮力を調整できるんだけど、潜水艦みたいに素早くは出し入れできないみたい。

こむぎ:そうだったんだ…

先輩:「死角から近づく」のは当然として、やっぱり身の入ってるところに嚙みつきたい感じ…それにこれ、かみ跡じゃなくてカサガイの付着痕だという話がある。

マスター:カサガイ?

先輩:見たことないけど。巻貝の一種だって。

マスター:カサガイの跡が、なんでV字型に並ぶんだ?やっぱりモササウルスが関係してるんじゃ?

こむぎ:実は原因はアンモナイトの殻の方にあるかも。

先輩:んなわけないだろう?

(カフェ入り口のドアの鐘がしつこく鳴る)
こむぎ:マスター、いいの?お店の方。
マスター:そろそろマズいな……
 
※「ダーウィンが来た」「超巨大恐竜 謎のプエルタサウルス」8月18日放送