平岡陽明『ライオンズ、1958。』 | 町田ロッテと野球散策

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いやぁ、野球って、本当にいいものですね。


とても面白く読ませていただきました。
舞台は1956~58年の博多、今から60年ほど前のことです。博多と言えば今はホークスですが、当時は西鉄ライオンズ。敗戦直後の沈んだ世において、博多の誇りとして西鉄ライオンズは輝きました。三原監督の下、流線型打線と「神様、仏様、稲尾様」の活躍で日本シリーズ3連覇を成し遂げたのです。

あらすじには触れませんが、西鉄番の新聞記者と敗戦後の闇市から拾われたヤクザの心が通う物語。そこには、野球がありました。

戦争の縁もありました。

なお当時の西鉄の選手が登場します。今は鬼籍に入った豊田泰光、仰木彬は2年目とか3年目。稲尾もそうです。そして、西鉄のレジェンドともなった大ベテラン・大下弘。もちろん(私は)当時の西鉄についてはよく知らないのですが、この大下という選手は西鉄移籍後、博多のファンの心を鷲掴みにするくらいの選手、というよりもむしろ人物だったようです。大下、記者、ヤクザ、そして未来を担う子どもたち。
敗戦後の博多が再び輝く物語。



…しかし皆が知るように、その栄光は暫くして幕を閉じます。「黒い霧」です。
この物語は、黒い霧「前夜」の話でもあります。時代は、良くも悪くも移ろいます。やがてライオンズは、博多を離れて狭山丘陵へ。そして蒸し風呂へ(笑)。
東尾も、火の車西鉄の若手エースから所沢に移り黄金時代のエース、そして監督を経て今は石田純一の義父(笑)。

狭山丘陵時代のファンとしてはやはり「ライオンズ」という響きは特別なものがありますね。


なお作者の平岡さんですが、1977年生まれと知って驚きました。かなり調べてこの作品を結実させたのでしょう。1977年といったら、クラウンライターライオンズの1年目。その翌年にはもう西武に身売りして福岡から離れる、という頃です。
そう考えると、凄いの一言。

なお野球バカの皆さんには増山実『勇者たちへの伝言』もオススメです。こちらは「勇者」、つまり阪急ブレーブスを通した放送作家とその父、その父の恋人の話。これも戦後史の悲しい部分と野球の「陽」の部分が絶妙に絡み、圧倒されます。