7月14日、一般社団法人森林健康経営協会を設立いたしました。協会ではカーボンニュートラル、生物多様性といった現代的な問題に対して、「森林の健康づくり」を通じて街と森とをつなぎ、コミュニティの持続可能性に寄与する取り組みを行ってまいります。


 日本の国土の約3分の2(約2500万ha)は森林です。森林の役割は多岐に上ります。木材等の供給源であるだけではなく、豊かな水の源となっているのです。また、森林の持つ災害防止機能も忘れることはできません。森林には多面的な機能があるのです。


 現在、日本の森林は危機に瀕しています。森林面積の約4割(約1000万ha)は人工林です。その過半数が植栽後50年を経過し、伐採期を迎えているのです。ところが材木の価格低迷等が原因で長期間にわたる林業の不振が続いていて、伐採どころか適切な管理が行われていない森林は増加の一途をたどっています。


 こうした状況に陥った原因は一つではありません。多くの要因が複雑に絡み合っているため、簡単に解きほぐすことはできないのです。


 かといって森林の問題に手を付けなければ状況はさらに悪化するでしょう。世界有数の森林国である日本にとって森林は地域コミュニティの土台です。森林の持続可能性はコミュニティの持続可能性と密接に関係しているのです。


 私たちは問題解決の手がかりを「街と森林をつなぐ」ことに求めました。「街」から見ると「森林」はブラックボックスです。たくさん木が生えていることはすぐわかります。ところが、その木を巡る様々な状況、力学を理解できていないのです。


 「カーボンニュートラル」「生物多様性」に関する世界的な動向が森林の問題解決のきっかけになるかもしれません。しかし、こうした動向の先行きは見通せませんし、何よりも街の目線から見た森林のあるべき姿を見ているようにも思われます。


 複雑な問題を一気に解決することはできません。だからこそ小さな取り組みが大切になるのです。実は森林所有者の約60%は5ha未満しか所有していません。10haまで広げると約72%にものぼるのです。面積に換算してみても林家全体が保有する山林の約39%になります。


 こうした小規模森林所有者の多くは森の手入れをする余裕がありません。行政等の施策も十分ではありません。そのため、そうした森の多くが放置されているのです。小規模な森林の問題は国家レベルの問題なのです。


 行政等ではこうした森林をまとめて施業しようとする動向があります。大きな面積に集約すれば効率的な施業ができるというわけです。しかし、事は簡単ではありません。それぞれの森にはそれぞれ固有の事情があります。製造現場の改善を行うように理屈通りにはいかないのです。


 私たちは大きな問題を解決するには小さな具体的な問題から手を付けるべきだと考えます。地域全体、国家全体の問題は手に余ります。しかし、数ヘクタールの森林であれば解決可能な糸口も探しやすいのです。私たちは小規模かつ解決可能な事情を抱える森林を一つ一つ街と結びつける具体的な取り組みを積み重ねてまいります。
 

 森林には個性があります。樹齢40年で伐採して材木を得ることが目的の森林、一方では100年、200年の年月をかけてじっくり育てていく森林、木材を得ることではなく、里山として意味を持つ森林…など森ごとに目指すべきものが違うのです。それは企業がそれぞれのビジョンを目指して計画を立て、行動していくのに似ています。それが「森林健康経営」です。


 「森林の健康」とは何でしょうか。森林にはそれぞれ個性がありますが、健康的な森には共通点があります。それは、「明るくさわやかな森」、「美しい森」であるということです。逆に、不健康な森とは「暗く重苦しい森」であり、「美しくない森」なのです。


 森林が健康であればCО2を十分吸収します。そして、生物多様性も向上します。それには小さな取り組みを積み上げていくことが大切だと思います。


 カーボンニュートラルや生物多様性とは「森林健康経営」の結果です。私たちはそれぞれの森の健康を定義し、その実現のための施策を考え、実行することで森林の持続可能性を高めたいと考えています。
 

一般社団法人 森林健康経営協会   

代表理事 浅沼 宏和