昨日のネタ「忘年会」で登場した
バンドのメンバーのことについて、書いてみようと思う。
まずは、剛。


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バンドを組んでいたのは、高校の頃から。
部活の延長でコピーバンドから始まったが、
最後の方では剛と雅史が曲を作ってやっていた。
バンドは就職活動直前くらいまで続いた。
年数で言うと、5年。

剛とセックスをするようになるまでは1年半くらい。
お互いに値踏みしていたように思う。
高校生の分際で、ライブの帰りに飲みに行った。
まるで事前に決めていたかのように自然とラブホへ行って、してみた。
それが始まり。
私自身は、処女ではなかったが、
セックスの良さもまだ大して理解していない頃だ。

剛は、高校生にして女の身体の扱い方は天下一品だった。
その理由を聞くまでに、さほど時間はかからなかった。
実は心の底から女を軽蔑している、
でも本当は自分を心の底から愛してくれる女を渇望している、
コンプレックスの塊のような男であることも。


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剛は、自分の外見が女性の目を惹くことに、
小学生の頃から気付いていたそうだ。
確かに、日本人離れした端整な顔立ちをしているし、背も高い。

中学生になってから、自宅に遊びに来ていた姉の友達に
中学生の頃から弄ばれ、 そのまま初体験。
毎日のように剛の部屋にやってきては、あらゆるテクニックを仕込んだ。
徐々に、

姉の友達は、自分のことを好きだからセックスをするのではなく、
自分とセックスが出来るから好きなのだ。

と、感じるようになった。
剛の女嫌いは、そこがスタート地点。
ならば、自分も女を性欲の捌け口として利用してやろう、と。
だんだんと、女を単なる「穴」を持つ動物だと思うようになる。


ある日私は剛に以前から気になっていたことを聞いてみた。
まだ値踏みしていた頃だ。

「剛って、常に女が周りにいるくせに、ちっとも楽しそうじゃないよね。
 女が嫌いなの?嫌いなら、どうして常に女を隣に置いておくわけ?」

ビックリしたような表情のあと、一瞬おびえた目の色に変わった。
すぐに鼻で笑ってごまかしていたが、
私には、何かあるというのがわかった。

この時のことを、後に剛はふとんの中でこう語っていた。

「初めて、心を見透かされた気がした。
 それまではずっとうまくやってこれたと思っていたのに。
 だから、ビックリもしたし、脅威でもあった。
 お前、何者なんだ?」

何者でもない。
単なる「穴」を持った女だ。

剛は、この時に、私とセックスしたいと思ったそうだ。
私も、この時に、剛とセックスしたいと思った。

スイッチが入ったタイミングが同じだった。


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剛によって、私はどんどんいやらしい女になっていった。
絶頂を知ったのも剛とセックスした時だったし、
自分がどんなことをされるとスイッチが入って「ケモノ」になるのかも、
剛が全部私に教えたことだ。
男の人がどんなことをすると悦ぶのか、あらゆるテクニックも教わった。
ここに書けないようなことも、たくさんした。
「調教」「開発」とはまさに、こういうことを言うのだと思った。

剛とそういう関係だった3年半の間、
剛は女をとっかえひっかえやっていたし、私も彼がいた。

女という生き物は不思議なもので、
身体を重ねているとだんだんと独占欲みたいな感情が湧いてくる。
当然、剛に対してもそうだったが、私はそれを必死で抑えていた。
剛が女に何かを求められることを物凄く嫌う男なのを知っていたので、
自分が何かを求めてはいけない、と、
強がってはみても、実は必死だったように思う。
剛が新しい女を連れて歩く姿を見るたび、
何とも言えない嫌な気分になった。

それが「恋」と呼べるものなのかは、
いまだに私にはわからないし、恋だという確信も持てない。
ただひとつだけ確かなのは、
剛は私にだけ本音をぶつけ、打ち明けていた。
それが、私にとっては唯一の救いであった。

しかしそんな気分も、3年半も続けると徐々に薄れていく。
だんだんと所有物のように扱われることに、私は不満を持っていった。

バンドの解散を決めたのは、ちょうどその頃だった。
就職活動を本格的に進めなくてはならない時期だった。

プロを目指したい。
堅実な道を選びたい。
家業を継がなければいけない。

理由は様々だったが、私の理由は、

剛と離れたい。

ただそれだけだった。

解散した後は、ぱったりと連絡を取らなくなった。


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剛が結婚したと風の噂で聞いたのは、それから数年後のことだった。

信じられなかった。
剛だけは、結婚しないだろうと思っていた。
女のことも、自分のことですら、愛せない男だったからだ。
でも、剛のことをちゃんと理解してくれる女性が現れたら、
きっと剛は幸せな結婚生活を送れるだろうとも思っていた。
そうであって欲しいと願っていた。

その後、出来ちゃった結婚だったと聞いたのは、本人から。
離婚でもめている頃に、連絡が来た。
それ以来、バンドのメンバーが数年に一度集まるようになった。

剛の子供は、元奥さんが引き取った。

離婚後に飲みに行った時、剛は私にこんなようなことを訊ねてきた。

「俺は間違っていたのか?
 俺なりに、かみさんも子供も愛そうと思った。
 子供は可愛いし、かみさんだってよくやってくれた。
 でも、どうしても最後の最後で、信用できない。
 いつか俺を裏切るんじゃないかって。
 本当は俺のことなんて何とも思っていないんじゃないかって。」

そう言いながら、剛は涙を流した。
私も涙を流した。
いたわるように背中をさすると、ばつが悪そうに

「悪いな。こんなところ見せちゃって。」

と言って笑った。

初めて、剛が愛しいものに見えた。

いい意味でも悪い意味でも、
私のその後の恋愛に物凄い影響を与えた人だ。


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年末の忘年会は、その時以来である。
正直、剛に誘われたら、ついて行ってしまいそうだ。
断る自信は、1パーセントもなし。

とだけ、先に言っておきます。
結果報告は、年末。

つづく