とても遺憾である。
私と一緒に暮らしている、猫のチェチェが部屋を汚していたのだ。資料やらなんやらは地面にばらまかれ、雑誌類はびりびりと引き裂かれている。主に紙類への八つ当たりが激しい。「なんでこんなことしたの」と聞いたところで不機嫌そうに「ニャア」と答えるだけ。むしろその「ニャア」に含まれていることは「知らん」より「飯をくれ」だろう。
どうしたのだろうか、うちのチェチェは。普段はとてもおとなしい子だし、他の猫と比べておもちゃなどにも興味を示さないタイプだ。だからこんな風にものに当たってイライラを発散するような子だと感じさせられたことはなかった。
もしかして最近缶詰を少し安いものに変えたことがバレたのだろうか。いや、それは違うんだよチェチェちゃん。私にお金がないから缶詰を安くしたわけではないのだ。ただなんか、その、日々コンビニ弁当なり、コンビニの総菜パンなり、コンビニのカップ春雨なりを食べて過ごしていてコンビニに寄生している、と言っても過言ではない私に対して、あなたは通販で買った割と値の張るものをお食べになっているでしょう?そうでしょう?だから、ね?その、チェチェだって安いやつでも…、と思ったり思わなかったり?
と、一人でもやもや考えている最中でもチェチェはぐだぁっとした姿勢を保ちながら「ニャォウ」と嘆いている。さっさとご飯が食べたくて仕方がないのだろう。
「もう、分かったよう」
そう言って私はお皿に缶詰を盛り付けてチェチェに差し出してあげた。それを全力でガン見していたくせに「お、ご飯あるん?しゃあないなぁ」と言いたげな、気だるげな雰囲気で腰を上げた。なぜ関西弁なのかは分からないが。
皿に向かってチェチェともう一匹、えー、名前が分からないな。じゃあ、ミミで良いか、なんかぴょこぴょこした耳がかわいいし。は、二人でご飯を食べ始めた。その姿はまるで付き合いたてのカップルのようにべったりと…「お前誰だよ!!!」
大声を出してしまった。仕事終わりで疲労もピークなのにもかかわらず、あまりの出来事と衝撃に大声を出さずにはいられなかった。ミミ、勝手に名前を付けてなんだが、貴様、何やつだ。曲者が過ぎるぞ。ついつい私の中の信長がキレだす、今日は疲れている分、気性が荒い。
「チェチェ、あんた誰よこの子。ナンパでもしてきたわけ?」
チェチェはご飯にご執心である。ちょっと、飼い主なんだから紹介くらいしてくれてもいいじゃないの。っていうか勝手に連れて来て、一言も言わないなんて失礼だからね、人として、猫だけども。
そうか、分かったわよ、チェチェ。この部屋の散らかりようはあんたとミミ(仮)がいちゃいちゃした痕跡なわけね。私がいないのを良いことに、目いっぱい彼女と暴れまくるという、両親が共働きだから二人のどちらかが帰ってくるまで家は使いたい放題で彼女といちゃこらし放題な中学生カップルみたいなことを謳歌していたのね。むかつく、あんた私を裏切っていたのね、いつから、いつからよ!!
あれ、でもこの子。よくよく見たらすごく綺麗な毛並みしてるし、礼儀正しいし(猫なりに)、飼い猫なのあなた。
「チェチェ、あんたこの子どこから連れてきたのよ」
私の部屋は確かに密室ではない。ただ人間にとっては密室同然なのだが、ペットと暮らすことを前提とされているこのマンションでは動物用の小さな扉が玄関に取り付けられている。もちろん鍵の開け閉めは飼い主の自由なのだが私の場合開けてある。それは裏を返せば、他の部屋の住人もみな何かしらの動物を飼っていることになる。
そうか(仮)ちゃんは他の人の家の猫ちゃんなんだ。じゃあ今頃飼い主さんは探しているのでは…?
ピンポーン。
そう思った瞬間、玄関のインターホンが鳴った。
「はい!」
駆けて私がドアを開けるとそこにはイケメンメンズが。
「すみません…っ、はぁ、うちの猫見ませんでしたか?特徴は…」
「います…、それと、私もいます!!!」
「は?」
チェチェあんた最高よ。
「ニャア」
チェチェはにやりと笑った。…気がする。
