眠れない。
こんな時はなにをしよう。
好きなアイドルのことを考える。ダメだ、胸がドキドキして眠れない。
本を読む。家族が寝ていて明かりが付けられない。
羊を数える。羊が小屋から出てこない。
仕方ない、散歩に出かけよう。
10月の夜は涼しくて心地がいい。
星がキラキラと輝いていて、小さい頃に集めていたシールのことを思い出した。
駄菓子屋さんに30円で売っているかわいいモンスターのシール。当たりを引くとキャラクターがキラキラと光る特別なシールがもらえた。それを集めるのが私はとても好きだった。
週に何回もその駄菓子屋さんに通っているとたまに同じシールを買う男の子がいた。
「そのモンスターくれよ」
彼は私が当てたそのキラキラなシールを欲しがった。だけど「ダメ、これは私の。欲しかったら自分も買えば」私は彼に反抗してみる。
すると彼は「うるさい!」と怒鳴りだした。そして私の持っているシールを無理やり取り上げて走って逃げていく。私は泣いた。幼い頃の私に取ってそのキラキラなシールは宝物で、それを奪われた私は、ひどく悲しい気持ちを抱えながら帰路についた。
何年か経って、私は中学生になった。
「おい」
突然乱暴な声をかけられて私のお胸がドキン。振り向くとそこには男の子が…どうやら同級生のよう。
「お前、ギュルモだろ」
「…え?」
「ギュルモのシール、持ってたやつだろ」
ギュルモ…あ!
「キラキラシール!」
「やっぱりそうか。あれ、もういらねぇから返すわ。明日持ってくる」
そんなこと言われたって私だってもういらない!私は怒り心頭だった!
「ほい」
それなのに返ってきた。しかもすごく綺麗に、意外と物を大切にする子。だけど、まだ腹の虫がおさまらない。
「なにをそんなに怒ってんだよ」
「別に」
「わかったよ。もっとキラキラなやつ、やるよ」
何ヶ月か経ってまた私は彼に声をかけられる。
「おい」
こいつはまた、乱暴な。
「これ、やるよ」
彼は白い紙粘土にビー玉と川原でまぁるく削れたグラスが埋め込まれただけの物を渡してきた。上の方には紐がついていて、掛けられるようになっている。
「え、なにこれ」
「なにって、紙粘土にびーだ」
「それは分かるよ。でも、なにこれ」
「なんだよ。まだ納得いかないのか。じゃあちょっと待ってろよな」
次に彼が話しかけてきたのは私が大学生になった時だった。
「おう、久しぶりだな」
「ちょっと、なんであなたがいるの」
「あ?たまたまだろ。そんな気味悪がるなよ。それより、約束あんだろお前に」
「約束って、え…?いや、ちょっと待ってろって言われたけどもうすごく時間経ってて…」
「いいから。今日の夜20時、ここの正門に来い」
なんて不躾な言い方!全然変わってない!ムカつく。と、思いながらも来る私。
「来たか」
意外にも先に来ていたのは彼だった。そして彼はなぜか車で来ていた。
「行くぜ」
しばらく暗闇を走り続けると車はどんどん山を登って行く。よくよく考えれば私は男の人と一緒にドライブなんて初めてだ。しかもこんな山奥に連れていかれている。もしかすると、もっと警戒するべきだったかもしれない。ビクビクと私が怯えていると。
「着いたぞ」と言って彼は先に外へ出た。
恐る恐る私も外に出ると、さっきまでの恐怖はどこかへ飛んで行った。
自分の住んでいる町の夜景がこんなに綺麗なことを私は知らなかった。なんの変哲も無い普通の日常しか送れない私の町は、毎日がクリスマスのような景色が見られるし、それは地上を漂う銀河のようでもあった。
「やっと怒りはおさまったか?」
「なんでこんな事、してくれるの?」
彼は少し笑ってから、私の手を握りしめた。
その後、もっともっとキラキラな指輪をもらって私たちは結婚した。
今でもあのキラキラなシールは大切にしまってあるし、紙粘土で作った物体は子ども部屋に掛けられている。
私はもうすぐ星の消える空を見上げて、左手を上げた。
薬指にはまだ綺麗な一等星がキラキラと輝いている。
