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「わたし、アイドルになるよ!」
 テスト期間、放課後と夕暮れ。親友の菜月が言った。
「なれば」
 私はそれに素っ気なく返す。
「ちょっ、ちょっと姫沙ちゃーん!そんな言い方しなくてもいいじゃん!」
「菜月が突拍子もない夢を語るのはいつものことだよ」
 本当に、いつもくだらない事ばかりこの子は考えている。テスト期間に入ると特に、だ。
 今まで菜月が提示して来た夢シリーズ『海賊王』『叶姉妹』『スーパーマリオ』『レゴブロック』『スーパーの店員』最後のに関しては叶うのではないかなと思ったが彼女自身がすぐに飽きた。それを除けば夢という夢がない。夢は実際にあるけど、でも叶うのは夢のまた夢である。
「で?なんでまたアイドル」
 仕方なく私はこの子に付き合う。
「あのね!昨日テレビでKNB39が出てたんだよ!その人たちのドキュメンタリーを見たのがきっかけ」
 へへへ。と、彼女は恥ずかしそうに笑う。この顔は私は好きだ。夢を見ている顔というのは、その幸せを他の人にも伝染させる力があると私は思う。事実そう感じるから。
「それでね『あなたは何故、アイドルになりたかったのでしょうか?』っていう質問したらメンバーの1人がこう答えたの『かけがえのない、私にしかできないことが出来ると思ったから』って答えたの。それが、すごく、かっこよかった」
「ふぅん」
「興味ないね!聞いといて興味ないね姫沙ちゃん!さっきからずっと英語の教科書に目を落としたまんまだもんね!こっちは自分をドリィームをカミングアウッしてんのに!」
「ネイティヴ風な英語を混ぜてくるな」
「あーあ、どうやったらアイドルになれるのかなぁ」
「地下アイドルとかも多いじゃん、今。どんな形でもいいなら何かしらのアイドルにはなれるんじゃない?」
「そうだね、ネットで探してみる。」
 アイドル、募集、18歳。と、菜月は呟きながら検索エンジンに文字を打ち込んでいく。年齢の必要性はイマイチ分からないけど。
「おーおーおー!なんかたくさん出て来たよ、姫沙ちゃん」
「そろそろ勉強しなよ菜月」
「あーでも20歳以上からのもある」
「ミス・ナツキ」
「ハァイ、ナイストゥミーチュー。シス・キサ」
「なによ、シスって」
「シスコン」
「私一人っ子だよ」
「んー、やっぱりいいや」
 ほら、でた。この子はだいたいここら辺で飽きる。今回は短い方だったな、言いだしてから1時間。平均1時間半から2時間なのだ、彼女の持続力というものは。
「わたしはやっぱり、姫沙ちゃんと一緒にいるのが将来の夢。だって楽しいんだもん」
 一切曇りのない目で私に向かって笑いかける菜月は、私にとって『好きな人に違いない』
 こんなに優しくて、すてきな笑い方をする人を、私は菜月以外に知らない。
 いつか、あなたのその時の夢を叶えてくれる誰かに出会って、『姫沙ちゃんと一緒にいる』ことが夢でなくなるその時まで。
 どうかあなたの希望でいさせてね。
 菜月は今の私の夢なんだから。