ゴミ箱を探すのが苦手だ。
そもそも街にはゴミ箱が少なすぎる。テロ対策とかそういう理由で無くなっているというのは聞いたことあるが、それにしても無さ過ぎるだろ。
これは、かれこれ一時間もの間コーヒーの空き缶を持ち続けた私の物語である。
コレを手にする前、私は喉に異常なまでの渇きを感じた。冬の季節は乾燥するとは無論知っていたがこれほどまでに渇くものか。気にすれば、気にするほど喉の渇きは増していく。というか、痛い。すこぶるに痛い。渇きを誤魔化そうと飲み込んだ唾ですら潤っていない部分を逆なでするかのように痛みを伴わせながら落ちていく。
呼吸をすることが辛い。
私は自動販売機を探した。生憎、近くにコンビニやスーパーが無いことは承知していた。しかし、だからと言って自動販売機の場所を理解しているわけでもなかった。
とりあえず、歩こう。
助かった。少し歩いたところで自動販売機を見つけた私は取り急ぎ小銭を取り出し釣銭のことも考えずに光ったボタンを押した。
出てきたのはブラックコーヒーだった。くっ、コーヒー苦手だ。しかし背に腹は代えられない。苦くて優しくない、酸っぱくて切ないそれを私は一気にそれを喉の奥へと流し込んだ。
泣きそうだった。
久々に口にしたそれはやはり好き好んで飲むものではないと感じた、感じ直した。しかも、一気飲みをしたせいでお腹の中がぐるぐるだ。胃もたれのような感覚、嫌だ。
喉の渇きは収まった。これで大丈夫、そう思い缶をゴミ箱に捨てようとする。そして気づいた。ゴミ箱がない。
ここで冒頭に戻る。
私は、ゴミ箱を探すのが苦手だ。
一時間何かドラマがあったわけではない。ただ淡々とゴミ箱を私は探し続けた。もはや、燃えるゴミ専用でもいい。電柱に取り付けられた緑色の灰皿缶でもいい。とさえに私の心は荒んでいた。
バッグやリュックを持たずに出てきた私は両方のポケットに財布、定期、文庫本がそれぞれ入っていた。それがどんな意味を持つか、分かるだろうか。
右手に持った缶コーヒーをしまえないのだ。入れる隙間がない。あるとしても自分の左手だけだ。そのため右手はずっと外気に触れている。寒い、そこに加え缶が着々と冷えて行っている。熱伝導の良さをここまで恨んだことはない。
あぁ、このままでは私の右手は氷と化してしまう。
愛しき人が好きと言ってくれたこの手が、彼女にとって愛しきものではなくなってしまうのではないか。
それは、とても、嫌だ。
彼女に会いたい。
「こんなところにいた!」
寒くてうつむいた私の目の前にはぶくぶくと膨れた体をした、愛しき者がいた。
「おぉ、ちょうど君に会いたいと思っていたどごろだよ」
「最後の方鼻声じゃない!何してんのよもうっ」
彼女は私から冷たい缶コーヒーを奪い取り自分の上着のポケットに入れた。
そして手袋を外し私の手を握った。
とても、暖かい、口もとがほころんでしまう。
「手こんなに冷たくなって」
「かたじけない」
「早くケータイ買いなさいよ」
「私は文明の力には頼りたくない」
「それならさっさと私の家くらいは覚えなさいよね!バカ!」
私は彼女を怒らせることが得意だ。
しかし、私は怒られることが嫌いではない。
彼女にとっては厄介だろうなぁ。
私はゴミ箱を探すのが苦手だ。
でも彼女は私を探すのが得意だ、とってもだ。
いつか私も君を見つけてみたい。
