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私とロミオとジュリエット

 文化祭準備期間、私たちのクラスはシェイクスピア作『ロミオとジュリエット』の舞台セット作りに精をだしていた。発泡スチロールを器用にボコボコさせて石造りの城壁を作り、そこら中で役者たちの採寸が行われていた。
 その渦中、尾崎早苗は一人、机に向かって難しい顔をしていた。
「浮かばん」
 早苗は脚本を書いていた。彼女は作家志望ではないし、特別小説が好きというわけでもなかった。今回脚本を書くにあたって初めて『ロミオとジュリエット』を読んだほどだ。それなのに、なぜ早苗が脚本家に選ばれたのか。
「それじゃあ、あとは脚本なんだけど、誰かやりたい人いない?」
「脚本かぁ、自信ねぇな」
「ってか舞台一本の話書くとか無理じゃね?」
「原作そのままとかは?」
「それだと長すぎるんだよね。すこし縮めて、ユーモラスに書ける人の方がいいよ、暗いしこの話」
 口々に提案や不満を述べる中、一人の男子生徒から声があがった
「尾崎さんって現代文の成績よくなかった?」
  早苗は棒状のスナック菓子を前から後ろに最大何回噛めるかという遊びをしていたため、不意に呼ばれたことに唖然として細かく刻まれたカスが落ちる。
「へ?」
「だから尾崎さんが書けばいいんじゃね?」 
「待て待て、待って。え、私が脚本?無理だって!無理無理!書いたことないよ?一回も!」
「あー、そっか尾崎さんだったら毎回先生にも褒められてるし」
「違うじゃん!確かに成績はいいけど、褒められてるけどだからって脚本かけるわけじゃないじゃん!みんなだって『馬に人参あげるの上手ねぇ』って褒められてジョッキーになれるわけじゃないでしょ!」
「ジョッキー全員が人参のあげ方上手いわけじゃないだろ、ってか人参のあげ方上手いってなんだ」
「とにかく!尾崎さんで決定ね。よろしく頼みますよ脚本家」
 ということがあり、彼女はやりたくもない脚本家を嫌々、しかもかなり怠惰に引き受けたのだった。引き受けて3日、未だに原稿用紙2枚分しか書けていない。
「もう…何を書いたらいいのか全然分からないじゃない。第一もっと本を読む人がやればいいのよ、なんでそれこそ現代文の時間にしか読まないような私がやるのよ」
 そんな独り言をブツブツと言っているうちに作業終了の時間が訪れた。
「じゃあ今日の準備はここまで!あと5日で完成させて、残りの1週間はセリフ合わせに入るから、それまでには尾崎さん頼んだよ」
「えええええ!」

「ハァ…ダメだこのままだと私の脳内はストレスでガチガチになる…」
 トンボやカラスに見下されながらトボトボと帰る早苗。ふと、足元を見る。そこにはマンホールくらいの大きさの穴がぽっかりと開いていた。
「なにこれ?」
 興味本位でその穴を覗く、すると向こうから声が聞こえてきた。
「代わって…」
「え、なにそれホラー?」
「私とそっち代わってよ!!!」
 ガシッと腕を掴まれた早苗は思いっきり引っ張られてその穴の中に落ちた。そして掴んだ方と一瞬すれ違う。その人物は早苗とそっくりな顔つきをしていた。

 ばしゃーーーん!!
 大きな音を立てて水の中へ落とされると、そこはプールのような場所だった。しかし、あまりにも作りが、現代風ではなかった。
「ど、どこなの?ここ…」
「あの…あなたは?」
 咄嗟に声をかけられ振り返るとそこには美男子が立っていた。彼は少し微笑んだ後こう言った。
「ひとまず水から上がりましょう、それから服を着替えて、それから話を聞きます」
「あ、あのっ」
「あぁ、名前も名乗らずご無礼をお許しください…初めまして、ロミオと申します」

続く