ちょっと前になりますが、日本の食の安全を犯されたということで、餃子が話題になっていました。連日ニュースで餃子の問題が取り上げられ、僕はある出来事を思い出したのです。


 それは、まだ僕が高校3年のある春の出来事でした。


 同じ高校出身でひとつ上の仲の良い先輩がいたのですが、先輩が卒業した後もよく遊んでいました。まだ僕がバイクに乗っていた頃、先輩は一足先にクルマの免許を取得し、家用のクルマで迎えに来てくれては、よく夜のドライブをしていました。お互いおしゃべりが大好きで朝方まで話し込んでいたことは珍しくないくらいです。お互いがまるでガチンコ勝負のように話し込み、どちらかの喉が枯れそうになったら「もう帰ろうか?」というカンジで解散するというものが続いていました(;^_^A


 そんな先輩とある日、いつものように、夜ドライブをしながら内容の薄い、それでいて他人の入り込む余地のない深い話に花を咲かせていた。それは春の夜風が気持ち良い深夜のことだった。


 夜も深まりクルマは延々と走り続ける中、先輩が話の途中で急に「腹減ってきたよな? 何か食べに行かないか?」と切り出してきたのです。そういえば、ずーっと話をしていて喉も渇いたし、ちょっぴりお腹も空いてきたなっと思ったので、僕は「じゃあ、どこかへ食べに行きましょう」というと、先輩はあてもなくクルマを走らせる。しかし、というかやはりというか夜中も結構いい時間になっていたので、開店しているお店もなくまた街中でもないので、それらしいお店はなかなか見当たらなかった。外を見ると真っ暗で人気も少ない、窓越しに車内のメーター類からこぼれる光が僕の顔を映し出している。それくらい真っ暗だったのだ。しばらく走っていると、向こう側からクルマが一台向かってくる。周りが暗すぎるのでライトがヤケに眩しく思える。と、ライトとは違う明かりが、向かってくるクルマの向こう側に見えた。やがて向かってくるクルマとすれ違うと、闇にポツンと浮かぶ明かりが何かわかるまでに時間はかからなかった。お店だ! と思ったと同時に先輩が「おっ? 食べ物屋があるぞ!! あそこにしようか?」と聞いてきたので僕は迷わず「ええ、いいですよ」と答えた。お店に近づくと、どうやらラーメン屋さんのようだ。お店には看板がかかっており、そこには「大きく、頻繁に、食べる」 と書いて、「大頻食」と書いてあった。ガレージとも言わないスペースにクルマを停め、車外に出ると、周りにはな~んにもないと思っていたのだけど、民家も立ち並び普通の景色だった。そしてお店の入り口付近に立て看板が設置してあり、そこには、


「餃子一人前80円!」と書いてあった・・・


「餃子一人前は随分と安いですねぇo(^-^)o」と言うと先輩は「コレは期待できそうだな」とお腹も空いていたこともありウキウキしながら店に入っていった。

 お店自体はそんなに大きくはなく、普通のラーメン屋さんといったカンジで赤いテーブルカウンターに、窓際にはこれまた赤い4座のテーブルが並んでいた。その席にはラーメンの器が置いてあり1組、つまりは2人の客が座っていた。先輩と僕はモクモクと湯気の浮かぶカウンターに座り早速メニューを拝見! これまた一見普通のラーメン屋さんのメニューと変わらないが、唯一気になったのが、やはり餃子1人前80円だった。そして、僕たちはラーメン1人前と迷わず餃子1人前を注文した。注文後も先輩と僕の話は止まらない(^▽^;) そんな会話の最中に店内に入ったときからいた先客が注文を追加した。「すいませーん! 餃子5人前くださーい!!」と告げると、もくもくと湯気の上がるカウンターの向こうで店主のオヤジが「へーい!」と応答した。しかし、先輩の会話はそんなことを気にしている様子もなかった。僕は、先輩の話を聞きながら「餃子を5人前だなんて人数にしては随分食べるなぁ」と心の中で思っていた。ノンストップで話し続ける先輩の会話を打ち切ったのは、注文した餃子だった!


「ハイ、お待ち!」と威勢のいい声で店主のオヤジが目の前に置いた餃子は小皿に2貫、否、2個!! それを見て「えっ?」って思った。先輩の顔を横目でチラッと見ると餃子に釘付けになっている目が真剣なのに対し、口尻が上がっていたことを見逃さなかった。僕も、驚きながらひょっとしたら先輩のように半笑いだったかもしれない。店主のオヤジに「コレ、少なくないですか?」と言おうとかなとも思ったのですが、1人前という言葉に偽りはなく、また1人前は店によって基準が違うので文句も言えなかった。逆にこちらの胃袋が大きいのがなんだか申し訳ないのかも? と思えるほどだった。また、「これで80円?ヤケに高いな~」 とも思いましたが、よく考えると餃子で有名なお店も1人前が大体6~7個くらいで180円なので、例え6で割ったとしても1個あたりは30円かぁ~ だったら、10円高いけれども、小皿を洗う手間を考えたらそんなものかな~とも思えなくもなかったので言葉が詰まった。そして先ほど注文していた先客のところへも餃子が運ばれた。その間カウンターから席を外した店主のオヤジの目を盗んで、僕と先輩はクスクスと笑いながらラーメンを歯で食べるようにすすった。餃子から食べてしまうと、あまりのあっけなさに爆笑してしまいそうだったからラーメンから先に食べたのだ。先輩もそれを悟ったのだ。店主のオヤジがカウンターに戻ってくる頃にはお互い笑うこともなくラーメンを黙々と食べる。この辺の笑いのコントロールができるのも先輩と長く話し込んだ賜物だ。


「なるほど、先客は常連だな。注文の仕方を知っている」そう思いながら、いよいよ餃子に手をつけた。が、ラーメンの味も餃子の味も普通のラーメン屋さんとそんなに違いはなく、目の前に出された数に驚かされたこと以外はごく普通のラーメン屋さんだった。先輩と僕の心は一致していた。早々に食べ終えると、勘定を済ませ、そそくさとクルマに戻っていった。なぜなら、溜まりに溜まった笑いを爆発させるためだった。


二人は大爆笑しながらクルマを走らせた。車中で僕が「餃子2貫、否、2個には驚きましたねぇ(≧▽≦) あれじゃクレームがきてもおか・・・」とまで言いかけたとき 「クレーム?・・・ 顰蹙・・・」あっ! だからか!! 大頻食(だいひんしょく)は大顰蹙(だいひんしゅく)にかかっていたんだ! さらには、頻繁に食べるというのは餃子の数が少ないからそう命名したのでは?? 「やるなオヤジ!」と思い、倍増した笑いをぶちまけながらいつものように朝方、家まで送ってもらった。


餃子の数が少なかった意外は特別な思い入れもなかったので、しばらく気にもしなかった。


それから数年したある日、ラーメン好きの人と仲良くなり、ひょんなことから思い出した「大頻食」の話をしたら結構ウケた。これはネタになるかも? と思ってあの日の記憶をたどり、クルマを走らせた。しかし、当時自分がハンドルを握っていたわけでもなく、また話に夢中になっていたこともあり、似たような場所はあるもののお店の場所はいっこうに見つからない。更地になっているのを見て、ここだったような気もするし、また新築らしき家が建っているのを見ても、ここだったような気もするといった具合に場所が定まらない。「不思議だ・・・」もう、あれから数年も経っているからな~ そう思いながら結局お店は見つからず、「ひょっとしたら、2chで話題になっているかも?」という期待に胸を膨らませ家に帰った。当時ネットなんてものはなかったので、今頃になって話題になっているかも? と思ったのですが、ネットで検索しても引っかからなかった。おかしいな・・・


あの日、あの時、春の夜風が気持ちいい深夜のあの場所でもしかすると、先輩と僕は時空の狭間、ミステリーゾーンに誘い込まれたのかもしれませんね(;^_^A


 そんな不思議な体験をしたことがあります・・・