020年 本屋大賞の第10位となった作品です。

い頃からお馴染みの、あの昔話がミステリになってしまいました。

 よく知っていたはずのお話が、読み進めていくにつれて崩れていくのが面白いですね。

 崩れるだけに留まらず、死体が出てきます。

 さぁ、犯人は誰なのか。

 どんなトリックが隠されていたのか。

 

軽に読んで楽しめる感じが良かったです。

 よく知る童話がモチーフなので、すぐその世界に引き込まれるのも読みやすさの要因ですね。

 でも、必ず不穏な空気が流れ始めます。

 そういう本だとわかって読んでいるのですが、怪しい雰囲気が漂い始めるとワクワクします。

 

020年 本屋大賞の第1位となった作品です。

 一気に読んでしまいましたが、何とも表現しにくい複雑な気持ちになりました。

 この気持ちは何なんでしょうね。

 

は、この記事はもう何度も何度も書き直しています。

 

 何を書いても本当に言いたいことを表現できていない気がするのです。

 しばらく書くと、違うなと思って消します。

 また考えて書くのですが、やっぱり違う。

 何度書き直しても、途中で詰まってしまいます。

 とてもとても難しい本です。

 内容が理解できないのではなく、どんな言葉ならこの気持ちを伝えられるのかを悩むばかりで進まないのです。

 

末は、いわゆるハッピーエンドではありません。

 でも、バッドエンドでもありません。

 救われたような、でもやっぱり救いがないような、あるような。

 

の記事を読んでも、内容について全く伝わりませんね。

 伝わらないようにしました。

 ネタバレは勿論ですが、私がどう感じたかを書くのも違うと思ったのです。

 

味を持たれた方は、是非、事前情報はできるだけ入れずに読んで頂きたいです。

 

 

二国記エピソード5

 これまでとは少し毛色がかわり、4つの短編が収められています。

 表題にもなっている「丕緒の鳥」、「落照の獄」、「青条の蘭」、「風信」の4篇によって、王や麒麟、側近たちのような“雲の上の存在”ではなく、民衆の目線で描かれます。

 これまでのエピソードは権力上層の人々の立場で語られることが多く、民衆が登場しても、それはあくまでも脇役であって中心ではありませんでしたよね。

 生活や心情も描かれてはいましたが、それは表面的なものであって、密着したものではないことが多かったように思います。

 今エピソードでは、国を支える根幹である民が、傾き荒廃した国の中でも必死に生き抜こうとする様子が、生き生きと描かれています。

 ただ、民衆とは言っても主人公は国官であったりしますので、本当に位を持たない民とは少し違った立場ではありますが。

 しかし、民と共に生きる立場にある人々なので、その声がよく届き、よく見えるところにいるのです。

 

わゆる「その他大勢」ではなく、血の通った一人の人間として生活を営む人々。

 一人の力は弱いものです。

 国情や権力に翻弄されながらも、必死に生きているのです。

 家族を失ったり、希望を見失ったり、絶望の淵に追いやられることも多々ありますが、その中でもどうにか希望を見出して生きていますし、生きていかなければならないのです。

 

エピソードは、これまでのように“王や麒麟が大活躍!”“ハラハラドキドキの展開!”という雰囲気ではありません。

 様々な苦悩を持ちながらも、黙々と毎日の暮らしを営む民の心情が心に染み込んでくるような、そんなエピソードでした。

 慶東国の、陽子が王となる前後の時期が舞台になっているようですが、これまで以上に十二国の世界観が重厚に、かつ鮮やかになるような、そんな物語でした。

 

二国記エピソード4

 エピソード1で慶東国の王となった陽子の、国づくりの始まりの物語。

 

になってはみたものの、国のことをなど何も知らず、政治もわからずに途方に暮れてしまう陽子。

 何に対しても自信を持って当たることができず、周囲から諦めや呆れの溜息をつかれることが次第に怖くなってきます。

 しかし陽子はそこで腐りません。

 一度、城を出て野に下り、民の中で暮らすことで国の現状を知り、民の望む国とは何かを知ろうとします。

 孤児が住む里家に入り遠甫という師を得て、少しずつ国とは何か民とは何かを学んでいきますが、そんな中、先王の時代から不正によって虐げられている人々の存在を知ります。

 そんな人々の中には、蓬莱から流されて不遇な日々を送っていた鈴や、王としての道を外れたために斃された芳極国の王の娘、祥瓊もいました。

 2人とも、虐げられ辛い日々を送る中で心が荒み、自らを省みることもしません。

 鈴は、蓬莱から流されてきたという、同じ境遇であることだけで勝手な甘えと期待を寄せて景王と会うことを願います。

 しかし、一緒に旅をしてきた清秀を殺され、その責任も問えないような不正を蔓延らせている景王を恨むようになるのです。

 祥瓊は、王宮での自分の暮らしがどうやって成り立っているのかも知ろうとせず、ただただ贅沢な暮らしを謳歌するだけの生き方を続けてきました。

 王が斃され、祥瓊の王宮での暮らしが終わりを告げてもなお、なぜ贅沢な暮らしが許されていたのか、その代わりにどんな責任があるのかを理解できないままでした。

 しかし、人との出会いが二人を変えていきます。

 勝手な甘えと期待を寄せ、哀れな自分に酔っていた鈴は、清秀との出会いで変わります。

 清秀亡き後は、夕暉との出会いで自らの間違いに気付くのです。

 偶然に陽子の友である楽春と出会った祥瓊も、自分の無知を思い知ることになります。

 知らなかったでは済まされない、単なる自分の怠慢であったことを理解することで、景王への筋違いな妬みを恥じることとなります。

 様々な人との出会いを通じて、陽子、鈴、祥瓊の心が力強く成長していきます。

 

 

 

二国記エピソード3

 蓬莱では小松尚隆(なおたか)だった延王尚隆(しょうりゅう)。

 どのように延麒六太と出会い、どんな経緯で雁国の王(延王)になったのか。

 延王となった尚隆の元、雁の国は徐々に立ち直っていくのですが、そんな中、謀反が起きてしまいます。

 全ては民のためと、斡由は六太を人質にとり、自分を上帝の座に据えるよう要求するのですが、そこには本当の正義があるのか。

 国を統べるとはどういうことなのか。

 王とは、正義とは何なのか。

 荒廃した国に暮らす民は、何を求めているのか。

 

という身分を隠して城下に繰り出し、遊んでいるように見える尚隆。

 側近たちは会議にもほとんど顔を出さない尚隆を非難します。

 延麒六太までが、「あいつは莫迦だから」と言う始末。

 しかし尚隆には尚隆なりの思惑があり、城下に降りて民と交流する中で情報を集め、これからの国作りを考えていたのです。

 飄々として周囲を困惑させる尚隆ですが、実は人一倍、国を思い、民を思う熱い漢でした。

 斡由のもとに潜入し、動向を探っていた驪媚(りび)は、本当の尚隆を理解していた数少ない人物でした。

 気まぐれに見える人事が、いかに周到に考えられているか。

 これからの国作りを考える上で必要な人材を見抜く目。

 その人材が能力を存分に発揮できるように考えられた配置。

 飄々としているのは、ふざけているのではなく、肚を据えているから。

 それは、六太も理解しているはずだと諭します。

 残念ながら、驪媚は人質となっていた六太を逃したことで処刑されてしまいましたが、生き延びていれば非常に有能な側近となったでしょう。

 

れまでのエピソードで、尚隆の治世が非常に長いことが語られていましたが、このエピソードを読むと、それも納得です。

 延王、カッコイイですね。

 そして、斡由の最後は酷かったですね。