今回は介護記録の書き方について

紹介します

先日、施設内研修で行った際に

使用した内容ですが

以前に

福祉と介護研究所の

梅沢佳宏(うめざわよしひろ)さんに

講義をして頂いた内容を

そのまま職員に伝えました



はじめに

ケアを行うために、記録は必要不可欠な業務です。

記録の仕方次第で、利用者の状態が見えてくるとともに、職員同士で課題を共有でき、チームとしてケアの方向性を検討することもできます。


記録は守るためのもの

『守る』ものとしては、3つあります。

①介護の質を守る
介護記録から、目に見える具体的事実と目に見えない関わる人達の気持ちの変化。このふたつが文字として残り、伝えられていくので介護の質は守られます。

②法律を守る
私たちは介護で報酬を得ます。介護保険法を遵守しているから、介護報酬の請求をすることができます。施設で受け取る金額の1割は本人から、残りの9割は国民の税金と保険料です。国民のお金を財源にしている私たちは、県や市から調査をされることがあります。
その時に、どんなに『心温まるいい介護をしています』と口で言っても認めてもらえません。すべて記録で確認していきます。記録に不備があれば、私達の介護は認められず、時にお金を返したり、または営業停止になったりします。お年寄りだけではなく、社会に説明できる介護を、記録をもって示すことがプロの介護には求められています。

③自分の責任を守る
利用者が怪我をしたり、亡くなったりした際に、訴えられる場合があります。その際に、記録は重要な証拠となります。書かれていないことは、どんなに説明してもやっていないことと同じになってしまいます。介護者自身の医療責任、社会(説明)責任、ケアとしての責任を守るために記録は重要となります。


読む側の立場になって書く

介護記録には、バイタルサインや排泄の有無を記号や略式などを用いて記すチェック方式の様式と、ケース記録・経過記録のように文章で記す様式とがあります。記録といってもその種類によってそれぞれ書き方が異なります。そしてこれらは、施設内のスタッフ間の情報共有のための大事なツールとして活用される必要があります。
 施設には介護スタッフのほか、看護師やケアマネージャー、PT、OT、ST、相談員など多職種が働いています。そうしたスタッフがこの記録を通じて情報共有を図るので、曖昧な書き方であったり情報が詳しく書かれていなければ、チームケアとして支援の方向性を合わせていくことはできません。記録は、書く側の立場ではなく、読む側の立場に立って書かなくてはいけないということが分かってきます。
 つまり、読む側が、その記録を目にし、利用者情報をしっかり理解できることが求められるのです。


事実を書く

介護記録の大きな目的の一つに、『実践の積み重ねとその振り返り』があります。介護は『人』を相手にする仕事です。これは、毎日の利用者像を記録に積み重ね、1日や2日で見えてこなかった生活習慣やパーソナリティを見出すということです。そのためには、利用者のこれまでを把握し、今をしっかり見つめ、その先を予見することが重要です。ここに介護記録の必要性があります。
皆さんは、感想文のような書き方になってしまったことはないですか。これは利用者に対する個人的な想いや判断などを書いてしまうというものです。例えば『太郎さんはいつも怒りっぽい人だ』などです。
『おこりっぽい』というのは、記録を書いたスタッフの個人的な感情であって、他のスタッフはそのように感じていない場合があります。しかし、それを公文書であるケース記録に書いてしまうと、その言葉だけが独り歩きしてしまい、事実ではないことでも一定の影響力を持ってしまうのです。
ケース記録には、事実を書く、私情や所感は書かないことがルールになっています。


利用者を主語にして能動態で書く

ケース記録は文章で書かなければなりません。文章には『能動態』と『受動態』があるということをまず押さえておきましょう。
たとえば、『花子さんが昼食を食べた』。これは能動態の表現です。一方、受動態では、『昼食は花子さんによって食べられた』となります。
『~される』などの表現は、本人が主体的に行ったことの表現としては理解されない場合があります。介護は利用者主体ですから、能動態を使用します。その後で、『スタッフは~支援をしました』と書きます。分けて書くことで、スタッフが行ったこ介護の内容が明確に表現できます。


記号・略語は使用しない。専門用語は適切に使う。

スタッフの行ったケアの内容を記す記録では、専門用語や記号・略語は極力使用しないように注意しましょう。
ケース記録は情報開示の際に、利用者やその家族など専門知識を持たない方々が読むことが考えられます。その際、あまりにも専門用語が多いと、何が書いてあるのかさっぱり理解できないということになります。普段使い慣れている専門用語ですが、できるだけやさしい表現にするように注意しながら書いていきます。
たとえば、『右下肢に薬を塗布した』という記録があったとします。これは決して間違いではありません。しかし、右下肢とはどこのことでしょうか?右足の付け根から先までです。どこかおかしいと思いませんか。『どれだけたくさんの範囲に薬を塗ったのだろう』ということになってしまいます。
意味をしっかり確認し、適切な使い方で記録をしてほしいと思います。


修飾語を多用して、読み手が利用者を思い描けるように

『太郎さんは午後からレクに参加した』。これはよく目にする記録です。他にも、『太郎さんは午前中に入浴した』『夜は安眠していた』『食事全量摂取する』など。
これらに共通しているのは、『~した』と行為だけの記録になっているということです。つまり『誰かが何かをした』というだけの記録です。実践の積み重ねの場である介護記録は、ケアカンファレンスやサービス担当者会議の際に、検討材料になる重要な書類です。
たとえば、レクに参加した太郎さんは楽しかったのか、楽しくなかったのか。また、どんな様子で参加していたのか、何を行なったのか。これを書くのがケース記録です。
そこで、よりわかりやすい文章にするために修飾語を使用します。『笑顔で』『ニコニコ』などと入れるだけで、太郎さんがどんな様子でレクに参加しているかが格段に理解しやすくなるでしょう。


5W1Hを活用して、端的でわかりやすく

頭の中で1日の出来事を整理できたら、それを文章として記録しなければなりません。ここが大事なところです。
 そこで、簡単に文章にするために、5W1Hを使いたいと思います。5W1Hは皆さんご存知だと思いますが、必要な情報をスムーズに、簡単に文章にすることができ、作文が苦手な人には特に基本となります。頭の中で整理し、映像としてとらえた太郎さんの入浴介助場面の様子を、『いつ、どこで・・・』の順番に、書く要素を引っ張り出していくのです。そうすることで、主語が抜けてしまったり、いつ起こった出来事か不明瞭だったりということがなくなります。
 つまり、書く要素と順番を先に決めておくということです。介護記録における文章は、ダラダラと長い文章ではなく、出来るだけ短めに、端的に書くようにします。そのためには、場面展開が変ったら、すぐに句点『。』をつける癖をつけてください。


非言語コミュニケーションで得られた情報を文章でていねいに表現する!

文章には、話し言葉と書き言葉があるのを知っていますか。普段意識することなく行っている会話ですが、そこに気づくことはありませんか。マンガ本のセリフは文章ですが、何か省かれているものはありませんか。それが非言語コミュニケーションからの情報です。
私たちは話をしている相手の表情や声の大きさ、全体の雰囲気など、言葉の語意以外にもさまざまな情報をキャッチして、総合的に理解しています。利用者の観察においても、その方の様子をさまざまな点に着目して情報収集しているということです。マンガでは絵がその役割を果していますから、文字で詳しくその時の様子を表現しなくても、楽しそうな場面なのか、悲しい場面なのかが判るのです。
ところが書き言葉で書く必要がある介護記録は、それができません。そこで、楽しそうにしている利用者の表情やジャスチャー、他の利用者との会話のやり取りなどを、文章を使って書く必要があります。これを忘れると、相手に伝わらない意味不明な記録になってしまうのです。
介護記録では主語・述語・修飾語をもれなく書くようにします。利用者本人の記録ですから、主語は必要ないだろうと思うかもしれませんが、私たちが書いている文章は、小説でもマンガでもありません。介護記録に書いてある文章は、それ自体がすべてスタッフにとって必要な情報です。
 

食事場面での記録

ビフォー

『花子さんは、食欲がない様子だった。途中でスプーンを置いてしまった。』

※介護スタッフの所感・推測で『食欲がない様子だった』と書かないようにしましょう。『食欲がないようですね』と声掛けをするなど、事実を確認しておく必要があります。なぜ、途中でスプーンを置いてしまったのかが記録されていません。花子さんの状況をしっかり観察してみましょう。

アフター

『花子さんは体調・表情は良い。はじめは『食欲がない』と話していたが、配膳された昼食をゆっくり食べ始めた。しかし、イライラしてしまい、スプーンを置いてしまった。花子さんは、『うまく食べられないねえ』とスタッフに話した。』