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M&Aアドバイザーの日記

なかなか外部から知ることができないM&Aアドバイザーの仕事をリアルにお伝えします

仕事柄、たくさんのアドバイザーと対峙します。

アドバイザーと対峙する時の心境はけっこう緊張しています。


・クライアントの前で格好悪い姿を見せられません。クライアントから頼りないやつと思われる訳にはいきません。

・相手のアドバイザーになめられてはいきません。たいしたことやつだと思われると、それ以降の交渉において 

 常に「上から目線」で、対応されてしまいます。

・M&Aの案件は、通常、チームで取り組みます。したがってチームのメンバーの目も気になります。自分の上司

 が相手の言いなりなっていると部下に認識されるのは悲しいことです。次回以降の案件では、その部下達から 

 はもう協力してもらえなくなってしまうかもしれません。


ですので、たとえば相手方との価格交渉のミーティングにおいては、事前にかなり綿密に下調べをしておきます。相手方からどのような質問が出されても、その場ですぐに答えられるようにしておくのです。答えに窮することで、価格が大きく変わってしまうような交渉の「流れ」が形成されてしまうことは珍しくありません。



さて、最近、価格交渉のミーティングがありました。相手方のアドバイザーも同席します。私はセルサイドのアドバイザーの立場です。買い手である相手のアドバイザーのチームリーダーは、銀行から証券に転職し、現在は証券会社の中でM&Aのアドバイザリー業務をしているようです。私よりも一回りも年輩の方で、証券会社の執行役員の方です。今回が初顔合わせでした。


まず、私が、緊張しながらセルサイドとしての価格の認識を説明しました。「我々は、クライアントの企業価値を○○○億円だと考えております。なぜならば・・・」と一通りの説明をしました。


当方からの説明が終わり、次は、相手方からの質問等の局面です。

我々は、マクロ経済動向やクライアントの事業計画(BS、PL、キャッシュフロー計画等)の妥当性の検証、競合の戦略、事業計画を支える客観的なデータの入手、競合他社の株価形成(国内のみならず、海外の株式市場の動向も含む)、政府の規制の動向等、綿密な分析を行うことで、万全の対策をしていたつもりでした。


相手方アドバイザーの第一声は、なんと…、「(相手方アドバイザーのクライアント、つまり買い手企業の交渉責任者に対して、)あなたこの会社を買収したいんでしょ、それなら○○○億円を出しなさいよ。」と、こちらの言い値で買えとのアドバイスでした。


これには正直、とても驚きました。私が買い手のアドバイザーであったら、少しでも価格を下げるべく、事業計画の妥当性について、相当の質問をします。なぜですか、根拠は、計画の前提は、計画を実現できなかったらどうしますか・・・等々。


買い手アドバイザーのフィーのもらい方が成功報酬で、この買い手アドバイザーは顧客の利益を損ねてでも(つまり、顧客に高値掴みをさせてでも)、成功報酬を稼ぎたかったのかもしれません。

このミーティングで価格に関する「流れ」が形成され、その後、こちらの言い値での価格交渉が進展していきました。


これ以降、私は、このアドバイザーと対峙する時は、なんとなく「上から目線」になってしまう気がしています。


先日、クライアントであるX社の要請で取締役会へ出席し、助言を求められました。

テーマは「新しい親会社の選定について」です。


クライアントであるX社は、親会社であるY社が財務上の問題からその保有するX社の全株式(発行済み株式の50%程度)を売却する方針を打ち出したために、その譲り受け企業(=新たな親会社)を求めていました。


私が意見を求められたのは、親会社Y社の保有するX社持分50%の譲り受け企業として、A社とB社のどちらにしたら良いかという点です。

なお、X社は、現在の親会社であるY社から、株式の譲り受け先企業の選定を任されています。


X社

業界内の中堅企業であり、特殊技術を保有して利益率の高い製品を製造。株式公開企業。


Y社

多額の有利子負債を抱えていて財務基盤が脆弱。かつてX社の50%を買収したものの、シナジーが出ていない。株式公開企業であり、一般株主や機関投資家も多い。


A社

業界の最大手企業であり、財務基盤は盤石で規模も巨大。株式公開企業。業界内では汎用品を製造・販売しており、薄利多売。譲り受け価格としてすでに一株当たり55,000円を提示。


B社

クライアントであるX社と本社が同じ地元の企業。業界中堅でA社と比較して規模は小さい。付加価値の高い特殊製品を製造・販売しており、利益率が高い。一株当たり50,000円を提示。未上場企業。


当日のX社の取締役会の議論

・A社の提示価格の55,000円は望ましいが、A社の規模は大きくて、X社は飲み込まれてしまう。

・A社は、X社の株式を取得した直後に、X社の現取締役を解任してしまうのではないか?

・汎用品を製造しているA社は利益率が低く、X社にとっての業務上の魅力を感じない。

・B社は地元企業であり、社長以下、幹部の人間のことも良く知っていて安心できる。

・B社は付加価値の高い製品を作っており、コスト削減や技術協力などでX社との間でシナジー効果が多く期待できる。

・できることならB社に新しい親会社になってもらいたい。


さて、皆さんがアドバイザーであったら、X社の取締役会にどのような助言を行いますか?



ちなみに私の行った助言内容は以下のとおりです。

・B社とやる場合は55,000円以上の条件を引き出さなければならない。

・それが無理ならA社とすべき。

・50,000円のままB社とすすめるのはリスクが高い。仮に親会社であるY社が合意しても、X社の取締役がY社以の株主から訴えられる(55,000円と50,000円の差額X発行済み株式数の額を取締役の補償を求められる)可能性がある。

・Y社ですら合意してもらえない可能性が高い。

・B社を選ぶのは、X社取締役の保身のためではないか。


取締役は株主から経営を委任されており、その株主価値の維持ないし最大化が求められています。55,000円のオファーがあるのに、50,000円のオファーを受ける判断をした取締役は、本当に株主のために経営をしているといえるのでしょうか?より多くのシナジーが期待できるのであれば、B社はもっと提示価格を引き上げるべきではないでしょうか?


私の助言に対しては、X社の取締役から下記の反論がありました。

・当社にとって多くのシナジーが期待できるB社の方が望ましい。

・Y社もきっと理解してくれるかず?

・(ケンタロウさんは)本当に当社のアドバイザーなのか?


私と取締役会の間でしばらく議論が続きました。時に、互いに感情的にもなりました。愚直にものづくりをしてきたX社には、A社を優先しなければならない理由がどうしても理解してもらえませんでした。

議論は紛糾し、取締役会では結論が出せませんでした。


翌日、親会社であるY社に確認に行ったところ、「安い価格のオファーを受け入れることはできない。他より低い価格のオファーを受諾したら、当社の取締役会も株主から訴えられかねない。」との考えが示されました。

したがって最終的にX社は、若干の不本意さを示しつつも、A社を新親会社と想定して今後の交渉を詰めていく方針を出しました。


アドバイザーの助言内容はクライアントの意思決定に大きな影響を与えるのみならず、クライアント企業の将来にも大きな影響を与えます。したがってアドバイスの内容には最新の注意を払う必要がありまし、その内容が適切かどうかについては常に不安がつきまといます。

アドバイスするにあたっての基本的な原則は、クライアント企業の希望を実現することではなく、実現するために満たさなければならない条件を示してあげることだと思っています。それらを満たすことで、取締役としての株主に対する責任をまっとうすることになると思っています。


今回は、取締役の負っている基本的な法的責任の観点から上記のアドバイスを行いました。


交渉は現在も進行中です。X社はA社の子会社になることでより良い将来が開かれるのでしょうか?私のアドバイスの内容は適切だったのでしょうか?