投資のプロ? | M&Aアドバイザーの日記

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少し昔のですが、「投資のプロ」を自認するある企業との案件のエピソードです。


我々は買い手のアドバイザーでした。売り手は「投資のプロ」を自認する会社で、売却対象は当該「投資のプロ」の投資対象の会社です。売り手は「投資のプロ」なので、アドバイザーは起用しておりませんでした。


両社間の協議を経て、何とか基本的な条件について、初期的な(=デューデリジェンス前の)法的拘束力のない合意を取り交わすことができました。


その上で、我々が買い手との間でデューデリジェンスの方針や準備を進めていた時のことです。「投資のプロ」の会社が、至急ミーティングを持ちたいという連絡をしてきました。


何のことかと不安を覚えつつ、ミーティングに臨みました。我々が「投資のプロ」から受けた相談は下記の通りです。


当該投資対象会社の全社員に売却の交渉していることを伝えた。ただし相手がどこかは伝えていない。

その伝えた結果として、従業員が動揺し、交渉相手がどこか、雇用は維持されるのか、会社組織は残るのか、などの質問が連日マネジメントに寄せられている。また、不安を感じた優秀な幹部社員の一部が転職活動をしている。それらの結果として通常のビジネスに支障をきたしている、等々。


そして買い手である我々に対して、社名を残す、雇用を維持する、会社組織を残す(=吸収合併ではない)等のことを認めて欲しいと泣きを入れてきたのです。それらを認めてくれれば、従業員の動揺が治まり、通常の業務を継続できるということを訴えてきました。


売却対象・投資対象の会社や事業の価値を「高める」とか「維持する」ことは、売り手側の取締役の当然の責務です。また社名を残すとか、雇用を維持するとかいうことは、売却対象会社や事業の価値に直接的に影響します。

例えば、売却対象会社の雇用が過剰なのに維持することを条件とするならば、当然に収益性が低下するので、売却対象会社の評価は下がります。


売り手サイドの取締役が、売却対象企業もしくは事業の価値が下がるようなことをするとか、また問題に直面した際に、交渉相手である買い手側に泣きを入れることは、きわめて基礎的な誤りであって「投資のプロ」とは思えません。


ちなみに、我々が売り手のアドバイザーであれば、案件の途中に中途半端な情報(=「売却するけど相手は未定」)を売却対象会社の全従業員に公表するような愚の骨頂みたいなことは絶対にさせません。

なぜならば、従業員の動揺を招き、対象会社の価値が劇的に低下しかねないならです。

当然ですが、そんなことをして株主の利益を損ねるのであれば、善管注意義務違反で株主から訴えられる可能性も生じかねません。


「投資のプロ」であっても、このようなきわめて初期的、常識的な稚拙なミスでディールを失ってしまうケースはけっこう多いのです。冷静に考えれば、専門的な議論はなく、「常識」で判断すれば足りる話でもあるにも関わらず。