今年は…

毎年8月9日に女川町で行われている

高村光太郎祭に行くことができませんでした。

コロナの影響です。

ここ何年か、この顕彰祭で詩の朗読をしていて、

今年も勝手に読む詩を決めていたのですが、

せっかくなので文字打ちしてみました。

(『高村光太郎詩集』新潮文庫より)

 

火星が出てゐる

火星が出てゐる。

要するにどうすればいいか、といふ問は、
折角たどつた思索の道を初にかへす。
要するにどうでもいいのか。
否、否、無限大に否。
待つがいい、さうして第一の力を以て、
そんな問に急ぐお前の弱さを滅ぼすがいい。
予約された結果を思ふのは卑しい。
正しい原因に生きる事、
それのみが浄い。
お前の心を更にゆすぶり返す為には、
もう一度頭を高くあげて、
この寝静まつた暗い駒込台の真上に光る
あの大きな、まつかな星を見るがいい。

火星が出てゐる。

木枯が皂角子(さいかち)の実をからから鳴らす。
犬がさかつて狂奔する。
落葉を踏んで
藪を出れば
崖。

火星が出てゐる。

おれは知らない、
人間が何をせねばならないかを。
おれは知らない、
人間が何を得ようとすべきかを。
おれは思ふ、
人間が天然の一辺であり得る事を。
おれは感ずる、
人間が無に等しい故に大である事を。
ああ、おれは身ぶるひする、
無に等しい事のたのもしさよ。
無をさへ滅した
必然の瀰漫(びまん)よ。

火星が出てゐる。

天がうしろに廻転する。
無数の遠い世界が登つて来る。
おれはもう昔の詩人のやうに、
天使のまたたきをその中に見ない。
おれはただ聞く、
深いエエテルの波のやうなものを。
さうしてただ、
世界が止め度なく美しい。
見知らぬものだらけな不気味な美が
ひしひしとおれに迫る。

火星が出てゐる。

 

 

写真は実家上空に現れた火星。

約300秒開放してはいいけれど、

やっぱり手ぶれ。

それに5分もすると星は回っていくものですね。

やっぱ重めの三脚とリモコンを調達せねば。

 

今夜は湿度が高くて火星、木星、土星くらいしか見えないなー

なんて思っていたら、

目が慣れてくると恒星もきらめいているようです。

 

高村光太郎さんがこの詩にどんな思いを込めたかは、

まるではかりしれないことですし、

若干季節感も違いますが、

私にとって火星は和合の星であり、信念に生きる指標です。

 

エーテルの波、

これはまるでひもの振動ですね。

この世の全てを描く波動。

その波間に自分が描く絵は、

一体どんなものになるのでしょうか。

 

崖に出る辺りは、

タロットの愚者のカードを彷彿させますね。

道は未知であり、無限の可能性があるというものです。

 

調和だけでない、

不和や不協和音がもたらす不穏で不気味な美。

その和合。

歓喜天様にお参りしてきたのでした。

 

火星は今、

ホームグラウンドの牡羊座に在宮し、

間もなく逆行を開始します。

 

どんな自分がこの先訪れるのか、

少し見つめ直す時期のようです。