「羊の木」 | MCNP-media cross network premium/RENSA

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「羊の木」(2017/アスミック・エース)

 

 監督:吉田大八

 原作:山上たつひこ いがらしみきお

 脚本:香川まさひと

 

 錦戸亮 木村文乃 北村一輝 優香 市川実日子 永澤紳吾

 田中泯 松田龍平 中村有志 安藤玉恵 細田善彦 松尾諭

 

 おすすめ度…★★★★☆ 満足度…★★★★☆

 

 

主人公月末とその友人須藤に都会暮らしから帰郷してきた文を加えた同級生3人がバンドの練習をするシーン。

月末のベースと須藤のドラムが刻むリズムに抗うかのごとく文が奏でるギターの激しい音色が観るものの心の不安を掻き立てる。

 

やがてひとつの事件が起こった瞬間、すべての緊張の糸が弾けとんだかのようにそのギターの音が不協和音となって劇場のスピーカーを震わせる。

ほんとに気分も不快になる。

 

うまいなと思った。

 

過疎に直面する北陸の魚深市に6人の男女の仮出所の受刑者が一市民として移住してくる。

彼らはそれぞれの事情により人を殺めた元殺人犯で、受刑者の増加と過疎対策を同時に解決するための国による極秘プロジェクトだった。

 

その事実を知るのは担当を任された月末とその上司のみのはずだったが、後輩職員田代が上司のPCを閲覧して事実を知ってしまう。

 

田代の好奇心によって計画の上っ面だけしか知らされていなかった月末も彼ら6人の過去を知ることになる。


当初何事もなく平穏な日々が続くと思っていた月末だが、近くに迫った「のろろ祭り」の準備もあって何かとせわしない日々の中で、次第に6人と市民との関係に歪みが生まれていることに気づかなかった。

 

6人は互いに同じ境遇の移住者がいることを知らされていなかったが、宅配業者の宮越に、同じ犯罪者の臭いを感じ取った釣り船屋の杉山が接近する。

 

元やくざの大野はクリーニング店で、理髪店で働く福元はそれぞれ雇用主との信頼を得ていくが、清掃員となった清美は他と交わることなく生活することを望み、介護施設で働く理江子はデイサービスに通う月末の父親と急接近する。

 

ある日、宮越を訪ねて一人の男がやってくる。

彼は息子を死に追いやった宮越への復讐に駆られていた。

そんな二人の再会が引き金となり、月末と文も巻き込んで静かな港町に大きな波紋が広がっていく。

 

松田龍平演じる宮越が醸し出す無邪気な狂気とでもいうべき危うさは、これまでの彼の役どころの延長線にある。

ただ「散歩する侵略者」も含めてあまりにも類型的な演技パターンが続くのでそろそろ別の一面も見てみたい気がした。

 

移住事業の担当者となったばかりに様々な事件に巻き込まれていく市役所職員月末を演じる錦戸亮もまた、いつか見たような雰囲気のままでちょっと味気ないし、やはり「県庁おもてなし課」がそのままダブってしまった。

 

ここのところ髪を切ってキャリアウーマン寄りの役どころが多くなっている木村文乃が、まだロングヘアの頃の撮影だったようで、改めて彼女は髪が長い方がいいように思う。

 

一方で恋愛体質の女を演じた優香がいい味を出していたり、理髪店で働く気弱な福元役の水澤紳吾がアルコールが入ると豹変するとか、それぞれの秘められた狂気を演じるバイプレイヤーも見どころ。

 

けして観て楽しい映画ではないけれど、文字通り人間の内面を抉り取るような吉田大八監督の手腕は今回も素晴らしい。

 

 ユナイテッドシネマ前橋 スクリーン2