「こんなのフェアじゃない。僕が君にプレゼント

を渡した。君は喜んだ。それでいいじゃないか。僕のシナリオ通りに、きちんとやってくれよ。」

 そう言った僕の顔を見つめる彼女の今の心境は、目が全てを語っていた。彼女が声に出さなくても、最も表情にすら出していないのだが。僕は、人の声のトーンや些細な目の動き、瞬きの感覚、手の動き、仕草、笑い方(笑い方は特に)で人の精神状態の大体を把握することができる。

多分、僕の周りの環境や僕の性格がそうさせたのだ。多分。

「君が今、心の中で本当に僕のことを軽蔑していることは分かっているし、そもそも君がなぜ僕に惚れて、そして、なんで今このタイミングで別れ話をしているのか。多分こうだ。例えば、、、。」

彼女が僕の話を遮る。

「わかったような口をきかないで。」

僕は、自分の呼吸が荒くなるような感覚になった。声を出そうとすると、途端に息の使い方が下手になる。口が渇いてきたので、ドリンクバーのコーラで舌を濡らす。

「例えば、容姿の端麗な人も近くで見つめると、鼻毛の剃り跡や、口元の産毛がくっきりと目に映ってしまう。同性したら、その人が入った後のトイレの匂いも嗅ぐし、セックスをしたらその人の、ナニをみる。意外と足が短かったり腹が出ていたり。君は僕の外面に惚れたってことかい?」

「気持ち悪い話をしないで。」

彼女は、ぼくの感が当たっていないのなら否定するはず。

「本気かい?君は安い恋愛映画見たいな、漂白された恋が本当に続くと思っているのかい?」

彼女の目つきが変わった。いや目だけじゃない。息の使い方。表情筋が強張ってきた。

「そういうところよ。」

彼女は続けた。

「あなたのそういう異常者的なその感じ。もう耐えられない。」

彼女はそう言って開かれたプレゼントの箱をテーブルの上に差し出した。

箱の中には猫の手が入っていた。丁度関節から切り取った程の猫の手だ。

彼女は猫が大好きだった。特に猫の肉球は一日中触っていても飽きないと言っていたのだ。だから、プレゼントにして渡したのだ。

勿論本物じゃない。

紺色と白の羊毛フェルトを混毛して、針金を真に周りに固めのシリコンを貼る。その上に混ぜた羊毛を貼り付けて張りでなじませる。

爪はプラスチックの素材を形に作り接着剤で付ける。肉球は限りなく本物に近くしたかったので、別のシリコンを調合して作る。これが難しくて柔らかすぎるとベタベタしてしまう。最終的に、明太子の皮を貼り付けて乾燥させたら、妥協ではあるがベストな物になった。

彼女が喜ぶ顔が見たかった僕にとって、彼女の反応は心外であった。

「あなたは、私には理解ができない。」

彼女が言うので僕は

「元々僕らは共通点が少ないのだから、しょうがないじゃないか。」

と言った。

「さよなら。」

と彼女が言って席を立ったので僕は何かを言おうとしたが辞めた。

出て行く彼女を僕は止めなかった。

レジまで行った彼女は戻ってきたので僕はさっき言おうとして辞めた言葉を投げる。

「本当は、お互い理解してたんだよな。」

「さよなら」

彼女はテーブルの上に万札を一枚置いて出て行った。

今思い返すと、僕らには一つ共通点がる。

どちらも、芸術家になると言う夢があった。

僕は夢が叶った。彼女は都内の証券会社のキャリアウーマン。

僕は中卒。彼女は。。。

もう一度は、彼女は戻って来ることはなかった。