
桜舞い散る頃
白無垢の花嫁
嫁入り支度
紅さされし唇
血赤珊瑚のようであった
父の決めた縁談なれど断れる訳もなく
それでも、胸に想うは龍神の瞳
龍神に見初められし娘
初めは、恐怖と不安であった
でも、龍神の瞳に、
凍てつく氷原より
冷たき孤独を見て取って
昼夜の別なく想うは、龍の瞳
白無垢の花嫁
周囲の手を振りほどき
桜吹雪の道をひたすら走りゆく
桜の花びら口に入るの気にとめず
息切らせ想い人に向かう
その目は、血赤珊瑚の如く燃え
百姓達は、龍神に魅入られし花嫁と囁いた
鼻緒が切れて
一時足を止め空を仰ぐ
今生見るは最期なれば、空の青に涙す
裸足で再び走りゆく花嫁の姿を
二度と見ることはなかった
浜辺に
青空を懐かしむような
血赤珊瑚の簪が
寄せ返す波にうたれてる…
