『時をかける少女』『サマーウォーズ』の監督が手がけた、初の原作小説ひらめき電球



『おおかみこどもの雨と雪』細田守



「私が好きになった人は、“おおかみおとこ”でした」―


大学生の花は、ある日人間の姿で暮らす“おおかみおとこ”に恋をした

ふたりは愛しあい、そして新しい命を授かった

〈雪〉と〈雨〉と名付けられた姉弟は、人間とおおかみのふたつの顔を持つ“おおかみこども”だった

そのことを隠しながら、家族4人は都会の片隅でひっそりと暮らし始める


つつましくも幸せな毎日
しかし、永遠に続くと思われた日々は、父である“おおかみおとこ”の死によって突然奪われてしまう―


残された花はうちひしがれながらも“2人をちゃんと育てる”と心に誓う

そして子供たちが将来“人間かおおかみか”どちらでも選べるように、都会の人の目を離れて、厳しくも豊かな自然に囲まれた田舎町に移り住むことを決意する―



“「いい?雪と雨が、おおかみこどもだっていうのは、わたしたちだけの秘密」

「うん!」「うん」

「もしも急におおかみになったら、ほかの人はみんな、とてもびっくりする」

「びっくり!」「びっくり」

「だから、ほかの人の前でおおかみになっちゃダメ。ね?約束」

「わかった!」「わかった」

「それとね、もうひとつ。もしも山で動物に逢ったら、人間のように偉そうにしちゃダメ」

「なんで?」

「お父さんはおおかみでもあったの。そんなことをしたら、きっとお父さんが悲しむよ」

「わかった!」「わかった」”





“「おおかみってどうしていつも悪者なの?」

「悪者って…、絵本?」

「みんなに嫌われて、最後には殺される。だったら僕…、おおかみはイヤだ」

「…そうね。でもおかあさんは、おおかみが好きよ。みんながおおかみを嫌っても、おかあさんだけは、おおかみの味方だから」”





“「いいから学校来なさいよ」

「…嫌だ」

「なんで」

「おおかみだから」

「人間でしょ」

「おおかみだろ」

「―もう絶対おおかみにならないって決めたの!」”





それぞれの道を歩き出した雪と雨に、選択の時が迫っていた

人間として生きるのか、それともおおかみとして生きるのか―


そして花にも決断の時が、迫っていた

2人の“おおかみこども”の選択をどのように見守るのか―




この作品は、1人の女性が恋愛・結婚・出産・子育てを通じて成長する姿と
その子供たちが、誕生から自分の生きる道を見つけて自立する過程、の物語


人生の様々な局面において、親として、あるいは子として、とのような選択をするのか

そんな誰しもが直面するリアルで普遍的なテーマを、“おおかみおとこ”と人間の間に生まれる“おおかみこども”というファンタジックな設定を通して描いている


ファンタジックでリアル、というのは細田監督作品の持ち味であり
どこにでもいそうな、でも少し特別な、等身大の主人公たちに我々は共感する―


今やジブリ・宮崎駿の最大のライバルと言われる、細田監督の真骨頂―


映画と併せてぜひ得意げ



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『このミステリーがすごい!2012年度版』第一位を獲得した、一気読み必至の超弩級エンターテイメント作品ひらめき電球


『ジェノサイド』高野和明


急死したはずの父親から送られてきた一通のメール
それがすべての発端だった―

創薬化学を専攻する大学生・古賀研人は、その不可解な遺書を手掛かりに、隠されていた私設実験室に辿り着く

ウィルス学者だった父は、そこで何を研究しようとしてたのか―


同じ頃、特殊部隊出身の傭兵・ジョナサン・イエーガーは、難病に冒された息子の治療費を稼ぐため、ある極秘の依頼を引き受けた

暗殺任務と思しき詳細不明の作戦
事前に明かされたのは「人類全体に奉仕する仕事」ということだけ

しかしその裏には、大国のある計画が隠されていた

イエーガーは暗殺チームの一員となり、戦争状態にあるコンゴのジャングル地帯に潜入する―


父の遺志を継ぐ大学生と
一人息子のために戦い続ける傭兵

決して交わるはずのない二人の人生が交錯する時、驚愕の真実が明らかになる


それはアメリカ情報機関が察知した、人類絶滅の危機であった―



“全ての生物種の中で、人間だけが同種間の大量殺戮(ジェノサイド)を行う唯一の動物であり、それがヒトという生き物の定義だ”


“人類絶滅の可能性
アフリカに新種の生物の出現”


“知的にも道徳的にも劣った生物種は、より高度な知性によって殺される”


“本研究についてはお前一人で行え、誰にも言うな
ただし、もしも身の危険を感じるような事態が起こったら、直ちに投げ出して構わない”


“「最悪の場合、警察に捕まるか、日本にいられなくなりかもしれない」
「最良の場合は?」
「全世界で、十万人の子供の命を救える」”


“この生き物の最大の特徴は、一目見ただけで未知の生物だと分かる
何も考えるな、見つけ次第直ちに殺せ
ガーディアン作戦における最優先の攻撃目標だ”


“ここにはウィルス感染者などいない!
ガーディアン作戦は欺瞞だ!
君たちは殺される!アメリカの大統領府によって君たちは全員殺される!”


“私たちの最終目的地は日本だ”





この物語はフィクションであるが、決して有り得ないものとしてではなく
「そうであったかもしれない現実」または「そうなるかもしれない現実」としてのリアリティによって構築されている


タイトルの『大量殺戮(ジェノサイド)』とは、“殺戮”することを主題としている訳ではなく
“殺戮”するもしないも、人間の在り方次第である、ということが主題なのである―


ネットを介して結ばれた二つの地域での、それぞれの戦いをスピーディーに描きながら、世界を震撼させる驚くべき真相を浮かび上がらせる


舞台は日本、アメリカ、アフリカ、ヨーロッパと全世界に及び、しかも場面は目まぐるしく展開する


その空間的スケールの大きさと、スリリングに設定されたタイムリミット


物語の規模は大きくとも細部まで綿密に組み立てられ、実存する最先端の軍事資材・通信機器を用いている点など、まさにリアルタイムを描いたフィクションなのである―



“守るべきもののために戦う覚悟はあるか”


創薬に命を懸ける日本の大学生
難病の息子を想うアメリカの傭兵


これは二組の父と子の“絆”の物語でもある―



第2回山田風太郎賞、第65回日本推理作家協会賞受賞―



ハリウッド顔負けのアクションシーンと、小説ならではの緻密な描写

ラストで待ち受ける、衝撃と感動の嵐―

刮目すべき傑作エンターテイメント小説をぜひ得意げ



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〈ヒートアイランド〉シリーズであると同時に、著者のデビュー作『午前三時のルースター』の続編にもあたる、記念碑的作品ひらめき電球



『ボーダー〈ヒートアイランドⅣ〉』垣根涼介



渋谷でのあの事件(『ヒートアイランド』)から3年―


チームを解散し別の道を歩み始め、東大生になったカオルと、裏の世界に進んだアキ

ふたりの歩む道は、もう二度と交わることはないはずだった
彼らの名を騙る連中が現れるまでは―


“おれたちの過去は、たとえそれがダミーのようなものであれ、どんな形でも絶対に蘇らせてはならない

永遠に封印したはずの事実
しかし、それが掘り起こされる可能性が微塵でもあるのなら、そいつらは葬らなくてはいけない”



ある日、カオルは級友の慎一郎が見に行ったイベントの話を聞いて愕然とする

それは“ファイトパーティ”を模したもので、あろうことか主催者は〈雅〉の名を騙っていたのだ!?


自分たちの過去が暴かれることを恐れ、カオルはアキに接触するが

3年という年月がふたりの間に微妙な溝を作り、柿沼や桃井と行動を共にするアキに対して反発するカオル
そこには別々の道を歩んできた、互いの人生の境界が確実に存在していた…


やがて事態は思わぬ方向へ!?―



“課税される仕事と、課税されない裏稼業
向こうの世界と、こちら側の世界
そして、それぞれの世界が精神に落とす光と影
つきつめてしまえば、そこにボーダーはある”―



これまでのシリーズ続編(『ギャングスター・レッスン』『サウダージ』)は、アキ以外の〈雅〉メンバーが登場することはなかったが、今回初めて〈雅〉No.2のカオルの“その後”をメインに物語が描かれている

さらにまさかの『午前三時のルースター』の慎一郎が登場し、垣根ファンには堪らない作品になっている

『午前三時~』を読んでいなくても充分楽しめるが、より深く作品を楽しむ為には、ぜひ『午前三時~』を事前に読むことをお勧めする





ひりつく感覚
ビートのきいた展開
青春クライム・ノベルの金字塔をぜひ得意げ



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