『ハードボイルド・エッグ』の作者が贈る、ほのぼのサバイバル小説ひらめき電球


『オイアウエ漂流記』荻原浩


南太平洋の上空で悪天候により小型飛行機が墜落し、乗客は小さな無人島に漂着する

生存者は観光地開発の下見に出張中の上司と部下、その取引先スポンサー企業のバカ御曹司、成田離婚寸前の新婚夫婦、ボケかけたお爺ちゃんと孫の少年、身元不明のあやしい外国人、そして墜落で亡くなった機長の飼い犬―


外界との連絡手段もなく、救助の手は差し伸べられず、彼らは孤島でサバイバル生活を送らざるを得なくなる

初めはてんでバラバラな彼らだったが、ただひとつ共通している“生きたい”という気持ちで、互いに協力し合うようになる


とは言え、生きるための糧を得るには技術が必要であり、火のおこし方や獲物の捕り方捌き方、試行錯誤の末に知恵を絞り、次第にサバイバル生活に順応していく―


ココナッツ、マンゴー、熱帯魚、ヤシガニと“生きるため”必死に食糧を調達する彼らだったが、さすがにコウモリやウミガメといった大型動物を捕獲するに到り、動物愛護論で揉め始める…

そんな彼らに対して、前半ではただのお荷物的存在であった“パワハラ部長”が、突然獲物に刃物を切りつけ、こう言い放つ―


“お前ら、こいつを食うんだろ。食うためには、殺さなくちゃならないだろが。文句があるならスーパーに行って精肉パックを買ってこい”―


“俺の実家は農家だ。家で鷄を飼ってた。俺や姉貴や弟や妹たちは、一羽一羽に名前をつけていた。
でも、それも雄ならとさかが生え揃うまで、雌も卵が産める間だけ、だ。
ピースケもマメキチもコッコも、ある日突然いなくなる。いなくなった日の夕飯は鳥鍋だ。
しょうがない。俺たちは自分の家の食糧に勝手に名前をつけてただけだからな。
覚えとけ。肉屋に並んでる肉の賞味期限ってのは、鷄や豚や牛の初七日の日取りみたいなもんだってことを”




この物語には、強烈なリーダーシップを持つ主人公も救いようのない悪人も登場しないし、派手なアクションも目眩くラブロマンスもない

そこに描かれているのは、あくまでも“普通”で“平凡”な人々であり、そんな彼らの極限状態におけるペーソス溢れる“人間讃歌”である―


タイトルにある『オイアウエ』とはトンガ語で

“日本語に訳すとしたら、「おお」、「ああ」、「いやはや」、あるいは「えっ」、「うわっ」だろうか。喜怒哀楽すべてを表す言葉らしい。嬉しい時も、悲しい時も、トンガの人々は、まずこう言うのだ。オイアウエ。”



絶体絶命の中にこそ沸き上がる、人間のガッツとユーモアを、作者特有のホンワカとした文章で綴るサバイバル・エンターテイメントをぜひ得意げ



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