『模倣犯』から9年―きわめて重要な役回りを演じたフリーライター前畑滋子、再び事件の渦中にひらめき電球



『楽園』宮部みゆき



未曾有の連続誘拐殺人事件(『模倣犯』事件)から9年
取材者として肉薄した前畑滋子は、稀代の愉快犯ピースに手酷く翻弄されながら、決定的な局面で辛くも一矢を報いて事件を解決へと導いた活躍を見せたが、意外にも滋子は事件に関する著作をまとめることもなく、それどころか5年近くライター業そのものからも遠ざかって、失意の日々を過ごしていた―


被害者と加害者双方の肉親たちと深く関わった滋子自身が、事件によって深刻なダメージを被り、敗北感や自責の念に苛まれていたのである

下町人情の権化のごとき夫・昭二の理解と励ましに後押しされてライター業を再開し、3年前から小さな編集プロダクションに勤務するようになっていた滋子のもとに、ある日奇妙な依頼が舞い込んだ


中年女性・萩谷敏子は、交通事故死した愛児の遺品だというノートブックを取り出し、滋子に示す

敏子は、12歳で死んだ息子・等が“超能力者”で、脳裡に浮かぶ過去や未来の光景をノートに描き残していたと信じており、果たして本当に等が“超能力”を有していたのか、真実を知りたいというものだった


一途に亡き子を偲ぶ敏子の心情と温かな人柄にほだされた滋子は、困惑しながらも、等が遺した絵の謎を調査するという依頼を引き受ける

そしてその過程で、もうひとりの“亡き子”―両親によって密かに殺害され、16年のあいだ自宅の床下に埋められていた少女・土井崎茜をめぐる悲痛な事件と、否応なく関わってゆくのだった―


“あたしは知りたい。謎を解きたい。
そんな資格なんかない。権利もない。
同じようなことをして、手痛い失敗をした過去もある。
なのに、あたしはまだ懲りてない”


超能力という一見荒唐無稽な話に、滋子は『模倣犯』事件の傷を抱えたままのめり込んでいく

誰のためでもなく、自分自身のために―



本作は『模倣犯』の続篇というよりも、むしろスピンオフ的な作品であり、一審で死刑判決を受けて控訴中のピースをはじめ、秋津刑事や夫の昭二など、『模倣犯』に登場した一部の人物のその後については多少なりとも言及されているとはいえ、そこに物語の主点を置いているわけではない


本作で意図して描かれているのは“喪の仕事”であり
“残された者が死者を悼み、その記憶を整理してゆくことで、喪失の傷を癒やし、愛する者の死を認めてゆく過程”である―



二組の親子の愛と憎、鎮魂の情をたぐり、困難な真相究明の仕事に粘り強く携わることによって、滋子もまた、9年前の事件で負わされた心の深傷を癒やし、再起への途をゆっくりと、しかし着実に歩み出してゆく

そして、その果てにたどり着いた、驚愕の結末

それは人が求めた『楽園』だったのだろうか―



進化し続ける作家・宮部みゆきの最高到達点とも言える『模倣犯』における、鎮魂と再生の物語をぜひ得意げ



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