総計4,883ページ、執筆期間10年、全100回にわたる連載を経てついに完結ひらめき電球



『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』安彦良和
(原案・矢立肇 富野由悠季 メカニックデザイン・大河原邦男)



作者・安彦良和は“ファーストガンダム”とも呼ばれる原作アニメ『機動戦士ガンダム』に、作画ディレクター及び、キャラクターデザインとして深く関わっていた

自身数多くの漫画作品も手掛けた実績や経験を元に、“ガンダム”という半ば神話化した物語を再構築することを試みたのがこの作品である―


本作はTVアニメ版をベースに、設定の見直しや外伝的なエピソードの追加など、独自のアレンジを施している一方で、見せ場であったシーンや決め台詞なども多く生かされ登場している


また、現在の視点からすると不自然であったり、現実世界の変化に合わなくなった設定などの変更や、新規キャラクターの追加、既存キャラクターの設定見直しも行われている―


執筆の経緯について、本作は当初、サンライズ(製作会社)によって、海外向けに『機動戦士ガンダム』を紹介するためのコンテンツとして企画されたものであったが、作者曰く
「そもそもガンダムという物語は、自分が関わったとはいっても、富野さんの作品だという意識が強かった」ため、この企画に難色を示していた

ところが、富野氏本人から「自分も楽しみにしているから好きにアレンジして欲しい」と言われたことで、漸く本作の執筆を決めた


本作は初回から、一気に100ページを超える分量を掲載するというスタイルで企画された
それもこの100ページが終わってなお、アムロがガンダムに乗り込んですらいないという程の分量であった
しかし、これでは既存の漫画誌には連載が出来ないという事情から、ガンダムを専門とする雑誌『ガンダムエース』が創刊されたのである

当初は季刊であったが、その後ペースが若干上がり隔月刊となり、ガンダム関係のコンテンツが十分揃った時点で月刊化された

ちなみに連載開始時のキャッチコピーは
“誰もが待っていた、これが本当のガンダムだ”
である―



作画に関しては、キャラクター・メカニック共に、様々なアレンジが施されおり、その中でキャラクターの年齢も全体的に引き上げられている

これはアニメ放映当時、子供向け番組において、二十歳を過ぎたキャラクターは総じて“おじさん”扱いであり、人物のほとんどを十代にしか設定できなかったことから見直しされたものである

また各モビルスーツは、戦車などの延長線上の兵器として、全体的に低重心気味に太めでがっしりとした体形で描かれている―



物語は、アニメ版の流れをなぞりつつ、今まで描かれなかったシャアやセイラの過去編やルウム戦役編などを織り交ぜ、ホワイトベースの航路変更に伴って、新たな解釈で描かれたオデッサ編、ジャブロー編と続き、また映像がベースとなる宇宙編へと展開される


そしてクライマックス、傷ついたアムロが宇宙要塞ア・バオア・クーで絶望を乗り越えて脱出し、ホワイトベースの仲間のもとへと辿り着いていくラストシーン…

アニメとしては何度観たか分からない名場面が、あらためて安彦良和の手によって繊細なタッチで描かれ、感動的に締め括られていく

そこに漂う情緒は、確かに当時そこに存在していた感慨を再現しており、かつての『ガンダム』の観客のひとりならば感無量の瞬間のはずである―



アニメ版よりも物語を深く掘り下げて描かれた、人間模様と歴史背景


作者が80年代の末にアニメを離れて漫画家専業となって10年余り、近代、中世、古代と時制を問わず、そこにある人の生きざまを見つめ、人の営みの集積を描いてきた作家として、心中に堆積した“史観”で、もう一度この物語を見つめ直す視点が、『ガンダム』という作品の本質を損なわずに、さらなる厚みをつけたのであろう―



“起源”“源泉”を意味する『THE ORIGIN』


30年前に放映されて以来、紡がれてきた『ガンダム』という名の歴史

その最も古くて新しい“起源”のフィナーレをぜひ得意げ


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