写真を撮り現像することを趣味にしています。


思い返せば、初めて自分のカメラを購入した あの日から、30年近く。

その間 数台の買い換えをしながら、ずっとCANON機を使わせてもらっている。


高校を卒業し、アルバイトが出来るようになり 、ある程度の貯金出来た時、自分のカメラが欲しくなった。

といっても、親が趣味にしていたのでも、周りの友人達が楽しんでいたわけでもなく、何故か ふと 写真に興味が湧き、近くの カメラ屋さんに入ってみた。


店内には誰もおらず、当時の売れ筋商品と思われる 数台のカメラを低めの棚に並べ、主な業務は 馴染み客のフィルム現像なのだろうと思われる様な 小さなお店だったのだけど、並んでいる数は少なくても 存在感のある一眼レフカメラが とても光っていて 厳かな佇まいで、私を見下ろしている様子に チビッ子の私は緊張した。


その時の私は 一眼レフの存在は知っているけど 程度の知識だったので、そこに並んでいる 台数が 少ないのかどうかすら、その時は分かっていなかったのですが。


店のセンサーか何かに 来客の反応があったのか、おじさんが店の奥から「いらっしゃいませ」と出てきた。


 とにかく 写真が撮りたくなって、と 熱くもなく冷めてもいない 微妙な語り口調の私を、今思えば かなり優しく対応してもらったな、と思う。


初めてなら これが良いよ、と EOS kissシリーズの一つを勧めてくれた。

レンズも お勧めの、標準ズームを1本 一緒に購入した。

高校卒業して数ヶ月のチビッ子が貯めていたアルバイト代は、一瞬で 消え去ったのだけど、それでも 嬉しくて嬉しくて、その帰り道から フィルムを入れ替えながら バシバシ撮り帰った。

写真を撮ることも楽しかったけど、一眼のカメラを構え 気になる何かを撮っている自分に 少しうっとりしていた。


フィルムの現像も おじさんのお店にお願いした。

出来上がりを撮りに行くと、おじさんが プリントした物を取り出し「この写真は ここを~」と、講習してくれた。思い出すと 泣けてくる。


それから少し経ち、2代目の一眼レフを使うようになり、望遠のズームレンズも手に入れ、写真も すっかり上達したと勘違いしたチビッ子は、おじさんの愛ある講習を 鬱陶しく感じるようになった。

違うお店へ 現像に出すようになってしまった。

そして 3台目は 一眼デジタルカメラを手に入れ、とうとう どこにも現像に出すことすらなくなった。


今、5台目のキャノン機を使っている。


ブラブラと 町中を撮り歩く時、あの おじさんのお店の前を通る。

入れ替わって 何軒目なのかも分からない、甘い匂いのする洒落た洋菓子店を眺めて、当時の 現像液の匂いがたち込めた 時計の音がやけに響く、心地よい温度のカメラ屋さんを思い出す。


おじさん、私は 今も撮ってるよ。

多分 これからも ずっと撮るよ。

深く感謝しています。


そんな 私の趣味の始まりの話でした。