クリスマスイブの夜に | 温もりのメッセージ

温もりのメッセージ

人と動物との心の繋がりを大切に、主に犬猫の絵を通して、
彼らの心の純粋さ、愛情の深さを伝えていきたい

 


ここは天国の手前にある虹の橋。
ボクは飼い主であるママのもとから旅立って、ここにやってきた犬のルー。
ここはいつも晴れていて明るく温かい光に包まれている。
でもボクの上だけは、いつも真っ黒な雲が雨を降らせていた。
ボクはその雨がママの涙だってわか
っていた。
ママはボクが死んでから、ずっと泣いている。
ママの涙の雨に打たれるたび、その悲しみがボクの心にも雨を降らせ、ボクはママの悲しみを思い辛く苦しくなった。

ボクはどうにかしてママの悲しみを癒してあげたいと思った。

ボクは神様にお願いした。

「神様、お願いがあります。
ママに会いに行かせてください。
ママに笑顔を取り戻してあげたいんです。」

「そうか、ならば特別にクリスマスが終わるまでのあと3日だけ時間を与えよう。
ただし、その3日の間にママの笑顔を取り戻せなかったら、再びママに会うことはできなくなるぞ。
ルー、それでも良いか?」

神様の言葉に大きく頷いたとたん、ボクはママと暮らしていたおうちに戻っていた。

あっ、あそこにいるのはママだ。

「ママ!ボク戻ってきたよ‼︎」

そう言って後ろからママに駆け寄った。

でもママはじっとボクの写真を眺めたまま、振り返ることもなく肩を落としている。

そうか、ママからはボクの姿は見えないんだ。どうしたら気づいてもらえるんだろう。

突然、ママが立ち上がり歩き始めた。
ボクもママの後をついて行った。

ママは隣の部屋に入るとボクのベッドやおもちゃを涙ぐみながら見つめている。

ボクは大好きなボールを転がしてみた。
「ママ、ボクだよ、早く気づいて!
ボールで遊ぼうよ。」

ママは転がったボールを拾うと、フーッと深いため息をついて、ボールを箱にしまった。

「えっ?
ママ、一緒に遊ぼうよ。
いっぱい遊んだよね、思い出して!
楽しかったあの日々を…。」

結局ママは、ボクに気づかないまま暗く悲しそうな顔でその日一日を過ごした。
飾られたクリスマスツリーも、なんだか淋しそうに見えた。

やがて夜になり、ママはベッドの中でもシクシク声を殺して泣いていた。
ボクはママの手にそっと前足を置いてみた。
それでもママはボクには気づかず、泣くばかり…。
ボクはもうどうしていいかわからなくなって、ただそばでママのことを見守ることしかできなかった。

そうしてクリスマスイブの夜のこと。
明日はいよいよクリスマス、ボクは虹の橋に戻らなくてはならない。
このままママを笑顔にすることができなければ、ボクはもうママに会うことはできなくなる。

ママの悲しみの深さ、もしかしたらもうママに会えなくなるかもしれない不安、ごちゃ混ぜになって突然ボクの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
そして、ボクの涙は眠っていたママの頬にポタポタと流れ落ちた。
ママは、ハッとして自分の頬に手をやるとボクの方を見た。

「ルーなの?
どうして泣いてるの?」

ママには泣いているボクの姿が見えているようだった。
そしてママはギュッとボクを抱きしめてくれた。

「会いたかったよ、ルー!」

「ママ、ボクね、ママが悲しいお顔してるとボクも悲しくなるんだ。
だからママのことが心配で戻ってきたんだよ。」

「ごめんね、ごめんねルー。
ママがいつまでも泣いていたら、ルーを辛い目に遭わせてしまうんだね。
大切なルーのこと苦しめるわけにはいかないもんね。」

「そうだよ、ママ。
ボク、死んじゃったけど、ボクの心はいつだってママのそばにいるんだよ。姿は見えなくなっても、触れることができなくなってもね。
それにこれは永遠の別れじゃないんだ、虹の橋でまた必ず会えるんだよ。
だから、それまで笑って暮らして欲しいんだ。それがボクにとっても幸せなんだよ。」

「そうね、そうね。
またルーに教えられたな。」

そう言うとママはちょっと照れ臭そうに笑った。
そして最後の夜、ボクたちはぴったりと寄り添って眠った。
朝、そこにはボクの姿はもうなかったけど、ママは笑顔で空の向こうのボクに呟いた。

「ありがとう、ルー。
久しぶりに会えて嬉しかった。
ママ、これからは笑顔で前を向いて生きていく。だってルーがいつだってそばにいてくれてるって気づいたから。」

ボクは虹の橋に戻った。
ボクの上にあった黒い雲はなくなり、明るく優しい日差しが降り注いでいる。
回りにはたくさんの仲間の犬猫たちが遊んでいる。
ボクもここで幸せに暮らしていく、いつか再会するであろうママを待ちながら…。

 

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愛するペットとの別れからなかなか立ち直れずペットロスに苦しむ飼い主さんたち、ペットロス予備軍の人たち、そして愛する家族を失ったすべての人たちにこのお話を贈ります。