「密生していた杉を伐採し、光が当たる

ようになると小さな花や木の芽が育ちます」と病後とは思えない

軽々とした足さばきで山道を登りながら和尚さんが話して

くださいました。

「人間が植林し、放置した森は日が当たらず、油分の多い杉の葉に

覆われ、新しい芽は出ることが出来ずに、土は痩せ、土砂崩れが

起こりやすくなります。杉の根は縦に深く、落葉樹の根は横に広く、

様々な木の根が絡み合うことで土がしっかりとするのです。

小さな草や花の根もその助けになるのでこちらでは、雑草を抜き

ません。

このような小さな花も大切にしています。

森には昆虫や小動物の小さな命から鹿やのすりや熊のような

大きな動物の命までたくさんの命が息づいています。

宮沢賢治の提唱した理想郷・イーハトーブをこの地に実現するために

わたしは樹木葬という埋葬の形を考えました」と千坂師は秋の陽光に

満ちた落葉樹の森を指します。そこは墓地のイメージとは遠い

清清しく穏やかな気に満ちた明るい場所。

「熊も住んでいます。この辺の人たちは慣れているので熊が出ても

いちいち通報しません。50m離れていれば大丈夫ですから」

熊に取られたというミツバチの箱の残骸を見せて、和尚さんは

苦笑い。「もうそろそろいただこうかなと思っていたら、熊に

先に取られました」とにこやか。

平泉の旅館の方も「ここらは山が豊かなので熊はあまり降りてきま

せん」と言っていました。共存できているとは素晴らしいです。

樹木葬について山ほど書きたいことを持ち帰りました。

自然の中で深く呼吸をする素晴らしさ。

山に抱かれて眠り、やがて山に同化して国土を守る夢。

それは争いを起こし国土を荒らすこととは対極にある想い。

ゆっくり記事にまとめたいと思います。

豊かさという幻想を追い求め、自然に還らないゴミを山の

ように創造している人間に限って、口では愛国心なんて

言うのかもしれない。

領海を争う前に国土の荒廃を正視しないと。

振り向いてみて。

あなたの山は崩れ、海は死に、畑や農地は荒れ果てていませんか。


千坂和尚が宮沢賢治の思想を岩手の地に実現することを始めてから

11年になるそうです。産業廃棄物にまみれた山を整理し、悪臭の川を

浄化し、荒廃した植林を日の当たる里山に甦らせた成果が目の前に

ありました。川には蛍が舞うそうです。

その気になれば国土を甦らせることは可能なのですね。



知勝院の樹木葬は宗教を問わず、誰でも一緒に眠ることが

出来ます。

そこはとても清清しい場所でした。

春、水芭蕉の咲く頃、もう一度子どもたちと来るつもり。

私もこの地に眠ることが出来たら、と夢見た旅でした。