*妄想話です

どこかで聞いたようなファンタジーです

 

 

 

 

 

お気に入りの場所は、小川の脇の土手の一角にある。

ちょっと見 死角になっているので、子供のころは 勉強が嫌で城を抜け出しては しょっちゅうここに隠れていたものだ。

 

 …まぁ、すぐ脱走するのは 今もあんまり変わらないか、ふふ。

青草の匂いのする草むらにごろりと寝転んだ。

 

  

父王が臥せっているこんな時に なんてのんきな、なんて声も聞こえてくるが、こんな時だからこそ。

とーちゃんの顔見てると つい泣けてきちゃうし。

国のまつりごとなんてもんは、あんまり大勢で口を出したりしない方がいい。ショーくんのほうがずっと向いてんだから。

 

おれは平和で みんなが笑って暮らしていられればそれでいいんだ。

 

 

 

手近な草を折って、ぴーぴーと少し間の抜けた音で草笛を鳴らす。

空が高いなあ。

鳥があんなに小さい。飛ぶのって楽しそうだなぁ。

 

 

この時間は日当たりがよくて、天気がよい日はこの時期でもぽかぽかと眠気を誘う。

少しうとうとしかけていると。 

 

 

かさり、

そっと近寄ってくる足音。

 

 

足音の主はすぐにわかったが、気づかないフリで待つ。

俺をおどかしたくて くすくす笑いを必死で堪らえているのが気配でわかるから。

 

ほら、あと2歩。

1步。

 

 

 

「… おーちゃん💙」

「おわっ」 

 

 

そっと目隠ししてきた手のひらが、思ったよりずっと冷たかったので 不覚にも驚いてしまった。

俺を探して、ずいぶん外を歩かせたか。

 

 

「やっぱここだったー」

びくっ となった俺を見て、満足そうに くしくし笑うマサキの冷えた両手を捕まえた。

 

 

「おーちゃん はやめろや」

「だって。『王子』はよせ って言ったの、おーちゃんじゃん。

じゃあ サトシーラさま?」

 

 

 

マサキーは料理長の息子で。

うちの弟のショーンと、大臣の息子のニノ、 宮廷楽団長のとこのジュン、

歳の近い5人で子供のころはよく一緒に遊んだものだ。

 

うちのとーちゃんは あまり王様然としたタイプじゃないから、マサキたちのことも息子同然に可愛がったし。

俺らは 幼馴染みたいに育った。

 

 

やがて学校に上がる年齢になると、大勢の家庭教師がやって来て 学問やら帝王学、マナー、武術、芸術の嗜み… 寄ってたかって教え込もうとするようになった。

けど、勉強は圧倒的にショーくんのほうができたし、俺は机の前にじっと座って 興味のわかないものを あれこれ詰め込まれるのが本当に苦手で。

 

すぐに飽きてふらふら脱走する俺を、捜索しに来てくれるのは決まってマサキだったっけ。

 

かわいかったな。

ひょろりと細長い手足を、よく折れたり絡まったり しないもんだ と感心するほど大きく素早く動かして。

 

『サトちゃーーーん!』 って大きな声で呼びながら、小川の水面みたいにきらきらした笑顔で駆け寄ってくるマサキを思い出すと どういう訳か胸がきゅっとなる。

 

昔みたいにサトちゃん、って呼んでくれればいいのに。

 

 

 

俺の気持ちを知ってか知らずか、

『それとも殿下 にする?』 と言いながらマサキは、まだ冷たい手で 俺を引っ張り起こし

『陛下がお呼びだよ、ちょっとお急ぎみたい、』 と本来の要件を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*もしかしたら題名ですでにピンときてしまった方もいるのでは、と思いますが

2020年の11月くらいからちょっとずつ書いては消し、を続けてきた妄想です

 

戦う描写が自分には難しくて 何度も書きかけては寝かせてきましたが

こんな情勢の今だから、なんとか完結したいと思いました

のんきに妄想拙文をたれ流せるのも 平和であればこそ、ですよね