まずは、私的な話から少々。

前回の冒頭でも触れた通り、当チーム所属の三選手と私は旧知の仲であり、
中でも一番の古い付き合いが勝又健志選手である。

出会った頃の彼は、ストレートな感情表現と物怖じしない言動で、それはそれは少年のような青年であった。
ともすれば生意気と疎まれかねない危うさを感じさせつつも、
当時から光るモノを感じていた周囲の仲間達から、気がつけば『やんちゃなカッちゃん』として愛される存在となっていった。

やがて時は経ち、同じ時期に日本プロ麻雀連盟の門を叩く。
気の遠くなるような長くて濃い時間を費やした修行時代は互いに切磋琢磨したものだが、
いつの間にか実績も知名度も遥か先を行く遠い存在となった勝又。

更に時は経ち、Мリーグ発足。
会う機会も、話す機会すら激減していた状態での再会に、少し緊張してみたり。
控室に入り、幾つかの言葉を交わすうちに、当時と変わらぬ屈託のない笑顔が見える。
選手と記者。
立場は違えど、見つめる視線の先は同じ方向だと思えた。





11月初頭、そんな勝又が苦境に立たされていた。


ラスこそ無いものの、なかなかトップが取れず、個人成績は下位に甘んじている。
勝利への深く長いトンネルは続いていくのであった。



【第一週】

11/1(木)、この日はチーム総本山・テレビ朝日の創立記念日。
第1試合に先発の亜樹選手は、南1局の親番で絶体絶命の状況から6000オールで急浮上。



このアガリは、先月の最終戦オーラスで勝又選手が見せた奇跡の倍満ツモ、その襷がしっかりと繋がれた証であるように思えた。
南3局でも決め手となる満貫をツモり、11月初戦をメモリアルな勝利で飾った。


・武田軍が気になる局面①


亜樹「ソウズの切れ具合から厚く持ったほうが良いと判断し、守備も考えての一打でした。」


第2試合に登場の勝又選手は、開局に親満を成就させるも3着終了。
開幕からの不調を物語る結果となり、トンネルは更に奥へと進むことに。


11/2(金)、連夜の先発となった亜樹選手は、東2局でチンイツ・赤の跳満ツモ。



このリードを守り切り、見事な二日連続の先発勝利。


・武田軍が気になる局面②


亜樹「打たれる直前まではチーと思ってたけど、声が出なかった。運良くテンパイしたけど鳴くべきだったな、と。変化もあるし、鳴かなきゃアガれないよねー。ミスが多い対局だったけど、反省点の一つです。」

 

・武田軍が気になる局面③


亜樹「待ちにあまり自信が無いのと、赤やドラが見えてないので、2軒の仕掛け、特に親に警戒しました。条件付き以外はリーチを打たない局面と判断したので、回ってテンパイ取れればOKの心理で。」

第2試合、こちらも連夜の出場となった勝又選手。
東3局で満貫をツモってリードするも、徐々に点棒が削られ、またもや3着。


・武田軍が気になる局面④


勝又「朝倉選手の大三元絡みの仕掛けを受けて、長考で当たる形が思いつかなかったので、自分的には切る一手なのですが、ション牌のままのほうが得できそうだったので、ちょっと損なツモしてしまったなぁと思いました。」


この日、控室で観戦していた私は、勝又に掛ける言葉を探していた。
序盤でリードしていた場面からの失速、反省は尽きない。

「全然大丈夫です。焦りはないです。」

とは言うものの、最後は自虐的な冗談もこぼれ、思わず激励の言葉が飛ぶ。
これまで幾多の勝利を勝ち取ってきた勝又にとって、Мリーグでの勝利が何と遠いものか。
早く、早くトップがほしい。



【第二週】

11/5(月)、第1試合に登場は、先発連勝中の亜樹選手。

特筆すべきは、やはりオーラス。
非常に難解な手牌を、唯一のルートで跳満に仕上げて奇跡の大逆転トップ。



これでМリーグ初となる破竹の個人三連勝。



第2試合は、今月初登場の滝沢選手。
東3局での満貫ツモから薄氷を渡り切り、チーム初の同日連勝。
トータルスコアでもチーム初の暫定首位に躍り出た。



・武田軍が気になる局面⑤


滝沢「第1試合で亜樹さんがトップを取ってくれたので、攻めの姿勢で思い切り行けました。ただ、朝倉選手が前に出てきたので即撤退を決意しました。」

チームの浮上は、とても喜ばしいことである。
だがそれは、勝又個人の低迷が浮き彫りになることでもあり、私はその心中を案じた。


そして、11/9(金)。パブリックビューイング開催日。
渋谷ABEMASとの首位攻防戦に、頼もしい援軍も参戦。



第1試合、先発・勝又選手。
前日にKONAMI 麻雀格闘倶楽部の高宮まり選手が初トップを取り、残る未勝利は只一人。
整う舞台。高まる期待。

しかし現実は、そう甘くない。健闘するも、2着で終了。
個人成績はやや回復するも、やはり表情は冴えない。

第2試合は亜樹選手。
厳しい展開で迎えたオーラス、PV会場はこの日一番の盛り上がりを見せる。



他家のアガリ逃しにも恵まれ、奇跡のラス回避。
これには思わず姉様も歓喜、その高揚を世界へ向けて発信。



・武田軍が気になる局面⑥


亜樹「マンズホンイツ本線の前原選手の仕掛けの手出しから、待ちは上の方が有力に見えたので、感覚的に20%は当たるかもなぁと思いながらも親権維持の勝負牌でした。」

ポイントこそ僅かに減らしたが、印象深い夜となった。



【第三週】

11/12(月)、第1試合の亜樹選手、第2試合の滝沢選手、ともに序盤でリードするも3着で終了。



亜樹選手の誕生日となる11/15(木)に試合が無いため、その前祝いを開催。
粋な計らいに、チームの機運上昇が願われる。

すると・・・、



不思議なことに、首位へ返り咲き。

これは、風が吹いている。
もしかしたらこの風は、あの男の曇った表情も吹き飛ばしてくれるのではないか。

11/16(金)、私はМリーグスタジオ行きを決心する。
元々行く予定では無かったが、記者としての勘が私を控室へと向かわせた。
勝又が出場するかも不明な状態ではあったが、抑えきれない衝動に身を委ねてみたのだ。

第1試合、先発の滝沢選手は、東2局で得た点棒を丁寧な打ち回しで守り、2着。
そして第2試合、勝又の登板が決まる。

 

頼むぞ・・・。
祈るような気持ちでモニターを見続けていたが、持ち点はどんどん減っていく。
東場を終えてラス目、南1局の親番でようやく500オールの初アガリをものにしたが、上位との点差はまだまだ遠い。
どうにか連荘の1本場、ここで反撃の狼煙を上げたい、その配牌は・・・、



悪くはないが、重たい。
純チャン三色まで仕上がれば一気に浮上するが、そう都合良くツモが来てくれるだろうか。
あぁ、やはり素直には育ちそうにない。メンツが完成する牌を引けない。

見ているのが辛くなり、思わず俯く。
・・・。今日は勝又がトップを獲る日ではなかったのか。
何が記者の勘だ。昔はもうちょっと鋭かったはずだが、随分と鈍ったもんだな。
こんなことなら、いつもみたいに自宅でひっそりと観戦しておけばよかった。
所詮、幸運の女神には程遠い、田舎のおじちゃんがノコノコと余計な上京をして、チームに迷惑を掛けてしまった。
勝又、本当に申し訳ない・・・

「リーチ!」

えっ?!

それは、力強い勝又の声だった。そして・・・



極めて細い糸をノーミスで手繰り寄せた七対子でのツモアガリ。
一気に沸き上がる控室。

ここから、これまで堆積されていた不遇・鬱憤が堰を切ったように溢れ出す、怒涛の連荘劇。
1000は1200オール、4000は4300オール、そして6000は6400オールと全てツモアガり、持ち点は6万点超え。
劣勢から圧巻の大逆転となった。



全武田軍が待ち望んだ、軍師の初トップである。
この風景を、どれほど見たかったことか。

控室に戻ってきた勝又は満面の笑み。それは『やんちゃなカッちゃん』の笑顔そのものだった。



試合後、帰途の車中で入ったメッセージ。

「興奮の余韻がヤバイ!」

わかる、わかるよ。本当におめでとう。


・武田軍が気になる局面⑦


勝又「ターツオーバーで、一番悪いと思ったリャンメンを払いました。
ピンズは安いんですけど、そんなに良くないパターンの切れ方で。」



【第四週】

キンマwebによるМリーグ観戦記での企画で実施されたアンケート(Twitterにて)、
『ファンが選ぶカッコいいユニフォーム』で堂々の1位を獲得。
チームの士気も一層高まることが期待された。

11/19(月)、第1試合の亜樹選手は、先制するも3着。
第2試合の滝沢選手も勝負手が実らず3着。鬱積の募りが懸念される。


11/20(火)、第1試合に先発の勝又選手は、昨日からの逆風に悩まされ、Мリーグ初のラスを引いてしまう。

チームスタッフ「控室に戻ってきた時の顔は、今まで見たことがないような厳しい表情でした。まさに鬼の形相で・・・。しかし、前向きな闘志が感じられたので、迷うことなく連続出場が決まりました。」

第2試合、そんな勝利への執念が昇華される。



ほのかに立ちこめた不穏なムードを一蹴する乾坤一擲のアガリ。
また、この試合でU-NEXT Piratesの小林剛選手がラスを引いたことで、未だノーラスは亜樹選手ただ一人に。
ラス無し選手が一気に二人減るという、まるで互いを斬り合うような壮絶さを感じさせる夜であった。


11/22(金)、先発の滝沢選手は南3局までトップ目を走っていたが、3着まで転落して終了。
控室には勝又選手が待機しており、ここは交替かと思われたが、リベンジに期待して続投を選択。
この判断は意外に映ったものの、内容良しと見た積極策であり、
結果的にラスとなってしまったが、後悔は微塵も無いだろう。



依然トータルトップをキープしたまま、最終週へ。



【第五週】

11/27(火)、第1試合出場は亜樹選手。好調者が突き抜ける中でしっかりと2着を確保。
第2試合に登場した勝又選手は、親番で2回とも跳満をツモられる苦しい展開となり、無念のラス。

 

・武田軍が気になる局面⑧


勝又「目に見えて残り残り1枚の待ちですが、所在は高宮選手か山かと思っていて、この鳴き方ならオリ打ちも若干可能性があると思い、ラス目なので少し無理目でも勝負しました。」

・武田軍が気になる局面⑨


勝又「たろう選手がメンホンテンパイ間近という雰囲気でソウズを合わせ打ちの形で固定したけど、その後の手出しで苦しい七対子だと読みが変わり、ここでリーチ行けば1人テンパイで3着目でオーラス迎えられるかな、と。待ちに自信は無く、アガリは絶望的と思いつつの流局狙いでした。」


11/29(木)、この日は滝沢選手の連投。
第1試合こそ3着で終わるが、続く第2試合では東場リードからオーラスの痺れるせめぎ合いを制してトップ。

 


チームとして全80戦の折り返し地点となる40試合目を勝利で飾り、トータルでも首位を奪還した。



・武田軍が気になる局面⑩


滝沢「ポンしてテンパイを取れる牌が出ましたが、魚谷選手が危険牌を打っていたので、念のため静観しました。」

 

 


11/30(金)、控室にて。
前日の試合で話題となったオーラス親番でのテンパイノーテン宣言について、亜樹選手と話す。

「私は、ほとんどの場合で開く(テンパイ宣言する)んだよね。伏せて目先の着順を守っても、長い目で見てどうなのかぁって。麻雀の神様に怒られちゃうような気がするし、何より連荘してほしいって思ってくれてるファンの気持ちを大事にしたいって思う。」

あの滝沢選手をして「Мリーガーの中で一番肝が据わってるんじゃないか」と言わしめる亜樹選手の麻雀流儀が垣間見えた。

第1試合に登場は勝又選手。
ラス濃厚、しかも3着目から先制リーチが入る絶体絶命の状況から、英断の待ち変えで2着まで回復。



滝沢「いやーすげぇわ。俺が打ってたらラスのままだよ、たぶん。」
勝又「でも、アガリ逃したら控室戻ってこれなかったわ。良かったーマジで。」

そして第2試合、亜樹選手。
厳しい展開で迎えたオーラスの親番。



満貫のテンパイを入れるも流局。
点棒状況的には3着確保のノーテン宣言も選択できる場面だが、亜樹選手のプロとしての矜持が手牌を開かせる。

結果、横移動でラス目が浮上する展開となったが、それもまた麻雀。

この終息を、腹を据えて受け止める眼差しが印象的だった。



・武田軍が気になる局面⑪

亜樹「チーしてテンパイの牌が出たけど、待ちが薄いフリテンであり、点棒的にほぼオリの状況になったので、手牌を短くしない選択をしました。その後に自力でテンパイ入れましたが、その後のツモによってはオリるつもりでした。」


舞姫の不敗神話は15試合目で幕切れとなったが、軍師の初勝利然り、見えない鎖から解放された11月がこれにて終了。



11月のチーム成績は、24試合で+143.2pt。
着順は、トップから7・4・9・4。
全42試合での着順は、10・9・18・5。

残り試合数やポイント状況によって作戦が微妙に変わる中盤戦。
12月も、引き続きEX風林火山を応援宜しくお願い致します。