--中国家庭における老親扶養の限界について--親孝行と法律規制をめぐって----------------
賈 素平(学術推進委員)
中国では、一人っ子政策や晩婚化により、高齢者世帯の構成割合が大きく増加している。
社会保障制度はまだ完全に整備されていないので、老親の扶養は主に家庭で行なわれている。
一方、高齢者の合法的権利を守るために憲法、婚姻法に子女による扶養義務が明記され、刑法、相続法、高齢者権利保障法などが制定されているものの、今後、高齢化の進展、社会保障制度の不備より、中国は強い親孝行伝統意識を持もっていても、家庭介護における法規制と現実とのギャップが顕在化すると思われる。
Ⅰはじめに
1979年実施された一人っ子政策によって出生率は着実に低下した。
一方、生活水準の上昇・衛生環境の改善・死亡率の低下・平均寿命の延びによって高齢化の速度が速められた。
1999年に中国は高齢化社会に突入した。
中国高齢化問題委員会の調査によると、60歳以上の高齢者は2020年には全人口の17.2%を占め、2億4800万人に増加すると予想されている。
中国はどの国でも体験したことのない特有の背景下で、高齢者扶養問題をどのようにすべきか問われている。
一般的に、先進諸国の高齢化問題はほとんど経済発展期に現れるが、中国はそれと違って、高齢化がピークを迎える21世紀中頃になっても、一人当たりのGNPは現在の中程度の先進国水準にしか達することができない。
それは、中国の経済がなお途上国でありながら、人口の年齢構造がすでに先進諸国に近づき、高齢化の進行が経済発展よりはるかに早いことを示している。
また、1979年に打ち出された一人っ子政策は多くの「4・2・1家庭」を生み出し、将来は一人の子供が6人を扶養することになる。
一方、中国では50年代から「都市」と「農村」に分けて「二元制」社会保険制度が実施されている。
都市部では、国家公務員、国営企業の労働者、集団企業の労働者は社会保障制度が適用されたが、依然、自営者や農民は社会保障制度の対象外にされている。1978年に経済改革開放がスタートして以来、中国の経済は急速に計画経済から市場経済に変化してきている。
今までの企業保険制度では対応できなくなり、様々な問題が顕在化してきたが、農村部では、公的の社会保障制度は依然として整っていない状況である。
中国は儒教の国であり、孝は中国の伝統的固有道徳の中でも、とりわけ重要なものとされている。
「孝経」にも“徳の本は孝より生ずる”孝は“天の経・地の義・民の行なり”といい、「論語」にも“孝は人の試す本”とあるように、古来中国の儒学者は孝を人間の本質の前提と見なしてきた。逆にいえば、不孝は無道徳の最たるものである。中国の伝統思想に基づく天道の教えは、こうした孝から始まる人間愛である。しかし、一人っ子政策の実施に伴って、家庭内扶養の機能を後退させている。
中国の現行憲法、婚姻法に子女による扶養義務が明記され,刑法、相続法、高齢者権利保障法が高齢者の合法的権利の保護ために制定された。
このような各種法律や条例の制定は、その基本的な権利さえ守られていない高齢者が多いことの裏返しと言え、国が家庭扶養を推進したいことを反映している。
しかし、これから、子女数の減少によって、高齢者扶養を、子女に義務づけても、子女は扶養と介護の担い手として、経済的、身体的に困難なことは明白である。社会的価値観の変化、家庭規模の縮小、女性の社会進出、人口の都市部への移動などの影響は家庭内扶養機能を退化させた。家庭内扶養は多くの課題を抱え、困難に直面している。
Ⅱ高齢化進行—高齢化と高齢者保障
中国の人口は、50年代から政治経済の変動に伴い、その人口の変動も著しい。とりわけ、1979年開始された一人っ子政策を実施して以来、出生率は着実に低下した。
一方、生活水準の上昇、衛生環境の改善、医療技術の発展などを背景にした死亡率の低下、寿命の延長などによって高齢者人口の絶対数は増加し、そして上記と同じ事情を理由とする乳幼児・児童の死亡率の大幅な改善、女性の社会意識、価値観の変化によって高齢化スピードを速めた。
特に中国では「未富先老」で、高齢化の進度は経済発展のスピードより遥かに速い。現在の高齢者割合は低いが、絶対数が大きいため高齢者人口規模も大きく、今後も著しい増加が見込まれる。
高齢化率は、2002年に高齢化開始水準である7%に達した後、2025年に12.8%となり、急速に上昇することが見込まれている。
来世紀半ばには、超高齢化時代に突入することが予想される。
65歳以上の老年人口割合が10%から20%まで到達する年数はわずか22年で、高齢化の始まりは遅いが、テンポは急速である。
一方、高齢者に対する社会保障制度に関しては、まだ完全に整備されていない。
1950年代以来、歴史的、地理的条件と自然条件の制限によって、都市部と農村部は扶養の水準もかなり異なる。
国家機関・国有企業・集団企業・事業部門の職員に対し、国と集団企業が養老・医療・住宅をすべて保障・提供して、身寄りのない高齢者には社会福祉制度による扶養を行ってきた。
農村部では、高齢者は主に集団経済組織と子女によって扶養されているが、労働能力を喪失し、身寄りのない高齢者には衣、食、住、医療と葬儀の五つの保障制度が設けられていた。
1978年に経済改革開放がスタートして以来、中国の経済は急速に計画経済から市場経済に変わった。
それまでの企業保険制度では対応できなくなった。
農村部では、公的社会保障制度は依然として整えられていないのが現状である。
Ⅲ中国老親扶養における固有伝統「親孝行」思想と法の規制
中国では「親孝行」は人の道徳を試すすべての元である。
老親扶養は中国固有伝統思想親孝行の特異性の発露であり、この伝統思想は中国で老親扶養にまさに大きな役割を果たしている家族扶養の柱である。孝は中国の伝統的個有道徳の中でも、とりわけ重要なものとされている。
「孝経」“徳の本は孝より生ずる”“
孝は天の経、地の義、民の行なり”といい、「論語」にも“孝は人の試す本”とあるように、古来中国の儒学者は孝を人間の本質の前提と見なしてきた。
逆にいえば、親不孝は無道徳の最たるものである。
中国の伝統思想に基づく天道の教えはこうした「孝」から始まる人間愛である。
孝の内容
大きく二つに分けられる。
一つは、親に仕えること。
つまり、親に対して深く敬愛の念を持ち、それを行いに表すことである。
もう一つは、親を養うこと。
つまり、親の面倒を見ることで孔子は、“養うだけなら、犬や馬にも出来る”と言って、精神的な敬愛を忘れた、単なる経済的扶養を嘆いている。
孝の段階
孝には三あり、大孝は親を尊び、其次は辱めず、其下は能く養う。
また孝に三あり。
小孝は力を用い、中孝は労を用い、大孝は匱しからず。
孝の範囲
大きく生前と死後に分けられている。
生前における孝行は、日常にあっては“服従”・
“尊敬”・“奉養”を基準とし「奉養」は「養体」(体を養うこと)と「養志」(親の意志を大切にすること)の二つがある。
死後の孝行は、その直後にあっては「礼葬」を執り行い、三年の間は「服葬」し、自分が生きているかぎり永久に「礼祭」を営むのである。とくに親亡き後の孝養は儀礼として礼祭を行なうだけではなく一挙一動に至るまで親の遺志に従うことが基本とされた。
親を尊重するという思想は中国の倫理思想の根本であるが、とりわけ孝行の絶対性、中国家族倫理の一大特色を為している。
子は如何なる場合でも父母に絶対服従を要する。
たとえ父母が非理でも不道でも、子の立場としては違背してはならない。
父母に孝順という教訓は、上は天子より下は庶人に至るまで、必ず遵守さるべき教訓である。
いかなる事情があっても、子として父母に反抗すべきではない。
中国における孝の文化の特異性であり、老親扶養に特別な役割を果たした。
儒教の核心である孝文化は、中国の長い歴史の中で、広範的に浸透し、その影響の大きさをいくら評価しても行価しすぎることはないほど、すべての徳行の基である。
この親孝行イデオロギーが貫徹されることによって、高齢者扶養の経済面、身体面、精神面の保障に大きい役割を果してきた。
一方、中国の老親扶養において中国法の規制が強めるようになり、国はあくまでもサポートする立場であることを明確にしている。
中国の現行憲法、婚姻法には子女による扶養義務が明記され,刑法、相続法、高齢者権利保障法が高齢者の合法的権利の保護ために制定された。
中華人民共和国憲法 第49条
“婚姻・家庭・母親・児童は国家の保護を受ける。
夫婦は双方ともに、計画出産を実行する義務を負う。
父母は、未成年の子女を扶養教育する義務を負い、成年した子女は父母を扶養扶助する義務を負う。
婚姻の自由を破壊することを禁じ、老人・嫁・児童を虐待することを禁止する。”
このように中国では、子女が父母に対する扶養義務は、請求権を持つ法権利であり、中国社会の確固たる立法原則・憲法規定である。
中華人民共和国婚姻法 第15条
“子女が扶養の義務を履行しない場合は、労働能力のない父母や生活困難な父は子女に対して扶養費の給付を請求する権利を有する。”
中華人民共和国婚姻法 第22条
“父母が死亡した未成年に対し、負担能力のある祖父母・外祖父母が扶養の義が有り、子女が死亡した祖父母・外祖父母に対し、負担能力がある孫・外孫が扶養義務を持つ。”
以上の条文で示すように、婚姻法には扶養の義務を強化し、義務の履行を求める父母の請求保障した。
また、履行しない子女については、本人ばかりではなく、子女の所属機関に請求でき、義務の履行は強制権を伴っている。
また、憲法の規定・婚姻法の規定を具体化する保護条例が各地で制定され、刑法上の罰則も規定した。
中華人民共和国刑法 第183条
“扶養の義務を負いながら、扶養を拒否し父母を虐待・遺棄して情状が悪質ならば刑事
責任が追及され「5年以下の有期懲役・拘留または管制に処される。”
扶養義務を実現するための、実質的な細かい規定が成文化している。
さらに、履行を保障する法的援護として行われてきた。
中華人民共和国相続法第13条
“相続を受けた人に対する主な扶養義務を果たし、または相続を受けた人と同居していた相続人は遺産分配のとき多く取ることができる。
扶養能力があり、扶養条件のある相続人が扶養義務を果さなかった場合は遺産分配の時、分配せず・または少なく分配しなければならない。”
このように親子間の扶養義務は、一連的法体系によって整備・強化され伝統的単純倫
理規範から法制度的規範に転換した。
中華人民共和国高齢者保障法 第3条
“国家と社会はあらゆる措置を取り、高齢者の社会保障制度を整備し次第に高齢者の生活・健康及び社会的扶養、医療、社会参加、生涯学習、娯楽を実現する。”
中華人民共和国高齢者保障法 第10条
“老人扶養は、主に家族で行い、家族構成員は老人の世話をしなければならない。”
中華人民共和国高齢者保障法 第11条
“扶養者は老人に対し、経済面、生活面、精神面での義務を放棄してはいけない。”
中華人民共和国高齢者保障法 第15条
“扶養者は、相続権利を放棄することを理由にして、扶養の義務を放棄するわけにはいかない。老人は、扶養人に対して扶養費を請求する権利がある。”
以上、公布された法律条文を見ても中国は開放体制下で崩れかけている価値観を法制度により高齢者扶養について根拠を提供し、高齢者の世話扶養が有利に行われやすいようによりよい伝統を強める傾向が見られる。
Ⅳ終りに―中国老親家庭扶養における親孝行思想と法規制の限界
高齢者扶養には経済、生活、精神の三つの面が含まれている。
中国では、古代から近年まで、高齢者の扶養は一貫して、ほぼ全面的に家族によって担われてきた。
家族の中でも、特に息子が扶養の主要な担い手であった。
中国人にとっては、息子こそが老後の扶養保険であり、国や社会がその費用を負担したり、労務を提供したりするといったことは、およそ考えられなかった。
息子を育てるのは、老後の生活の確保するために「養児防老」意識は今も多くの中国人の中に活きている。
幼時に親に扶養され、成人した子は老親の世話を全面的に引き受けるのが、至極当然のことであり、それが人として欠かすことのできない道徳とされてきた。
しかし、人口高齢化時代を迎えつつある中国では、一人っ子政策や長寿化による人口高齢化、しかも膨大な数の高齢者の日常を発展途上国の脆弱な経済力でどのように支えるか、問題の深刻さには想像を絶するものがある。
現在、中国では、産業化の加速、核家族化、都市化、生活様式多様化へ進行することによって、扶養意識などの家族道徳の動揺、後退が高齢者扶養問題の解決をいっそう困難にさせている。経済の市場化開放政策、国内人口の流動性の増大など、近年のあらゆる社会経済的事情が高齢者問題と結びついて、巨大な問題群を現出させている。
ここ数年来、高齢化社会を迎えるための対策が法制度として制定され、高齢者の家族扶養・社会保障・地位と役割が法律として具体的に規定されている。
しかし、今日になって中国の社会変動によって、高齢者扶養要素は機能的に後退している。
居住方式も変わりつつある。
これから、高齢者扶養における意思はどこまで推持出来るのかが問題となっている。
取り分け、1979年、全国で一組の夫婦に一人の子供を基本とする政策が実施された。
一人っ子政策の実施によって、人口構成を確実に変化させている。
将来、一人っ子を持つ父母の老後について、いろいろな懸念が提出されている。
高齢者にとっては子女の数は老後の保障である。
親子関係の扶養問題に絞った場合、政策上、一人を強要された形で生まれ「小皇帝」と呼ばれるほど過剰な愛情の中で育った子供が、わがままで依頼心が強く、他人への配慮に欠ける性格的欠点を持ちやすい。
この世代の子供が成人後、老親扶養の担い手として経済面、生活面、精神面の面倒見は成り得るか否か、役割転換に伴う危惧は深刻である。
いまだ家庭扶養を中心とする。
親孝行の文化はまた残っているが、しかし親孝行の「意思」があっても体力的、経済的親を養いきれない時がくる。
親の扶養を社会全体の問題として扱うべきである。
また、現時点は、中国の現行憲法、婚姻法に子女による扶養義務が明記され,刑法、相続法、高齢者権利保障法が、高齢者の合法的権利の保護ために制定された。
このような各種法律や条例の制定は,その基本的な権利さえ守られていない高齢者が多いことの裏返しと言え、国が家庭扶養を推進したいことを反映している。
国はあくまでもそれをサポートする立場であることを明確にしているが、しかし、一人っ子世代の親が高齢者になると、老親の世話は子供に任せることは法律で決められても無理である。
今後、一人っ子同志が結婚して、四人の父母を抱える時代の到来とともに、法律規定だけで済ませることではないことである。
中国の高齢者は依然として家庭での扶養に頼っている。
しかし、社会保障制度がまだ整備されていない状況の中、老人は経済面、身体の介護面、精神面において子女に頼らざるをえない。
子女にとっても老親家庭扶養は、大きな負担とプレッシャーに直面している。
高齢者は、経済の自立には非力であり、加齢とともに配偶者の収入は低下し、死別率は上昇する。
子女は扶養と介護の担い手として、経済的、時間的にも困難である。
社会価値観の変化、家庭規模の縮小、女性の社会進出、人口の都市部への移動などの影響は家庭扶養機能を退化させた。家庭内扶養は多くの課題を抱えている。
老齢化問題は単に人口問題だけでなく、社会の発展と関係する問題である。
高齢化問題の解決は、一つの巨大な社会的なプロジェクトであり、社会、経済、などの立場から総合的に考慮すべきである。
60年代から、日本は皆保険、皆年金を始めた。
高齢者の老後は経済面から保障された。
また介護では、2000年4月1日から介護保険法が導入され、これで高齢化扶養問題は本格的に社会制度化された。
日本の現状から教訓を学び、これまで中国の研究者の論点を検討した上で、中国高齢者問題を、経済発展を優先し、福祉の充実は国の経済力をつけた後のことであるという指導者の姿勢に危惧を感じるものである。
都市部と農村部は差別なしに、高齢者の誰もが基本的な生活を保障されることこそ、本来の社会のあり方である。中国高齢者扶養問題は家庭内扶養という一本の木だけでは支えられなくなり、社会扶養へ移行すべき時である。
引用文献
1賈素平『高齢者施設管理と運営』南開大学出版社 2013年
2王文亮『現代中国社会保障事典』集広舎 2010年
3袖井孝子・陳立行著『転換期中国における社会保障と社会福祉』明石書店2008年
4邬沧萍・姜向群 『老年学概论』
中国人民大学出版社 2006年
【発行者】
遼寧省中日シルバー産業推進検討会
瀋陽大鑫成商務諮詢有限公司
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遼寧省中日友好協会・理事
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