これは先日私が友人の結婚式に出席した日の帰りに起きた話し。
披露宴も二次会も楽しいひと時を終え、一緒に出席した地元の友人と電車で帰り、二人で酔っ払っていい気分になりながら席の端っこの方に座っていた。
すると急に上から「ピチョ」っと水滴が頭に降ってきた。
雨?
いや、ここ車内だわ!
心の中でそんなツッコミを入れた私は一瞬、「パニックです!」と状況が全く掴めなかった。
そんな私にすぐさま報告が入る。
『ごめんなさい!!本当にごめんなさい!』
報告してくれたのは私の目の前に立ってつり革につかまっていたはずの大学生くらいの若い女性だった。
女性はハンカチを持ち私の頭を拭き始めた。
いまだに状況がわかっていない私だったが、その後スーツやワイシャツの至る所にこびりつくあるモノが目に入った。
ホウレンソウだ。
ホウレンソウ?
そして少しドロっとしてる白濁した汁気と雑巾で牛乳を拭いたようなどっかで嗅いだことのある甘臭い香り。
ここでようやくつながった!
私は目の前の女性にシチューをぶっかけられたのだ。
それもさっきまで彼女の胃の中にいたクリームシチューを。
思わず私は
『そうきたか。。』
と声をあらわにしてしまった。
すると女性は再び謝り始めた。
事態に気づいた友人や周りの人たちもすかさずハンカチでそのいわゆる胃チューを拭いてくれたりティッシュを差し延べてくれたりした。
私はその白く濁った赤の他人への慈悲深き行動に激しく感動を覚えていた。だがそんなのはつかの間だった。
ティッシュを渡してくれたマザーテレサほか周りにいた民衆はみな一定距離を取り始めたのだ。
所詮は臭い奴への慈悲なんてものには活動限界があるか。
そんなことを嘆きながらも私はありがたくその慈しみと憐れみをかみ締めていた。
そして私を中心に広がっていくその距離すらも次第に神々しく感じていた。
その間に友人は彼女に席を譲ってあげて妙な二人が隣同士で座っている状況ができあがる。
隣に座ってからも彼女は私への懺悔を止めようとはしなかった。目には薄っすらと涙が。
そんな光景を見て私の慈悲の心も開花された。
この女性に対して寛大な心で、
被害者である私自身が彼女の精神的支柱(しちゅー)になってあげなければと考えたのだ。
そして必死に懺悔を続ける彼女に渾身のお告げを一発
『安心してください、吐いてませんよ。』
と言えてたら笑神様が降りてきてくれていたかもしれないが、実際は
『気にしないでください。』
と、とにかく明るく声を掛けるのが精一杯だった。
それでも懺悔を止めようとしない彼女は次に財布を取り出して私に相談を始めた。
『受け取ってください!』
手には一万円札。
クリーニング代及びせめてものお詫びと思ったのだろう。
しかし一度悟りを開いた者からしてみればそんなものはただのかみ切れにしか見えていなかった。
『しまってください。そうゆうの嫌いなんで。』
いや、ほんとは好きだよ諭吉先生。
こんにちの私の経済状況からしてみればノドから手が出るほど欲しいはずの諭吉先生。
私はそれすらも断わる極地へと精神状態が達していたようだ。
すると彼女はやり切れない思いで今度は下を向き始める。
なんだか気まずくなってしまったので何か話しかけようと考えた。
しかし思いついた言葉は、
『今夜はシチューですか?』
クレアおばさんのクリームシチューのCMみたいなフレーズが思いついてしまう。
却下。
その後必死に邪念を捨て、そしてようやく絞り出した質問が、
『どこで降りるのですか?』
これなら大丈夫だろう。
『浦安です。』
と彼女が顔を上げ答える。
『僕と隣の駅ですね。』
と彼女を見て返事する。
ここでフッと彼女の顔を冷静に見ることができた。
どうしよう。かわいいではないか。
私のなかにいたジェントルメンがザワつき始めた。
連絡先を教えてもらっとこうか悩み始める。
でもあんだけお金は断っといて連絡先だけは聞くなんて、初めからそうゆうつもりだったのかと思われてしまう。
そんな下衆な行動を民衆が黙って見過ごすはずがない。
いや、せっかくの出会いだ!
どんな出会いだろうが出会いは出会いだ!行くんだ!
私のなかにいるジェントルメンとプレイボーイがケンカを始めた。
しかしそのケンカはジェントルメンが終始圧倒する。
押され気味のプレイボーイが息を吹き返す間もなく、
無情にも電車は浦安駅へと到着。
彼女は最後の懺悔を一礼してホームへと降りていった。
あ〜行ってしまった。
ジェントルメンとプレイボーイから同時にそんなコトバが溢れる。
プレイボーイがビックリした様子でジェントルメンを見つめる。
よく見ればジェントルメンは首から上がニワトリの顔ではないか。
そう、ジェントルメンとはただのチキン野郎だったのだ。
そうだね。クリームシチューにはチキンがつきものだよね。。
ホウレンソウの彼女は『報告』と『相談』をすぐに私にしてくれた。
そんな大人としての対応が私自身の怒りを押さえてしまったのだろう。
シチューも仕事もプライベートも、
やぱ『ホウ・レン・ソウ』は大事だな。
でも一番欲しかったのは『連絡』だったけど。。
それでも同じ市中(しちゅー)に住んでいる者同士、もし運命の相手ならまたいつか会えるかもしれない。
ホウレンソウ女とチキン野郎の四柱(しちゅー)推命や如何に。