金曜日、次週から自分の担当診療科が変わるということで、
しばらくお世話になった患者さんに最後のお礼を言いにいった。
患者さんは今まで体調が芳しくなく、診察の時も話すので一杯一杯という日が多かった。
会話中に咳き込むこともあって本当に大変そうだった。
まだ少し体調が良さそうな時は、明るい気分になって欲しかったので、
趣味のお話や今後したいことのお話を聞いたりした。
「どのような話題なら患者さんが話したくなるだろう?気分転換になるだろう?」
と考え、話してみたが、上手く会話を繋げられないこともあった。
自分が診察に行くことが逆に迷惑にもなってしまわないかと思うこともあった。
また、患者さんは検査値としては良くなっているものの、
病状や主訴は変わらないため、自分としても診察に行く必要があるのか、と思ってしまうこともあった。
そんなこんなで、最終日になった。
お別れの挨拶を告げに行くと、カーテンを開けた先にいたのは、
いつものベッドで横たわる彼ではなく、
ベッドに腰掛けて、本を読む彼だった。
顔色もいつになく良さそうだった。
こんな彼をみるのは初めてだった。
私が「今日は診察ではなく、最後の挨拶をしにきました」と伝えると、
いつもは質問に答えるだけの彼が、
「そうなのかい。君はこの科のお医者になるのかい?」と聞いてきた。
そこから、自分のことだったり、実習のことだったりを説明した。
そしたら、最後に、「スーパードクターになってTVで紹介されてね。そのときには、また診てくださいね。」
と言ってくれた。
また、このとき彼から出た、歯が見えるような笑顔をよく覚えている。
よくあるお世辞というか社交辞令かもしれないが、
私は、それが大変嬉しかった。
もしかすると、あまり意味がないと思っていた無駄話や問診も何か役に立ったのかもしれない。
何より、1日早く実習を終えていたら、彼の元気な姿が見れなかったかもしれない。
その姿を見れたことが自分にとっての1番のプレゼントだった。
そう考えると、実習を頑張った私に対して、
最後に神様がご褒美をくれるように計画してくれたのかもしれない。
このような初心を、また、患者さんの協力の上で実習が成り立つということを忘れないようにしたい。