大沢在昌、作家生活40周年記念作品です。

パラレルワールド、警察、アクション・・・。




「帰去来」。このタイトルの意味は、故郷に帰るために、官職をやめてその地を去ることなのだそうです。
ラストシーンが、そういうことなのかな。

SFの場合、まず、それがどういう設定なのかが気になります。
この作品は、パラレルワールド。
ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界をさします。
並行世界、並行宇宙、並行時空・・・。 

女刑事、志麻由子はおとり捜査中に、連続殺人犯に首を絞められ・・・・
別世界へ・・・
そこは「光和26年のアジア連邦・日本共和国・東京市」
戦後の荒廃した世界だった。
さらに、何故か出世している。いきなり警視です。
営業マンのチャラい元彼が、しっかり者の部下。
事情を話すと、すぐに味方になってくれる。すごく頼りになる。
周囲の主要人物はそのままなのだが
母親が死んでいて、殉職したはずの刑事の父親が生きているが
顔も年齢も違う(これが意味がある)

戦後の闇市のようなものがあり
「羽黒組」と「ツルギ会」という二大組織が牛耳っていて
それを、この志麻警視が潰そうとしていた。
双方に話しを持ち掛け、相討ちを狙っている。
これ黒沢監督の「用心棒」のオマージュだと思います。
ちょっと設定が古臭い
羽黒組の親分は、シャブ中で強面のいかにもであり
ツルギ会は、婆さんがトップで、三人の危険な息子がいるが、長男と次男は少し滑稽なところがある
何となく、ジブリ作品の天空の城ラピュタの女海賊ゾーラに見えてきた
人情味のある女ヤクザなのです。

当然、大沢作品なので警察小説です。
両組織を解体させる方向へと向かいますが
同時に、志麻警視の出生の秘密
どうして、前の世界と今の世界では、父親が違うのか
色々な伏線をラスト怒濤のような急激な展開で収集し
最後は、納得のいく答えが出てくるという仕組みになっています。
2つの世界を行ったり来たり、殺人鬼に生命を狙われる所も見せ場だと思います。

ミステリーなので、詳しくは語れません。察してください。

p435
「そうだ、時間の流れが歪んでいて、こちらよりも、もっと時間が速くすぎることもあれば、ゆっくりの時もある。2つの世界の流れはいっしょではない」

前にいた世界で、時系列がバラバラに殺人事件が起こっていたのですが
犯人のこちらでの状況と合致しないのですが
このセリフで、正当化してしまうという後半荒業まで見せ、すべてのバラバラに配置されていたパズルが
一応は、読者の納得いく形でおさまります。

人物造形が深く。展開も軽やかでエンタメ寄り。
読者を楽しい方向に向かって、どんどん誘導してくれます。
最後、200ページはトイレに行くのも忘れていました。
刑事ものとSFが同時に楽しめる良い作品だと思います。



ページ数 552
読書時間 14時間
読了日 4/6

 

 

帰去来 帰去来
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