チーフ亡き後、平穏な日常が続きました。
結局腹黒先輩がショップ内の暫定一位となり、私たちのシフトや百貨店とのやりとりなど、全て腹黒先輩が行うようになりました。
チーフが辞めたのも、私の移動も、時期としてはかなり異例だったので、とりあえずショップに誰かが補充されることもなく、トップが変わることもなく、しばらくはこのままでいくようです。
しかし、腹黒先輩は役職にはついていなかったので、地区の他店チーフと本社が話し合って決まったことらしく、ペーペーばかりの私たちのショップには、本社の意向や動向などは全く分かりませんでした。
今まではチーフが地区を牛耳っており、ご存知の通り全てのことが筒抜けだったので、本社や地区で起こっている問題など、だいたいのことは把握していましたが、私のショップには凪のように何の情報も入ってこなくなりました。
チーフは物凄く自己中でワンマンな人でしたが、その人がいなくなったことで、今まで地区で1番店だった私のショップの求心力は一気になくなってしまいました。
色んな意味で凄い人だったんだな…と改めて思いました。
うちのショップは異常ではありますが、女性が多いこの世界で上に行く人は、やはりある程度おかしいくらいじゃないと登ってはいけないのかもしれないな…とも感じました。
他のメーカーの内情は計り知れませんが、やはり少しは異常な世界なのかもしれません。
チーフはもともと今のメーカーの親会社のメーカーで美容部員として働いていたことを、ことあるごとに話していました。
今よりももっと女しかいなくて、上下関係の厳しい世界で生き抜いた話をしていました。
よく言っていたのが、飲み会の席で盛り上げ要因だったチーフが、履いていたパンプスに日本酒を注いで、一気飲みをしていたということです。
もちろん、私がそこまでのことを強要されたことはありませんでしたが、チーフはチーフなりに凄い世界を渡ってきたのかもしれません。
でもそんなパンプス酒のエピソードを嬉しそうに話せるチーフは、その異常さが気に入っていたのかもしれません。
しんみりなりましたが、良くも悪くもチーフの穴は大きく、私の張りつめた毎日は一転しました。
私が他店移動するまで、あと1ヶ月です
そのこともあり、仕事にも身が入らずな毎日です。
でもよく考えたら、当たり前かもしれません。
今までチーフの機嫌ばかりを気にし、チーフの休憩時間を確保し、チーフが電話できる環境を整えることだけに注力してきました。
そして私は新人からずっとこのショップです。
短時間で接客する方法や買わない客を受け流す方法ばかりが身に付き、肝心の本当に必要な接客力はあってないようなものだったのです。
このショップに新人で配属されて、すでに2年も経っていました。
私は今まで何をしてきたのでしょうか。
やる気もなく、とにかく燃え尽き症候群のような日々が続きました。
しかしこの感覚は私だけではなく、他の先輩もみんな同じようにやる気をなくしていました。
みなさん、それぞれにチーフロスに陥っていたのです。
チーフはいなくなりましたが、チーフの存在はまだまだ根強く残っています。
しかも会える距離にいるというのが問題でした。
