忠臣蔵が好きなんですよ。なかでも、今夜放送されていた、松平健さん主演の「忠臣蔵」と、この「最後の忠臣蔵」が一等好き。

 

「最後の忠臣蔵」は、討ち入り直前で、大石内蔵助から内々に使命を受けた瀬尾孫左衛門が、その使命を果たすまでを描いた作品です。

 

 

 

 孫左衛門は討ち入り前夜に出奔したので四十七士の中に名前が残っていません。寺坂吉右衛門は何があったかを方々に伝える役目を仰せ使っていたので唯一の生存者でした。それでも、彼が十六年間してきた事は大石内蔵助の意思でした。

 

 静かだけどすごく強い赤穂浪士なんですよ、孫左衛門は。武士ではなく下人という立場だったけど。

 セリフのない、風景だけで画面が進んでいく描写が美しくって好き。言葉のないところの演技がなんともグッと来て…みなまで言うな、委細承知!みたいな。たぶん役所広司さんの演技?がそうさせてるのかな。喋らない、声のない場面すごくいい。 そんな場面もよかったし、照明?も昔っぽくて良かった。

 

 画面は暗いんだけどろうそくの灯りだからあれはあれでしょうがなくて、やさしい絵になっていい。ろうそくの灯りで浮かぶ可音様の表情や室内がうっすら見えるあたりや布連れの音だったりで色んな事を察して想像して……今と比べると何もなくて不便と思うけどわりかし豊かな心情で暮らしてたのかな。

 

 

■可音様がかわいいんです

「大石内蔵助の隠し子というこの身の始末をどうつけよう……孫左、うちは嫁ぐ。孫左の言う幸せというものに触れてみたい」

 育ての親・瀬尾孫左衛門が持ってきた縁談話を拒否して日にちが経った頃、孫左にこれを言うのだけど、このシーンがとてもきれい。儚いのに芯があって、凛とした美しさも出ていて、これが初時代劇だなんて。

 

 それから、嫁ぐ日までに孫左の着物を仕立てたくて反物を買って帰ってきたところがかわいい。

 

「うちはもう子供ではない、気遣いは無用」

 突っ張って自室へ駆けていったけど、その仕草はまだ子供。草履を脱ぎ散らかしているんだもの笑

 孫左も可音様は可愛くて仕方なかったんだろうなあ。だからやっぱり、孫左には生きて、内蔵助に代わって可音を、可音の子が生まれるまでをずっと、命ある限り見守り続けるという使命でよかったのに……ひょっとしたら可音は、孫左が"ああする"とわかっていたのかな。だから、嫁ぎ先に着いた時一度振り返って、孫左を見たのかな。切ない。

 そして、可音様はいつ、己が内蔵助の忘れ形見なんだということを知ったのかしら。ずっと知っていたのかな。幼いころからそう教えられて育ったんだろうか。「あなた様は大石内蔵助様の御息女にあらせられます」とかなんとか? この辺りは原作にも書いていないけど、きっとそうだったんだろうと解釈します(笑)

 

 

■御輿入れ〜ラスト

 御輿入れ行列の途中、元赤穂浪士たちが次々に出てきて、大石様へのせめてもの恩返しに、お供させて欲しい、と頼むところは目頭が熱くなりましたね。

 

「ありがたく思います。相見えることの叶わぬ父に代わり、厚く御礼申し上げます。」

 駕篭から顔を覗かせて彼らに礼を言うこのシーンがすごく胸にきます!

 

 道中の、この「しばし待たれよ~!」のところから涙腺は崩壊しており、嫁ぎ先に着き(田中邦衛さんから)口上を受けた後、振り返って孫左を見るあたりは、もう涙なんだか鼻水なんだか。

 

 おしあわせに、と口の形で伝える孫左の優しい顔。十六年間、孫左は口を閉ざして亡き殿の命に従い、可音様の為だけに生きてきました。赤ん坊の頃からの思い出を振り返りつつ、孫左は終活をはじめるわけです。

 

 だけど、私は孫左衛門には生きて可音を見守って欲しかった。命尽きるまで。それをしてもきっと誰も咎めはしなかったと思うし、この先、もし可音に子が生まれでもしたら、孫左に見せたいと言い出すだろうし、会いに行っても居なくなってたら寂しがるじゃないか(T . T)父親同様なんだから。

 だから、なにも、切腹シーンまでしなくてもよかったんだよ。きれいな風景のままフェードアウトする作りでも良かったんじゃないかと思う。「散り椿」のように。

 切腹してもいい、してもいいけど、切腹したんだなーってほんのり匂わせる程度でよかった。あそこまで血糊を見せなくっても! 吉右衛門が、孫左衛門は田舎へ帰りましたとかなんとか適当に言いくるめてさあ。

 だけども、武士だから、もうとにかく武士(孫左は足軽だったはずなんだが)だから、主亡き後も生き長らえる事は考えられなかったんだろうな。そこが口惜しい。

 

 

■夕霧大夫のエゴ

 可音がいつ、己が内蔵助の娘であると知ったかは、行間を読んだことにして納得したけれど、もうひとつ解せない事がありました。十六年前から、孫左の為にと、可音に対して手習いを教えていました。太夫が持てるスキルを全て注いで。どこへ出しても恥ずかしくない姫に、と子育てを手助けしてきたわけです。

 

 だけど最後にフラれました。

 

 可音の御輿入れが済んだ日の夜、祝い膳をこしらえ、(切腹のために)帰宅した孫左を呼びます。そして、切腹するのを見越して、「この世に男を留められるのは女……」と、孫左衛門にしなだれかかってきます。夕霧太夫が。布団まで用意していたのに、フラれました(笑)

 

 この、「孫左はんの為に」と言うのはとてもずるいな、と思ったのでした。恩着せがましい。「これだけ尽くしてきたのに報いてもらえないのか」と恨み節も出ていたけれど、だいたい、そうやって見返りを期待して動くからそういう恨み節が出るわけですよ。

 孫左衛門に尽くしたかったから尽くした、それだけじゃ駄目だったんだろうか。彼のことが好きだった、だから手伝ってきた。それだけでいいじゃない。

 この子が嫁いだ暁には私がもらうっていう気持ちでやってたのかしら。夕霧太夫ほどの女性が、勝手に思いを押し付けてるわ〜…と思ったのだけど、恋とはそれほどまでに人を狂わすということか……🤔

 

 

■田中邦衛さん

それから、田中邦衛さんの遺作でもあります。公開当時はご自宅か施設かわかりませんけどのんびり過ごされていると聞きました。嫁ぎ先に到着した際、奥野将監(赤穂旧家臣)として口上を述べるシーンだけでしたが、とっても大事なシーンで存在感もありました。

 

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ラストが生々しかったんですが、数ある忠臣蔵をテーマにした作品の中ではこれが一番好きです。