小出裕章先生:もともとその夢(原子力かける夢)というもの自身がほとんど幻だった | 私にとって人間的なもので無縁なものはない

小出裕章先生:もともとその夢(原子力かける夢)というもの自身がほとんど幻だった



ネット署名で社会を変える~Change orgの戦略に迫る
(ラジオフォーラム#96)

http://youtu.be/46CY3MqvqzI?t=17m9s
17分9秒~第96回小出裕章ジャーナル
次世代型高温ガス炉とは?「まだまだ実験炉すらまともに動いてないという、そういう施設ですので、それが安全だなどということは到底あり得ないです」

http://www.rafjp.org/koidejournal/no96/

ガス冷却高速炉の図

湯浅誠:
今日伺いたいのは、次世代型高温ガス炉っていうことなんですけども。高温ガス炉って言うから、ガスを使ってLPGとかなんとか使ってということなのかなと思ったら、これ原子炉の一種なんですか?

小出さん:
そうです。もちろんLPGを使ったりするという、そういうことではありません。現在、日本で使っている原子力発電所の原子炉、あるいは、ほとんどの世界の原子力発電所の原子炉というのは、水を使って冷却しているのです。
原子炉格納容器
原子炉格納容器

そして、水の温度がせいぜい330~340℃ぐらいまでしか上げることができないのです。それ以上に上げてしまうと、燃料が溶けてしまうという危険があって、そのぐらいの温度にしか上げられないのです。

そうすると、発電機に繋がってるタービンというのがあるのですけれども、タービンを回す時の蒸気の温度で発電の効率が決まるのですけれども、たかだか330~340℃ぐらいの水しか使えないということになると、発電効率が33%にしかならないのです。つまり、原子炉の中で発生させた熱のせいぜい3分の1しか使えないで、3分の2は捨てるしかないという、まことにばかげた発電施設。
海温め装置

湯浅:
「それを海水に流しているから“海温め装置”だ」って小出さんが言ってたあの話ですね?

小出さん:
はい。ですから、何とかして、その効率を上げたいという風にはもちろん、原子力をやってきた人達も思ってきたわけです。実際に火力発電所等は、もうすでに蒸気の温度が500℃ぐらいまでの蒸気で発電していますので、熱効率は50%をもうすでに超えてるというような状態なのです。

それに比べて原子力発電所はもうほんに効率が悪いので、なんとかしたいと思ってきて、少しでも温度の高い状態の原子炉を動かしたいと思ってきました。そして、300℃ぐらいの蒸気しか使えないとなると、せいぜいその発電にしか使えないのですが、例えば、900何十℃とかのガスを使えるようになれば、うまくすれば製鉄に使えるかもしれない。うまくすれば、水素の製造に使えるかもしれないという、様々な夢を昔から描いてきたのです。ただ、どこにもそんなものはありません。
高温ガス炉による熱のカスケード利用概念
高温ガス炉の多目的利用
高温ガス炉と軽水炉との経済性比較検討例

湯浅:
政府が今回、原発事故を受けてってことなんでしょうが、その高温ガス炉である高温工学試験研究炉、茨城県大洗町にあるって言うんですが、それの再開に向けて動き出したということなんですが、じゃあ、要するにこれは、水の代わりにガスでタービン回すんだという。要はそういうことですね?

小出さん:
そうです。

96-koide

湯浅:
原発事故を受けて、それの研究に着手した、再開したということは、それだと安全なんですか?

小出さん:
もちろん、そんなことはありません

湯浅:
そんなことないですよね?

小出さん:
はい。これまで水を使って冷却していた原子炉だって、「一番それがいい」と世界中の原子力を進めてきた人達が言ってきたわけですけれども、それでも様々なトラブルが起きてきたし、時には福島第一原子力発電所の事故のようなことだって起きてしまうわけです。それに比べれば、高温ガス炉なんていうのは、まだまだ実験炉すらまともに動いてないという、そういう施設ですので、それが安全だなどということは到底あり得ないです。

湯浅:
なんかその説明によると、事故を起こしても核分裂反応が自動的に止まって核燃料を空気で自然に冷却できる等、軽水炉より安全性が説明されてるみたいなんですけど。

小出さん:
それは、絵に描いた餅だろうと思います

湯浅:
絵に描いた餅。

小出さん:
軽水炉にしたって核分裂の連鎖反応止めること自身は大変容易だと彼らは言ってきたわけです。チェルノブイリ原子力発電所の事故が起きた時には、核分裂の連鎖反応が暴走するという形で起きたのですけれども、その時、日本の原子力を推進してる人達は、「あれはロシアの原子炉だからああなったのであって、自分のところはそんなことにはならないから絶対原子炉は大事故になりません」と言っていた。
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉 (RBMK) の構造図
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉 (RBMK) の構造図

それでも、福島の第一原子力発電所はやはり大きな事故になってしまったわけで、形が少し違ったからと言って、原子炉そのものが完璧に安全になるなんていうことはもちろんあり得ないのです
黒鉛減速沸騰軽水圧力管型炉心崩壊事故

原子炉の安全性 平成2ー年2月作成 - 日本原子力学会
http://www.aesj.or.jp/info/ps/AESJ-PS006r0.pdf

湯浅:
なんか話聞いてると、もんじゅの話に似てます。いずれすごいのができるんだ的なところが似てるような気がしますが。

小出さん:
ずーっとそうやって原子力に関しては、夢をかけてきたわけですけれども、もともとその夢というもの自身がほとんど幻だった。原子力の燃料は無尽蔵で、化石燃料がなくなったあとは原子力だと当初は言われていたし、私自身も実はそれを愚かにも信じたわけですけれども。
東京新聞19551231
原子力の燃料であるウランなんていうのは、地球上にはほとんど存在していなくて、化石燃料が枯渇するはるか前に枯渇してしまいます。仮に、高温ガス炉なんてやっても同じことになります。それを何とか逃れようとして、もんじゅというプルトニウムを生み出しながら使うという原子炉をやろうとしたのですけれども、それも結局できないまま今日に至っています。
エネルギー資源の可採年数
原油生産の予測

湯浅:
分かりました。今日もどうもありがとうございました。

小出さん:
いえ、ありがとうございました。

日本は原発推進の米国の代理人

原発導入のシナリオ ~冷戦下の対日原子力戦略~

http://youtu.be/EbK_OlzTaWU


東電清水元社長

ぼくも原発に反対です 手塚治虫


調査報告 原発マネー ~"3兆円"は地域をどう変えたか~

http://dai.ly/x1k10ec
2012年3月8日放送
3.11 あの日から1年
調査報告 原発マネー~"3兆円"は地域をどう変えたか~
福島第一原子力発電所の事故から1年。
東京電力は燃料費の高騰を理由に電気料金の値上げを予定している。
その前提となる現在の電気料金制度が妥当なのかどうか。政府は複数の有識者会議を設け、検証を進めている。
焦点の一つが、原発の建設・運転にともない自治体に入ってくる、国からの「交付金」、電力会社からの「寄付金」などの原発関連コスト、いわゆる“原発マネー”である。
私たちの税金や電気料金から賄われているが、どれだけのカネが何の目的で自治体に渡されたのか、今もよくわかっていないものが多く、その全貌は明らかになっていない。



小出裕章氏 金沢講演会

http://youtu.be/JH0vjxzg7Ws
石川県保険医協会主催  原発・いのち・みらいシリーズ 第5回「福島原発事故の現状と未来」 講師:小出 裕章 氏(京都大学原子炉実験所助教)
福島原発事故の現状と未来



2010年6月7日 フライデー
2011年6月7日フライデー 川内原発
2011年6月7日フライデー 川内原発02
2011年6月7日フライデー 川内原発03
2011年6月7日フライデー 川内原発04


火山の噴火対応 「埋めること?」


川内再稼働 知事同意 周辺自治体を無視
(東京新聞【核心】)2014年11月8日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kakushin/list/CK2014110802000134.html
 鹿児島県の伊藤祐一郎知事が七日、九州電力川内(せんだい)原発の再稼働への同意を表明した。原発周辺の地方自治体から議論に参加させるよう求められていたのに無視。県のトップから説明してほしいという住民の声にも応えなかった。県による避難計画も実効性に多くの疑問が残る中、再稼働への動きだけが進んでいる。 (小倉貞俊)

川内再稼働 知事同意 核心

 ◆怒 号

 「薩摩川内市長と市議会、県議会のご意向を総合的に判断する」。正午すぎ、伊藤知事は傍聴席から怒号が飛ぶ県議会議場でこう宣言した。その約二時間半の記者会見で「再稼働はやむを得ない」と同意を表明した。
 その瞬間、再稼働するのに同意が必要とされる「地元」に加えるよう求めてきた周辺のいちき串木野日置両市議会、再稼働反対と廃炉を要求した姶良市議会の声は無視される形となった。
 原発が再稼働すれば、周辺自治体も、立地自治体の薩摩川内市とほとんど変わらない事故のリスクにさらされる。福島第一原発事故を起こした東京電力の幹部が六日の衆院特別委員会で 「原発の三十キロ圏内の自治体の理解がなければ、再稼働させるには十分でない」と明言したが、事故の教訓を受けた発言も伊藤知事には届かなかったようだ。

  ◆逃 げ

 周辺自治体の議会だけでなく、住民の声にも耳を傾けなかった。
 県は各地で住民説明会を開いたが、避難計画の質疑には応じなかった。十月末に日置市で避難計画を説明した際、住民から「(他の周辺の)各市町でも開いて」「県の最高責任者が説明すべきだ」との要望が相次いだ。県の職員は「持ち帰る」としながら、結局、住民に回答を伝えないまま、知事が同意表明した。
 その一方で、知事や薩摩川内市長は「同意」という言葉は避けてきた
 伊藤知事は「同意は(再稼働の)法的な条件でなく、同意という言葉を使わなくていい」と弁明。十月二十八日に同意表明した岩切秀雄市長も、記者から「同意」の有無を問われると「国の責任の下で再稼働することを立地自治体として理解する」と繰り返し
た。
 再稼働には地元の同意が不可欠で重いのに、自らの判断の責任を回避し、九電や政府のせいにする姿勢が見える。

  ◆放 置

 最大の問題は、九市町に委ねられている避難計画が、どれも不-万全なまま放置されていることだ。
 自治会ごとに避難所や複数の避難ルートが提示されてはいるものの、津波や土砂崩れなどで使えなくなった場合にはどうするのか、実践を想定した検証はされていない

 また本紙が、避難者の受け入れ先に指定されている十五自治体(熊本県含む)や施設に取材したところ、受け入れ策は検討されておらず、施設への通知もほとんどないという実態が判明している。
 施設を訪ねて責任者に取材しても、当事者意識は薄かった。
 「地元同意」という手続きが終わり、九電や政府にとって再稼働への残るハードルは、政府の原子力規制委員会による事故時の対応計画の審査や現場の検査だけとなる。今後、淡々と進められていくとみられ、避難計画など住民の安全確保策は置き去りにされたまま、原発が再び動きだす可能性が大きい


私たちは認めない




九電原発依存 頼る九州経済 売上高桁違い
(東京新聞【こちら特報部】)2014年11月7日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014110702000163.html
 二〇一四年九月中間連結決算は、電力大手十社のうち九州電力だけ純損益が赤字となった。赤字脱却には、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)のほか、玄海原発(佐賀県玄海町)の再稼働も必要だという。そんな再稼働を地元企業の多くも待つ。九州で断トツ、約一兆七千億円の売上高を誇る九電が利益を出さないと、経済的に潤わないという地元の事情が、背景にある。
(沢田千秋、篠ケ瀬祐司)

九電原発依存 頼る九州経済 売上高桁違い_1

「優等生」電力唯一の赤字

 「原発が四基あってこそ収支は安定する」。中間決算を受け、記者会見した九電の瓜生道明社長はそう語った。四基とは、再稼働申請中の川内原発1、2号機と玄海原発3、4号機。九電の経営は、玄海原発1、2号機を含む計六基のフル稼働で成り立っていた。東京電力福島第一原発事故前の一○年九月中間決算は、原発がフル稼働し二百十八億円の純利益を出している。
 一○年度、九電の供給電力量に占める原発の割合は39%だった。原発設備の故障や事故が少なく、設備利用率は全国平均の約7割を上回る8割を維持し、電力関係者から「原発の優等生」と言われた。
 だが、原発の再稼動をできず、昨年の電源別発電量は石炭火力33.6%、液化天然ガス(LNG)火力37.1%、石油火力18.4%。円安や燃料価格高騰で、石炭、石油、LNGなどを合わせた燃料費は、一○年度の二千八百億円から一三年度は七千五百億円に激増した。
 さらに、原発を新規制基準に適合させるため、安全対策費三千億円が重くのしかかる。
 九電は他の電力会社同様、経営効率化を目指した。設備の定期点検周期を延ばし、規模を縮小し、修繕費を二十年前の半分に抑え、広告宣伝費、研究費など諸経費も削った。役員報酬カットやボーナス見送り、新規採用の抑制などで人件費も削った。それでも、九電だけが約三百六十億円の純損益になったのはなぜか。
 九電によると、九州は山間部や離島が多く、送電効率が悪い。一キロ当たりの契約口数は五七・三口で、十社平均七七・九口を大きく下回る。離島も多い。沖縄県を除く全国の離島の62%の電力を九電が供給する。離島は需要密度が低く島ごとに発電設備を設置するため、燃料の輸送費もかかり、発電コストは九州本土の二倍に達する。
 台風被害も他の電力会社より多いという。一九五一~二○一三年の都道府県別の台風上陸数ランキングで、ベスト10に一位の鹿児島県を含む九州四県が入る。一度の台風で電柱数百本、電線数千カ所が被害を受けることもある。
 しかし、より発電効率が悪く原発依存度が高い他の電力会社が同時期、黒字だったことも事実だ。九電の広報担当者は「値上げの時期と改定額」を赤字の理由に挙げた。昨春、九電は家庭向けを6.23%、企業向けを11.94%値上げした。値上げ幅は、川内原発1、2号機が昨年七月、玄海原発4号機が同十二月、同3号機が今年一月に再稼働すると想定して算出した。再稼働時期が延びるほど差額が生じ、多額の赤字に陥るという説明だ。
 担当者は「同時期に値上げした関西電力は十一基あるうちの四基が再稼働想定時期を過ぎたが、六基中四基を見込んだ弊社より差額は少ない」と話す。再稼働の想定時期について、瓜生社長は記者会見で「当時の判断だったとしか言いようがない。原子力の安全担保のために必要な期間だったと思う」と述べた。

九電原発依存 頼る九州経済 売上高桁違い_2

売上高桁違い 関連会社は71

 ともかく、原発の再稼動は、九電にとって喫緊の課題だ。瓜生社長は四日、川内原発の周辺四市町の首長と鹿児島市内で会談し、安全対策などを説明した。先月の会談と合わせて、立地自治体の薩摩川内市を除く原発三十キロ圏の八市町の首長への説明を終えた。
 瓜生社長は説明後、記者団に「一定のご理解はいただけたのではないか」と話した。各首長から大きな反対論は出なかったようだ。
 だが、原発事故が起きれば、周辺自治体は大きな被害を受ける。地元紙の南日本新聞が四月に鹿児島県内で行った世論調査では、六割近くが再稼働に反対だった。それでも首長から目立った反対論が出ないのは、なぜか。
 鹿児島国際大の八木正准教授(環境経済論)は「九州最大の企業であり、電気事業をほぼ独占する九電の影響力はものすごく大きい。再稼働に反対することで、(国や県による)公共事業など、行政全般に及ぼす悪影響も心配しているのだろう」と分析する。
 確かに、九電は九州の企業の中で突出した存在だ。
 東京商工リサーチの資料によると、一四年三月期決算の九電の売上高は一兆6829億円で、九州でトップ。福岡県の一四年度の一般会計当初予算額とほぼ同じだ。2位のトヨタ自動車九州は7863億円、3位のTOTOが3985億円とは桁が違う。
 九電の従業員は約一万三千人。帝国データバンクによると子会社・関連会社は計七十一社。地元経済界をリードする九州経済連合会の会長は、発足から七代続いて九電出身者が就いた。
 財団法人「九州経済調査協会」(福岡市)は三月、九電の原発停止が九州経済に与える影響を試算した。燃料費の大幅増加などのコスト増や人件費・設備投資削減の損失は五千二百七十二億円。福島第一原発の事故前、一○年度の九州の域内総生産(GRP)は約四十四兆円だったから、試算した損失は1.2%にあたる。
 田代雅彦調査研究部長は「低成長時代に1.2%は大きな数字。これは一次的な影響で、他企業の設備投資減少など二次的影響を加えると、負の影響額はさらに増える。東京には多くの大企業が本社を構えているが、九州では九電の存在感は圧倒的だ」と解説した。九電の代わりとなる企業が九州にはないわけだ。
 経費削減で、九電が各地のオール電化などのPR施設を閉鎖し、テナントに空きが出るといった影響も出ている。鹿児島市中心部の一等地にある鹿児島商工会議所ビルでは三月末に契約が終了し、約七百平方メートルが空いている。
 地域への寄付も減った。震災前の三年間は年平均で総額十四億円を寄付していたが、一二年度は約四億円。一三年度は一億円に激減している。
 「原発停止でホテル旅館・民宿業はもとより、サービス業、バス・タクシー業など関連業種の売り上げ減少などの影響が拡大する」。約七十団体でつくる「薩摩川内市原子力推進期成会」は、早期再稼働を求めて市議会に陳情した。
 前出の八木准教授はエネルギー行政への市民の参加や九電だけに頼らない経済の実現が望ましいと説く。
 「九電は自然再生エネをどう進めるかなどを、市民の意見も聞きながら進めるべきだ。各地でガス会社が電気事業に参入する動きが出始めた。これらに取り組む事業者が将来、九州全域で相互協力することで変化が生まれるのではないか

九電原発依存 頼る九州経済 デスクメモ



環境省が健康影響否定の中間案 初期被ばくを過小評価
(東京新聞【こちら特報部】)2014年11月4日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2014110402000182.html
 福島原発事故による健康影響について、環境省の専門家会議は議論を続けてきたが、同省は先月、その中間取りまとめの案を公表した。内容は健康影響を否定する姿勢が色濃い。被ばくデータの欠如が問題視されながら、「事故が起きても大したことがない」という結論ありきの方針がうかがえる。再稼働の動きが強まる中、未来の事故の影響すら、すでに過小評価することを約束しているようにすら読める。
(榊原崇仁)

環境省が健康影響否定の初期被ばくを過小評価_1

福島事故「被ばく小さい」 複数委員 データ不足指摘

 「被ばく線量の上限値でも、健康影響をもたらす可能性は低い」
 中間取りまとめ案にあるこの一文は、とりわけ懸念されている小児甲状腺がんの増加と放射線影響の因果関係を否定したものだ。
 この案は十月二十日の専門家会議で示された。福島県はすでに「健康影響は考えにくい」と見解を出しており、これにお墨付きを与える内容となっている。
 だが、そう結論づける根拠は極めてあいまいだ。
 政府は福島事故後の二○一二年三月末、福島県内の子どもを対象に放射性ヨウ素の内部被ばく線量を測定した。放射性ヨウ素が甲状腺がんを誘発する恐れがあるとされているためだ。
 環境省は案で「被ばくの実測値などを考えると、甲状腺の内部被ばくが百ミリシーベルトを超える可能性は小さい」と記し、加えて低線量被ばくの健康影響についても否定的に見ている。
 低線量被ばくの軽視も問題だが、「こちら特報部」がこれまでに指摘してきたように「被ばく線量は小さい」と言い切れるのかという根拠は明確ではない。
 そもそもヨウ素被ばくを測定したのは、わずか千人程度。福島県民二百万人、このうち十八歳以下の子ども四十万人で、被ばく線量を網羅的に把握できているわけではないからだ。
 環境省によれば、案は過去の委員の発言をもとにまとめたという。ただ、被ばくデータの欠如を重く見る委員は少なくない。
 先月二十日の会議では、日本医師会の石川広己常任理事が「(被ばくデータの)不確実さは私が指摘してきたところ」と主張。東京医療保健大の伴信彦教授も「一番高い被ばく線量はよく分かってない」と述べ、日本原子力研究開発機構の本馬俊充氏も同調した。
 ちなみに伴、本間の両氏は、原発推進派寄りと批判されがちな国際放射線防護委員会(ICRP)の委員だが、そこからさえも「待った」がかかった格好だ。
 環境省の担当者は取材に対し、「ご指摘を踏まえて検討する」と答えた。しかし、一度示した見解を引っ込めるとも考えにくい。
 原発再稼働に前のめりになる政府の姿勢を見るにつけても、環境省が「事故が起きても大したことがない」という結論を早々に出す懸念は拭い去れない。
 二人の子どもを持つ福島県いわき市の男性(五三)は、こうした政府の姿勢に不満を募らせる。
 「うちの子たちは、どれだけ甲状腺に内部被ばくがあったか測ってもらってない。だから『被ばく線量は小さい』『健康影響の可能性は低い』と言われても、安心のしようがない。政府はこの問題の幕引きを早くしたいのかもしれないが、福島の被災者をないがしろにしてほしくはない

環境省が健康影響否定の初期被ばくを過小評価_2

防災指針 教訓生きず 「次の事故」でも被害無視か

 「政府が原発事故の被害から目を背けるのは今に始まったことではない。体質としか言いようがない
 放射線医学総合研究所の元主任研究官で、国会事故調の委員を務めた崎山比早子さんはそう言い切る。
 崎山さんは放射性ヨウ素による内部被ばくの実測データが約千人分しかないのも、その体質に起因する部分が大きいとみる。
 政府はなぜ、十一年三月末に実施した子どものヨウ素被ばくの測定調査を千人程度で打ち切ったのか。
 この疑問については、一二年に内閣府の原子力安全委員会(当時)が公表した資料で触れられている。ここで政府は「調査を行うことが、本人家族及び地域社会に多大な不安を与えるおそれがある」といった理由を持ち出していた。
 一連の経緯は国会事故調の報告書にも記載されているが、崎山さんは「調べるのをやめた本当の理由は別にあると思う」と語る。
 「被ばく実態を正確につかむと、議論の余地がないほど深刻な状況が出ていたはずだ。事故責任の追及をかわしたい政府は、言い逃れのために、ごく一部のデータ、それも被ばくを小さく見せられるものしか残さなかったのではないか
 現在からでも被ばくのデータを測定できればよいのだが、放射性ヨウ素は半減期が八日と短く、2か月ほどで測定できなくなる。そのため、現存するデータを使わざるを得ない。
 深刻なのは同じような状況が、次に原発事故が起きた際にも生まれる可能性が否定できない点だ。
 国が示す防災の方針「原子力災害対策指針」には、個々人の被ばく線量を把握する必要性が記されている一方、放射性ヨウ素による内部被ばくの測定をどの機関がどの範囲まで進めるかについて、具体的な記述が何ら示されていない。
 原子力規制庁の担当者は「積み残しになっている課題の一つと認識しているが、現時点ではまだ議論できていない」と明かす。
 明確なルールがない現在の状況下で、ヨウ素被ばくを調べることになったら、福島の事故時と同様、被ばく状況を直視しない政府の体質が顔をのぞかせることになりかねない。
 自治体レベルでも、ヨウ素被ばくの調査方法については白紙の状態だ。
 今月二、三の両日、北陸電力志賀原発の原子力総合防災訓練があった。立地県である石川県の担当者は「避難計画の策定など、被ばくを避けるための予防策には手を付けている。だが、実際に被ばくしてしまった線量をどう測るかという点については、国が方針を示しておらず、具体的に検討できていない」と話す。
 衣類などに放射性物質が付いているか調べるスクリーニング検査は、過去の訓練でも実施してきた。しかし、汚染を早く見つけて取り除くという点が目的のため、被ばく調査とは似て非なるものだという。
 知事が再稼働に前向きな九州電力川内原発の地元、鹿児島県はどうか。
 県の地域防災計画では、放射性ヨウ素の半減期を考慮し、「発災後一週間以内をめどに、放射性ヨウ素の吸入による内部被ばくの把握を行うものとする」とあるが、同県の担当者は「計画に書いてある内容以上のことは決まっていない」。
 川内原発の再稼働に反対する「反原発・かごしまネット」の向原祥隆代表=鹿児島市=が現状の防災対策に向ける視線は厳しい。
 「事故時に避難したとしても、被ばく状況をチェックしないまま、無事避難できたと言えるのか。それではただの移動にすぎない。事故があったときの備えができてない以上、再稼働は到底無理な話だ

環境省が健康影初期被ばくを過小評価_デスクメモ