守屋said
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門番1『連れてきました』

?『よし、下がっていい』

中へと通された私達は、司令官の前に連れてこられた。

?『まさか、堂々と正面から入ってくるとは、な』

ひらがな国司令官佐々木久美。

指揮者としての評価は未知数だが、世界で一・二を争うほどの貧困国を三大国にまで引っ張りあげた実力者。

土生『早急に渡邉をこちらに明け渡して頂きたい』

佐々木『それはできかねる』

土生『何?』

佐々木『渡邉大佐は、自らの意思で我々の仲間になった』

土生『なんだと?』

守屋『ふざけたことを言うな!』

土生『茜!』

理佐がひらがな国の仲間に?

そんなことがあってたまるか!

佐々木『そんなに信じられないと言うのなら、実際に見せてやる、おい!』

ひらがな兵『はい』

佐々木『渡邉を連れてこい』

ひらがな兵『分かりました』

佐々木『仲間が裏切ったと言う事実を、噛み締めるがいい』

佐々木はそう言うと、ニヤリと笑った。



コンコンッ

ひらがな兵『連れてきました』

土生『!!』

守屋『理佐…』

目の前に広がる光景を、信じたくなかった。

今私達の前に立っている人物は正真正銘、理佐だった。

身体のあちこちに包帯が巻かれ、真新しいひらがな国の軍服に身を包んだ。

渡邉『助けに来るだけ、無駄だったな』

守屋『嘘…』

佐々木『どうだ?事実だったろう?そちらのNo.2である渡邉大佐がこちらのものなったわけだ、どうやら前々からそちらに不満があったようだしな』

守屋『そんな…嘘だ』

渡邉『私は自分の意思でここにいる、もうそちらに戻ることはない』

見たことのない、理佐の冷たい視線。

信じられない。

理佐が_

渡邉『ついでにこれを持って帰って志田に処分させてくれ、もう二度と使うことはないしな、私の残りの仕事は志田にでもやらせろ』

そう言って、理佐は私に欅軍の階級手帳を投げつけた。

渡邉『失礼します』

そして佐々木に、深々と礼をして部屋を出ていった。

佐々木『さて、用事はお済みかな?こちらも忙しい身でね、そろそろお引き取りいただきたいのだが』

土生『茜、行こう…』

理佐は、私達が知る理佐じゃなくなったんだ_

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平手「…まさか」

守屋「…」

大急ぎでの基地への帰還。

理佐を助けて戻ってくるはずだったのに…

平手「…分かった、土生、報告書は明日以降提出で、今日はもう休んでいい」

土生「分かりました」

平手「ご苦労だった」

土生「いえ…」



投げつけられた階級章を開いてみると、顔写真に刃物を突き立てた痕があった。

愛佳に渡せって言ってたよね…

守屋「愛佳、これ…」

志田「ああ…ありがとう…」

守屋「葵には?」

平手「葵はまだなにも知らない、説明できずじまい」

守屋「…」

葵には、なんて説明したらいいんだろうか。

理佐が、敵になったと言う事実を。

平手「愛佳に事務作業させろは無茶だなぁ…」

守屋「ふふっ、まったく…愛佳?」

てちの冷やかしに乗っかって愛佳を見ると、理佐の階級手帳を至近距離で見つめていた。

守屋「どうしたの?」

志田「カッター…ある?」

平手「あるよ」

てちは引き出しからカッターナイフを取り出して、愛佳に渡した。

守屋「なに、してるの?」

志田「ここの糸、一回切られてまた縫われてる」

守屋「え?」

新しく縫われていた糸を切ってみると、中に紙が入っていた。

小さなメモ紙程度の大きさの紙が二枚。

《欅国憲法書 P.727 鍵→机二段目 1123》

守屋「これ、なに?」

平手「暗号?」

志田「机の二段目って、もしかして…」
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数年前

志田『改めまして、大佐昇進おめでとー!』

渡邉『ありがとー』

理佐が私達のなかで一番早く大佐に昇進したとき。

皆で集まってファミレスで盛大にお祝いをした後、改めてお祝いしようと理佐の部屋に押し掛けたときだった。

志田『いやーめでたい』

渡邉『わざわざいいのに』

志田『いーのいーの』

大佐と言えば幹部レベルの軍の中核を担う存在。

親友が至上最年少幹部と言われ称賛されていることが、自分のことのように嬉しくてしかたがなかった。

志田『あれ?机変えたの?』

それまで使っていた理佐お気に入りの机が変わっていた。

渡邉『自分に昇進祝い』

志田『前のは?』

渡邉『あーあれ、葵にあげた』

志田『ほう、何この二段目、めっちゃ厳重じゃん』

渡邉『そ、大佐になって重要書類を扱い始めるから、何かの役に立つかなーって』

志田『へー』

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あれからあまり触れずにいたんだけど。

志田「やっぱり理佐は、自分の意思で寝返った訳じゃないよ…」

平手「…暗号?」

志田「うん…」

茜やてちにはきっと、自分の顔写真に刃物を突き刺した、くらいにしか思わなかったんだろうな…

でも私にはすぐ分かった。

これは「協力を求める」っていうサイン。

守屋「そういえば、もう一枚の紙は?」

志田「…やっぱり、ね」







《愛佳、後は頼んだ》








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いつも読んでくださってありがとうございます!
    ひらがな国の司令官、誰にするか迷いに迷った結果ささくでした。
理佐がひらがな国側に寝返った(フリ)をした理由は次回以降に出てきますが、一言で言えばささくが理佐に「惚れた」のを利用した、でしょうか。(笑)
あまり悪い役回りにしたくなかったのですが(ささく好きなので)、一応敵なので悪くせざるを得ませんでした。
それでは、次回も是非読んでください!
これからもよろしくお願いします!