守屋said
てちは土生ちゃんに指示を出した後、ねるが寝ているベッド脇の椅子に座った。

志田「…大丈夫、理佐がやられるわけない、絶対…」

平手「…」

愛佳の誰にでもなく発せられたその言葉は、まるで自分に言い聞かせているようだ。

守屋「…」

志田「…」

長濱「うぅぅ…」

平手「!」

志田「!?」

守屋「!!」

さっき梨加ちゃんにねるが寝てると言われたカーテンの奥から、呻き声が聞こえた。

平手「ねる!?」

長濱「いっ…」

志田「ねる動かないで!梨加ー!」



守屋「…」

もう日が沈みかけている。

病室の壁はオレンジ色に染まっている。

今日は一日快晴だったもんなぁ…

明日の朝は少し寒いかも、と思って布団をかけ直してあげる。

守屋「…」

理佐を失うのは怖い。

そう思っているのは私たちだけじゃない。

きっと、軍隊員皆が思っている。

それだけ理佐は偉大なんだ。

そんな偉大な人が、簡単にくたばるわけがない。

守屋「…友香」

…もし今友香がいるのが、目の前のベットではなくて私のすぐ隣だったとしたら。

友香は何て言うかな。

「茜、無理しないでね」かな?

それか「理佐のこと絶対助けてね」かな。

もしくは友香の班も出撃だったかもしれない。

守屋「…あ」

壁掛けの時計は、もう皆が集まり始めているであろう時間を示している。

そろそろ行こう、と腰をあげると自然と左の口角が上がった。

守屋「…安心してよ、友香、だって_」

これはかつて、友香が教えてくれた癖だったよね。

守屋「私は無事に帰るし、理佐も救出する_」

仲間の救出のために出される指示には拒否権がある。

仲間を助けるために自分の命を投げ出す必要はない、という先代司令官の方針の元に。

でも、例え直属の上官が辞退したとしても、私はしたことがない。

『どうしても行くのか』との問いに答えるときは左口角を上げながらこう言うんだ。

守屋「友香、待ってて」

『当然です』ってね。



平手said

志田「あれ、茜は?」

平手「友香のところに寄ってから来るって」

志田「あーなるほど」

平手「そろそろ来るんじゃない?」

志田「そうねー」

茜が友香のところに行くのは遠征任務前の一種のルーティンのようなもの。

それをして遅刻するわけでもないから、口は挟まないようにしている。

愛佳も茜も、落ち着いているようで落ち着きがない。

目泳いでいたり何度も時計を見たり。

そしてそれは私も同じ。

理佐なら大丈夫だと思いながらも、信じきれていない。

ソワソワしてしまう。

コンコンッ

守屋「失礼します、只今戻りました」

平手「よし、各班長集合してくれ」

約一時間前に決まった救出任務。

各班から二人ずつ選抜された少数形態に医療部員と諜報部員数名。

詳しい打ち合わせが全くできないまま出動することになる。

ここで確認できることはしておかないと。

平手「まず茜、葵には?」

守屋「理佐の安否不明のことと今回の救出任務のことは伝えてない、でも、バレるのは時間の問題」

平手「そこは私が何とかする、あと今回の現場指揮は_」

土生「私がやります」

平手「!」

志田「!」

守屋「!」

平手「土生大佐…」

土生「皆を信頼していないわけではないですが、私は渡邉大佐との接点が少ない分冷静な判断ができると思っています」

志田「…」

守屋「…」

平手「…よし、分かった、茜は愛佳のことよろしくね」

守屋「任せて」

平手「愛佳も茜のことよろしく」

志田「もちろん」



平手「…」

大丈夫だ。

だって、理佐だよ?

帰ってくるに決まってる。


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長濱『_それで崖が崩れて…理佐が守ってくれて…そこにひらがな国が…理佐が援護を…』

織田『その隙に私と齋藤中佐が助けに…援護が無ければ救出が不可能な状況だったので、長濱大佐の次に渡邉副隊長という考えだったのですが…』

志田『ねるを助けた直後にひらがな国の逆転に遭った、と…』

織田『はい…』

平手『…急いだ方がいいね』

_________________________

平手「…」



守屋said

土生「ここ、だよね?」

守屋「うん、やっぱり…」

志田「っ…」

ねるや織田が言っていた崩落現場に着いた。

が、崩落によって積み上がっていたと思われる岩が、不自然に散らばっている。

そして至るところに、理佐のものと思われる血痕があった。

恐らくは、ひらがな国が理佐を救出し、連れ去った_

土生「…怪我をしてることを考えると時間がないね」

守屋「拷問を受けている可能性もない訳じゃない…」

土生「総員、この場にて荷物を最低限にまとめ直し!全員完了し次第早急にひらがな国へ向かう!」

全班員「了解!」

拷問…

受けていたとしても、理佐が何も話すわけがない。

そうしたらもっと…

守屋「…終わらせよう、早く」

志田「…」

守屋「助けよう」

志田「茜」

守屋「ん?」

志田「帰ったら焼肉行こ、皆でね」

守屋「…もちろん」



土生「奇襲は副隊長を人質にとられる可能性が高い」

志田「じゃあここは礼儀正しく正面から訪問しようか」

土生「いいね、茜一緒に来てくれる?」

守屋「分かった」

土生「とはいえそれで副隊長を返してもらえるとも思えないから_」

志田「私がその隙に侵入して理佐を探す」

探しだす。

絶対に。

土生「あとは各班援護、医療部員には治療の準備、諜報部員には諜報活動の指示を」

志田「よし」

守屋「了解」



志田said

土生ちゃんと茜が正面の入口に向かうと同時に、私は侵入可能な窓を選定し近くの茂みに隠れた。

茂みの隙間から、門番と二人の様子が確認できる。

さすがに声は聞こえないが、作戦決定と同時に渡されたトランシーバーから会話が聞こえてくる。

(土生「こんにちは」)

(門番1「誰だ」)

(土生「欅国から参りました、土生と守屋と申します」)

(門番1「何の用だ」 )

(土生「そちらの司令官殿にお話が」)

(門番2「令状は」)

(土生「ございません」)

(門番2「ならば通すことはできん、帰れ」)

(土生「令状はなくとも、思い当たる節はあるでしょう」)

(門番1「…知らんな、帰らんと言うのなら_」)

門番は腰の拳銃に手をかけた。

(土生「そこに、部下が大勢待機しておりまして」)

土生ちゃんが、後部にある森を指差して言った。

勿論、そこには誰もいない。

待機場所は別にある。

(土生「もしあなたが今私に発砲すれば、部下は一斉に国に帰る、恐らくお二人が持っている拳銃の弾数では足りず、緊急事態として召集をかけても間に合わないほどの人数で、ね」)

いつの間にか、敬語が消えている。

口調はいつもの土生ちゃんとは思えないほど冷たい。

(土生「恐らく我々の上司はそれを乃木国にも注意喚起として通達する」)

(門番1,2「…!」)

(土生「このようなやり方を嫌う乃木国が知れば、どうなるでしょうかねえ」)

さすが土生ちゃん。

プライベートでは不思議ちゃんキャラとは思えない。

(コツ、コツ…)

トランシーバーが二回叩かれた。

合図だ。

侵入開始。

遠目で確認した通り、窓が開いている。

目視で確認したところ監視カメラもない。

よし、いける。

侵入してすぐ、近くの棚の陰に隠れた。

コツ、コツ…とトランシーバーを二回叩いた。

侵入完了の合図。

(門番2「話が通った、入れ」)

志田「よし」

打ち合わせ通り、双方の侵入が確認できたら一度切る。

シーバーから漏れる音で気づかれるわけにはいかないから。



志田「どこだ…理佐…」

どうやらここは人通りが少ないらしい。

たまに通る人の目を避けながら隅々まで見ているが、見つかる気配がない。

どこかで見逃してる?

もう探し始めて二十分、怪我を負ってから数時間経っている。

マズイ…

志田「早く見つけないと…」

(守屋「愛佳、聞こえる?」)

志田「うん」

(守屋「撤退」)

志田「え?理佐は?」

(守屋「いいから、撤退」)

見つかった、訳じゃないのか…?

心なしか、声が暗い?

急いで来た道をUターンし、侵入した窓から外に出た。

待機場所に戻ると、既に二人は到着していた。

土生「ここから少し離れるよ、話はそのあと」



土生「このくらい離れればいいか、総員、十分以内に作業を全て終わらせること!」

全班員「了解!」

撤退を指示されてからかれこれ一時間、何も聞かされていない。

理佐は見つかったのか?

見つからなかったのか?

見つかったとしたら、何で連れて帰ってこなかったのか?

守屋「愛佳、よく聞いて…」

私の肩を掴んで真っ直ぐ私の目を見る茜の目には、涙が貯まっていた。

志田「茜?」

守屋「…っ、理佐が









            寝返った_」




 




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いつも読んでくださってありがとうございます!
    どうも、お久しぶりです。
なかなか投稿できず申し訳ないです。
今は少し忙しいのですが、来週末か再来週頭くらいからまた投稿ペースをあげられると思いますのでお楽しみに!
    先程欅軍のタイトルの表記を変更いたしました。
通知がうるさかったら申し訳ありません。
さすがに分かりずら過ぎると思ったので…
欅軍は【1】と【2】で別ストーリーですのでご注意下さい。
それでは、次回も是非読んでください!
これからもよろしくお願いします!