西野said

本当は国王の娘として、国を最優先に考えなければいけない。

そんなことは分かってる。

どちらに転ぼうが、敵が侵入してきているのには変わり無いのに…

理佐ちゃんではないことばかりを祈っている。

西野『…』

橋本『…』

白石『…』

静けさが司令官室を包む。

ずっとそうだったけど、まいやんとななみんが少し言葉を交わしてから空気が凍りついたまま。

内容は分からなかったけど、ななみんが急いで指示を飛ばしたりで良くないってことは理解できた。



バタバタバタ…

ガチャ! 

齋藤『確認できました、っ理佐で間違いありません』

いつも冷静な飛鳥が取り乱しているのを見て、胸騒ぎが大きくなった。

橋本『そう…麻衣、頼んだ』

白石『了解』

橋本『飛鳥も、至急医療部に寄った後欅国に直行』

齋藤『了解』

橋本『これ証明書、必ず手渡しでね』

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まいやんと飛鳥を送り出してもう一時間は経つ。

飛鳥はいいとして、まいやんが戻ってこないことに焦りを感じる。

西野「理佐ちゃん…」

橋本「…七瀬」

西野「…?」

橋本「麻衣が帰って来ないとなんとも言えないけど、もし理佐に何かあっても手を出すことはできない、それを分かってて欲しい」

西野「え、それって…」

橋本「もし理佐が怪我をしてても治療に参加はできない、もし…毒が使われていたとしても…」

西野「そ、そんな…」



橋本said

ひらがな国が開発した毒薬。

乃木国でも情報を手に入れたのは最近のこと。

報告によれば、初めは怪我による発熱を増幅させる作用があり。

加えてある程度体力を消耗させた上で全身に痺れを発生させる。

そんなに強くはないが、早期に治療を始めなければ痺れが残る。

日常生活に支障はなくとも、戦闘は不可能になる。

これは、乃木国に恩を売るための作戦の可能性が高い。

それを使っていないとは考えにくい。

西野「嫌…」

七瀬が手で顔を覆って俯いている。

その毒の効果がどれだけ厄介か、理解しているだろう。

もし、理佐が怪我をしていたとしたら。

橋本「…保険はかけた」

飛鳥に持たせた「保険」。

効果は証明されてるんだ、大丈夫。

それに、理佐が怪我をしていない可能性だってある。

手を出せない以上、願うしかない。



長濱said

バーン!

渡邉「…まずいな」

日の出と共に出発し、昼に近づくにつれて敵の数が増えてきた。

ここは両脇を崖に挟まれた谷。

敵からの攻撃に対しては盾になってくれているが、こちら側の攻撃に対しては障害にもなり得る。

今の時点で予定より大幅に進行が遅れている。

遠回りした分、基地に着くのが遅れそうやな。

カチャーン…

長濱「!」

齋藤「!?」

織田「!」

突然鳴り響いた高い音に身構える。

渡邉「ごめんごめん」

自嘲気味に笑いながら足元の銃を拾い上げる。

理佐が、銃を落とした音?

そんな不注意を、理佐が?

齋藤「汗すごいですけど…大丈夫ですか?」

それはふーちゃんも気になっているらしい。

それに、確かに汗の量が尋常じゃない。

長濱「傷、痛む?」

渡邉「少しね…」

長濱「今日はもう休む?」

鉄人の理佐が傷ひとつで音をあげるなんてあり得ない。

渡邉「さすがに早いよ、もう少し進もう」

やっぱり、変。

渡邉「そろそろ敵の援軍が来る時間だな…齋藤、背後警戒」

齋藤「了解」

いつもと変わらない、指示を出す姿。

でも、いつもと違う違和感。

それがとても心配になった。

長濱「…理佐」

前を歩く理佐の軍服の裾を掴む。

渡邉「…ん?」

長濱「お願いやから…絶対…無理はせんでね?」

渡邉「分かってるよ_」

長濱「理佐!」

渡邉「!」

理佐だけに聞こえるように声を張る。

長濱「…」

渡邉「…本当に分かってる、ありがとう」

向き合って、頭を撫でられる。

長濱「キツかったら、言って?」

渡邉「…約束する」









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いつも読んでくださってありがとうございます!
    次回話が進展する予定ですので、キリのよいここで切らせていただきました。
予想以上に長くなりそうです。
欅メンバーのみ登場の2も近々公開予定です。
お楽しみに。
それでは、次回も是非読んでください!
これからもよろしくお願いします!