志田said
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ある日突然起こったクーデター。
当時一等兵だった私たちは国民の避難誘導に駆り出された。
敵が撤退したと言う情報が入り、基地へ戻る。
隊長に班ごと帰還報告をしていると、茜が所属している班も戻ってきた。
茜と目が合って口パクで会話していると、司令官室に隊員が飛び込んできた。
高橋『隊長!』
隊長『ん?どうした?高橋二等兵』
高橋『菅井一等兵がこれを至急隊長にと!渡邉少佐の階級手帳だそうです!』
志田『え?』
思わず茜と目を見合わせる。
当時理佐は五人の中で唯一の少佐階級だった。
だから前線での防衛に駆り出されていた。
…何か嫌な予感がする。
隊長『何故渡邉の階級手帳を菅井が?』
高橋『そ、それは…』
平手『お父さん!』
続いて駆け込んで来たのはてち。
あ、職務中なのにお父さん呼びが出てる。
隊長『友梨奈、今は仕事中なんだから_』
平手『そんなことより!今基地に葵が来たって!』
志田『は?葵が!?』
守屋『なんで?』
平手『友香が、葵が理佐の階級手帳持って走ってきたって言ってて!』
隊長『これを持ってきたのは葵ちゃんか!』
葵と理佐が一緒にいた?
戻ってきたのは葵だけで理佐はいない…
しかも葵は理佐の階級手帳を持っていた…
志田『!、まさか!』
隊長『志田、これを』
志田『はい!』
このときの隊長はてちのお父さん。
だから、幼馴染の私たちのことはよく知っている。
つまり、私と理佐との間に暗号があるのも知っているということ。
手帳を開くと、階級章に大きくバツ印が書かれていた。
それも、赤い色の…
守屋『なにこれ?血?』
そう、これは血だ。
志田『理佐は…死…』
平手『は!?』
守屋『!?』
志田『恐らく大怪我をしています!隊長!至急医療部員を派遣してください!』
隊長『分かった、高橋!至急医療部員を要請する、と医療部長に伝達を!』
高橋『了解!』
このバツ印だけの記号は、こっちへは来る必要はないということを表す記号。
血を使っているのは、自分が怪我をしていることを示す。
そして、親指で書くとき。
それは_
【自分の死を覚悟したとき。】
『助からないほどの大怪我をしているため、助けには来る必要はない』
多分、葵が敵に襲われたところに…
つまり理佐は…自分はもう助からないと…
隊長『渡邉は保育園の辺りを防衛していた、志田、守屋』
志田『はい』
守屋『はい』
隊長『医療部員を先導しろ』
志田『!』
隊長『一刻も早く渡邉を…いや、理佐ちゃんを助けるんだ』
志田『…っ』
いつも冷静沈着な理佐だ。
自分の容態も理解してるはず。
今から行っても_
平手『愛佳、理佐はなんて言ってるの?』
志田『怪我して…恐らく助からない…』
平手『多分、葵の移動時間を考えて言ってることでしょ?なら、もしかしたら助かるかもしれない』
志田『?』
守屋『どういうこと?』
平手『この前の避難訓練で保育園に行ったとき先生に聞いたんだ、保育園から歩いて基地の裏門の近くに出る裏道があるって』
志田『え?』
通常子供達が基地の近くまで来る散歩コースは基地の正門側を通るはず。
平手『薄暗いし人通りも少ないし子供達が基地に来ることはまず無いから普段は通らないらしいけど、気分転換で何度かそのコースを通ってたらしいんだ、葵は裏門に来たってことはもしかしたらそっちを来たのかもしれない』
隊長『普段のコースと比べて、何分の短縮になる?』
平手『私が歩くスピードで、およそ二十分』
隊長『葵ちゃんがここに来たのは?』
平手『ついさっき二分前』
隊長『敵の撤退指示がおよそ十五分前か…』
葵が走ってきたとして…
やっぱり時間が…
隊長『…志田、行けるか?』
志田『…』
平手『愛佳が行かないなら私が行く!もしかしたら傷が浅いかもしれないし!』
志田『でも_』
平手『理佐を見殺しにしたくないんだよ!!』
志田『!』
理佐…
隊長『志田、どうだ?』
志田『…行きます!』
そうだ。
てちの言うとおりだ。
理佐が諦めようが私たちは諦めない。
そう簡単に死なせてたまるか!
高橋『隊長!医療部員準備できたそうです!』
隊長『よし、先導に志田と守屋をつける!至急出発を!』
高橋『了解!』
隊長『志田、守屋、頼んだぞ』
志田『はい!』
守屋『はい!』
この時同伴したのは当時の尾関医療部長。
代々欅軍の医療部隊員の家系で、私たちの同期である尾関のお父さん。
医師免許を持っていて、病院でも働いている腕のいい外科医らしい。
守屋『愛佳、あれ…』
志田『…血?』
目的地に向かって走っていると、道路に等間隔に血が残っているのが見えた。
垂れた血が落ちたような感じではなく、まるで擦り付けたような…
医療部長『血を踏んだ靴で走ったような跡だな』
志田『葵かもしれない…』
守屋『段々血が濃くなってきてる、近いね…』
もう少しで保育園_
志田『!?』
守屋『!!』
保育園の近くの角を曲がった瞬間、うつ伏せに倒れている理佐と、手が真っ赤に染まった梨加ちゃんが目に入った。
医療部長『渡辺少佐!?容態は!』
渡辺『医療部長!_!』
着いてすぐ、医療部隊員たちと梨加ちゃんとで難しい医療用語での会話が始まった。
志田『理佐!!』
守屋『理佐!!しっかり!』
渡邉『…ま……な…』
志田『理佐!?』
守屋『!!』
慌てて理佐の右手を握ると、弱々しく握り返された。
渡邉『…ご……め…_』
志田『理佐ぁっ!!』
理佐は静かに、目を閉じた。
尾関医療部長の顔が険しくなったのを見て、血の気が引ける思いだった。
理佐の怪我が酷すぎるために、応急処置だけをしてあとは病院に運ぶことになった。
なかなか理佐が手術室から出てこない。
菅井『茜!愛佳!』
守屋『友香』
もうすぐ三時間経つと言うときに、友香がきた。
菅井『理佐は?』
守屋『まだ…』
菅井『そう…』
守屋『葵は?』
菅井『仮眠室で寝てる』
守屋『そっか…』
菅井『愛佳?』
志田『友香…』
菅井『これ』
志田『…っ』
渡されたのは、大切な相方の、親友の、階級手帳。
開くと、記号は綺麗に消されていた。
志田『理佐っ…理佐…』
ウィーン…
志田『!!』
守屋『!!』
菅井『!!』
手術室のドアが開いた。
守屋『医療部長…』
医療部長『とりあえず大丈夫だ、詳しいことは隊長に報告しに行く、一緒に行こう』
菅井『はい』
守屋『愛佳』
既にフラフラだった私を茜が支えてくれた。
医療部長『血管が何本も切れており止血に手間取りましたが手術は無事に成功、まだ予断を許さない状況ではありますが、今のところ容態は安定しています』
隊長『そうか…よくやってくれた』
医療部長『いえ、切れていたのが太い血管でしたので、渡辺少佐の止血処置がなければ危ないところでした』
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あのとき梨加ちゃんがあそこにいたのは偶然だった。
派遣された避難所から敵が撤退していくのが見え、押さえつけられていた男が持っていた刃物が赤く染まっていたため、怪我人がいるかもしれないと確認しに行ったらしい。
梨加ちゃんがいなければ今ごろ理佐は…
考えるだけでぞっとする。
その日からはずっと理佐の病室に通い続けた。
任務中に倒れて、茜と友香にしかられるくらいに。
志田「一緒に寝よっか?」
原田「…うん」
志田「えっ、素直」
原田「え?」
志田「やだって言うかと思った、よし寝よう」
やっぱり葵には理佐じゃないとダメだな。
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いつも読んでくださってありがとうございます。
また遅くなってしまいました。
申し訳ないです。
さて、そろそろてち理佐の小説が書き終わりそうなので明日か明後日には投稿できるかと思います。
それでは、次回も是非読んでください!
これからもよろしくお願いします!