澪紀said

いつの間にか、真春の家の前まで来ていた。

私の家は、その二軒隣。

澪紀「明日はソフト部部活ある?」

真春「あるよ、明後日からテスト前で部活禁止のはずだから、バスケ部もだよね?」

澪紀「うん、体調は?」

真春「大丈夫、テスト明けに試合もあるしもう休んでられないからね」

澪紀「そう…明日生徒昇降口で待ってるから、終わったら連絡して」

真春「分かった、じゃあ…」

澪紀「うん、お疲れ」



ガチャ

澪紀「ただいまー」

今日の真春の顔色、昨日より酷くなってたな…

弁当も半分ぐらい残してた。

咲「おかえりー」

澪紀「ただいま」

咲「今日はロールキャベツだよ」

澪紀「やった」

お姉ちゃんは大学生で、家の近くの大学に通っている。

隣県で働いて週末しか帰ってこれない両親の代わりに、家事をやってくれる。



澪紀「ねえお姉ちゃん」

咲「んー?」

澪紀「真春がさ、まだ体調治らないみたいなんだよね」

お姉ちゃんが作ってくれたロールキャベツを頬張りながら、真春のことを話す。

友達の身体のことを他の人に話すのは気が引けるが、お姉ちゃんは別だ。

お姉ちゃんと真春は仲が良いし、なにより相談しやすい。

咲「いつからだっけ?」

澪紀「先週から」

咲「んー…結構続いてるね、そろそろ病院に行った方がいいんじゃないかな?」

澪紀「私もそう思って言ってみたんだけど…仮病だって思われてるらしくて」

咲「おばさんに?」

澪紀「うん、昨日言ったらテスト明けにって言われたらしい」

咲「…そう」

テストは一週間後だ。

お姉ちゃんも真春を心配してる。

明日もう一度話を聞いてみることにしよう。



真春said

ピピピ…ピピピ…

真春「…7度2分」

37.2℃と表示された体温計を持ってしばしボーッとする。

微熱。

怠いな、と思って体温を計ってみたらこれだ。

風邪を引いたわけでもないし、ただの疲れか。

真春「ああ、もう…」

もうすぐテストなのに。

体調を崩している場合ではない。

真春「今日は早く寝よう…」

早く、身体にまとわりつく重りのような倦怠感を取ってしまいたかった。

とはいえ、明日はテスト前最後の部活がある。

今日も昨日も休んだ。

今日は木曜日。

考えてみれば、今週の部活には一回も出ていないかもしれない。

真春「明日、出られるかな…」

出るつもりではいるけど、いつまでも治まらない上腹部の痛みに不安になった。



ジリリリリリ…

真春「…」

明らかに昨日より悪化している痛み。

食欲もさらに無くなっているように感じる。

一応、体温を計ってみる。

ピピピピピ…

37.5℃

真春「…」

動きたくない…それが率直な感想。

でも、行かなくちゃいけない。

テストが控えているんだから。

深保「真春ー、遅れるわよー!」

真春「…」



秋加「お姉ちゃん、どうしたの?」

真春「ん?」

秋加「ボーッとしてる」

真春「いや、別に…」

秋加「ふーん」

秋加は人の変化に敏感だ。

ただ、気づくだけで興味が無い。

それが今はありがたい…のかな?

深保「二人ともはいこれお弁当」

秋加「ありがと_」

真春「ごちそうさま、行ってきます」

深保「ちょっと真春!?」

お母さんには申し訳ないけど、テーブルに置かれたお弁当を掴んで鞄に入れて急いで外に出た。

起きてすぐに鏡で見た私の顔色はあまり良いとは言えなかった。

そんな私の顔を見てお母さんが言う言葉なんか分かる。

「そんな体調悪そうな顔しても休ませないわよ?」かな?

それとも、「もうすぐテストなのに休むなんて言わないわよね?」かな?

多分…いや、絶対「"大丈夫"よね?」と言われるに決まっている。

真春「…」

そんな言葉、聞きたくない。

朝ご飯もあまり喉を通らなかったけど、無理矢理半分は詰め込んだ。

授業中にお腹が鳴る、なんてことはないだろう。



樹「佐々木」

真春「あ、樹…」

通学路を歩いていると、後ろから樹に声をかけられた。

樹「…大丈夫か?」

真春「え?」

樹「顔色悪いぞ」

そんなに…悪い、かな?

真春「あ、ああ…"大丈夫"…だよ」

樹「そうか、無理はするなよ」

真春「うん…」

樹「そういえば昨日さ_」

すぐに話題は共通の趣味であるアイドルグループの話になった。

思いの外盛り上がって、痛みなんて忘れられそうだった。



澪紀「真春、おはよ」

真春「おはよう」

学校に着くと、痛みが和らいでいた。

朝ほどの痛みはない。

澪紀「どう?体調」

真春「朝は少し危なかったけど…今は平気だよ」

澪紀「そっか、でも顔色は悪いままだよ、ちゃんと眠れた?」

真春「…」

夜中に痛みで何度か起きてしまった。

だから眠れた、とは言いがたい。

それに。

澪紀「…無理だけは、しないでよ?」

真春「…」

澪紀「真春?」

真春「朝少し…熱があった…」

澪紀「何度?」

真春「7度5分…」

澪紀「微熱か…」

真春「もう…やだ…」

澪紀「…っ……真春、"大丈夫"だから、ね?」

方を掴まれて真っ直ぐ目を見られた。

…期待、させないでほしい。

真春「…っ………」



午前中はなんともなかった。

少し痛みはあったけど、集中すれば気にならない。

でも、昼に近づくにつれてまた痛みが酷くなってきた。

授業になんて集中できやしない。

昼食を食べる気にはならず、体調も回復しない。

部活は休もう、と思って部長に断りに行くことにした。









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いいね、ありがとうございます。
書いていて「重っ」とよく思います。
もし気分を害してしまったりしたらすみません。
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