無風日記
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若葉のコロ

僕の通っていた大学の学科は『人種のるつぼ』と称されるほど、奇特な人間が多いことで有名である。

僕が在学していた頃はそれを利用し、 桜咲く季節に新入生歓迎企画として『偽新入生』というイベントが長年の伝統して実施されていた。

2年生の中で選抜された数名が偽の新入生として、授業などに紛れ込み大暴れするのである。

そして5月の頭に2年生~4年生までが一緒になって『新歓キャンプ』なるものを企画し、 リゾート地のホテルを貸切り、招待した一年生に『実は、こいつらは上級生です』とばらすのだ。

前科8犯や傭兵や自称宇宙人など、普通ではありえないキャラなのだが 『うちの大学ならいてもおかしくない』ということで、見事に新入生の度肝を抜いて成功している行事なのである。

さて、不幸にも僕は2年生のときに『偽新入生』の大役を仰せつかってしまった。

本来は下級生である筈の人間にバカにされたり気味悪がられたりチョップされたりする危険性のある、あまり嬉しくない大役である。

企画会議に参加している時も、『もうどうにでもしてくれ』という、まな板の上の鯉状態。

キャラクター設定が『常にウェットティッシュを持ち歩く潔癖症人間』と決定した際も、『それなら鉄壁症人間の方が面白いだろ??』というツッコミをする元気も無い。

→ふっ、オレはペナルティーエリアの外からゴールを許したことはないのだよ。さあこいっ、翼!! …どうだ面白いではないか、鉄壁症人間。この後のネタが続かないのが難点だけど。

その後、約一ヶ月もの間、一年生の授業に紛れ込む偽一年生の私。 椅子に座る前にはウェットティッシュで殺菌を忘れない。

他人と肩が触れると、即座に自分の肩もふき取る。 ちなみに着ているのはいつも白衣である。両手には透明のゴム手袋。 僕がナースプレイを好むのは、恐らくこの時のトラウマであろう(おいっ!) ゴムを装着するのを厭わないのも恐らく…(以下略)

だが意外にもこのキャラクターはウケがよく、新入生に自分の正体をバラした後もすっかり人気者になっていた。

色紙代わりに、僕が着ていた白衣に新入生からのメッセージがマジックでびっしりと書かれる。

『衝撃的でした』『迫真の演技に感動しました!!』と、賞賛のメッセージで埋め尽くされ、 それまでの緊張感と苦労の連続から開放されたすがすがしさとあいまって、僕は嬉し涙を流した。

…駄菓子菓子!!ちょうど白衣の肩甲骨のあたりに書かれた、たった一行のメッセージを私は一生忘れない。


『超キモかった』

か、堪忍しておくれ。

車が突然、故障した。

あいにく修理工場にも代車が無い。しかし私の仕事には車は絶対に必要である。

仕方無いので、普段は車を使わない、職場の同僚・K子ちゃんの車をしばらく拝借することになった。

そして本日の夕方の話。一人でファミレスに入り、メニューを眺めていると店内マイクが入った。

「山梨○○、との○○ ○○のお車でお越しのお客様、ライトがついたままになっております」

店内はかなり混み合っていたのだが、誰も立ち上がる者はいない。 そこで、二回目の店内マイク。

「繰り返します。山梨○○、との○○ ○○のお車でお越しのお客様、ライトがついたままになっております」

さすがに店内中の客がざわざわとレジを覗きはじめた。

誰だよ、ライトつけっ放しのうえに自分の車のナンバーまで忘れているヤツは…。

そんな雰囲気が店内中に漂う。

そして私は…顔の血の気がサーッとひくのを感じた。

「もしかして、俺が借りてるK子の車のことか?」

普段の自分の車は横浜ナンバーなので、すっかり他人事だと思っていた。 当然、K子の車のナンバーなんて、覚えてはいない。

私はおそるおそる、店のウィンドーからK子の車を覗いてみた。

しかし、ここからだと車の横からの姿しか確認出来ない。いい歳こいてディズニーキャラのぬいぐるみ満載の車であることはわかるのだが、「ライトが点いているのか?」「ナンバーはいくつなのか?」という、肝心の疑問が解けないのだ。

仕方が無いので、私は席を立ち、おそるおそるトイレの方向へ歩いた。 そっちへ向えば、車の正面が確認出来るのである。

ライトが消えていれば、そのままトイレへ入って用を足す。 もしライトが点いていれば、観念して駐車場へ向うしかあるまい。

どちらにせよ、大した傷を負うこともなく、不要なリスクを背負う心配もない。 そのように入念な計算をして、私が席を立ったその瞬間。 悲劇は起きた。

「繰り返しお呼び出し申し上げます。ミッキーのぬいぐるみを積んだ車でお越しの、山梨○○、との○…」

…だーーっ!! 言うな、最後まで言うな!! すぐ向うから。 ライトなんてすぐに消しますから。 消しまくりますから。

私は背中に痛い視線を浴びながら車に戻り、ライトを消した。 ついでにサングラスを装着し、店内に戻った。

最初から車種を言ってくれればこんな悲劇を招かなかっただろうに。 許されることなら、この愚鈍な女性店員の眉間をアーマーライトM16で撃ち抜いてやりたかった。

しかし、まあそんなことを言っても仕方がない。 あんな子供っぽい車、本当は僕のじゃないんですよ、などと言い訳をするのも男らしくないしな。

そう思いながら、私はコーヒーをブラックで注文した。

…本当はチョコパフェ食いたかったんだけど。

地上の虫

僕の仕事場には、1グラムの重さまでデジタル表示される秤(はかり)がある。


そして、大量の録画済みビデオテープと未使用ビデオテープ。


僕は考える。…『録画済みのビデオテープの方が重いのか?』


… 早速、未使用ビデオテープを秤に載せてみた。 192グラム。


次に、録画済みビデオテープ。 同じく192グラム。


…まあまあまあまあ、慌てるでない。世紀の大発見は一朝一夕に生まれるものではないのである。


次に、10本の未使用ビデオテープを秤に載せる。1922グラム。おっと、カンマ以下の誤差が顕在してきたぞ。なんて正確な秤なのだろう。これはもしかするともしかするかも。


期待に胸を膨らませて、録画済みビデオテープ10本。 …同じく1922グラム。


むっ。これはいけない。私の実験方法に何か欠点があるのだろうか?


10本載せれば、0.1グラムの違いでも見逃さない筈なのだが。 さては、テープに録画された中身の問題か? やはり 『DEBUYA』 や 『大相撲ダイジェスト』 を録画したビデオテープを用意するべきだったか?


いやいや用意も何も、ついさっき思いつきで始めた実験だからなぁ。


とりあえず手近にあるもので、重そうな番組が録画されているテープを探す。

「魔法のラーメン 82億食の奇跡」「鉄の男たち 逆境からの日本一」 「白神山地 マタギの森の総力戦」 「巨大モグラ ドーバーを掘れ」「わが友へ 病床からのキックオフ」「新幹線 執念の弾丸列車」 「黒四ダム 断崖絶壁の難工事」「革命トイレ・市場を制す」「突破せよ 最強特許網 新コピー機誕生」 「釧路湿原 カムイの鳥 舞え」

…重そうだ。とてつもなく重そうなビデオテープだ(全てNHKのプロジェクトXの録画テープ)。

これなら成功しそうな予感がする。さて、正真正銘これが最後のチャレンジである。

未使用ビデオテープが1922グラムであることは確認済みなので、 このプロジェクトX選りすぐりの10本セットが、それ以上の数値を弾き出せば実験は大成功となる。
ビデオテープの銘柄、テープの長さも同一。

よし!…僕は震える手でビデオテープを秤に載せた。

すると、なんと!デジタル表示は1923グラムを差していたのである。

やった、やりましたよ母さん! これで僕は日本に帰れる、帰れるんですよー!

と、アメリカで蛇毒・梅毒の研究を成功させた野口英世の気分を味わったのも束の間。 一気に奈落の底へ突き落とされるような光景が僕の目に入ってきたのである!!

…母さん、ビデオテープの上にカナブンがとまっていました。