ロンドン滞在を終えて
実は、
先の震災あたりから、僕は自分のために以前ほど曲が書けなくなっていた。
音楽をとりまく環境が音をたてて崩れていくのを目の当たりにしたし、いろんなものが陳腐な、体の動きをともなわないインスタントなものになっていく気がした。
でもそんな時に、色々な大きな仕事をもらえた。僕は自分のためには曲を書けなくなっていたけど、人のために、そしてプロジェクトのためには面白いように曲が書けた。ここ数年、自分なりに全力を尽くした。評価ももらった。そして今ようやく自分を取り戻す何かをしたくなった。
以前のような思いで自分のために曲はかけないかもしれない。でも自分の音楽をやりたい。違ったやり方でもより良い音楽を作れるはず。
そして、ロンドンのニックに相談しデモを聞かせた。ニックは何かが違うと言った。僕自身もまだやりたいことが見えてないのを見透かされたような気がした。
そして次は丁寧に自分に語りかけるようにデモを作った。自分でもまだこれが100%だとは思ってない。けど、帰ってきた返事は『これだよ!この感じだよ。まだまだ詰めなきゃだけど、僕にもアイデアがある。少し見えたんじゃない。』
今行くべきだと思った。再来週からロンドンへ行って良いかと聞いた。ふたつ返事で了承してくれた。後でわかったんだけど色々なものを犠牲にしてくれていた。
『曲をショーへイが書いてからロンドンにくる方が効率的で早く済むけど、今回はアイデアだけ持ってきてくれ。みんなで一緒にやろう。その方が楽しいし、みんな自分をもっと表現できるから』と。
そして、ニックの呼びかけでロンドンのスタジオに素晴らしいメンバーが集まってくれた。誰も何も聞かない。スタジオには入ってくるなり、今日は何をやるんだ。聞かせてくれ。レノックスが言った。アイデアなら腐るほど毎日毎日たまってるよと歌詞がギッシリ詰まったノートを開いた。
みんな音楽をやりにきている。まだ足りないと思ったら翌日戻ってきてくれる。
ニックが言った。焦らず気に入るまでやればいいじゃない。何年かかったって良いものを作るんだよ。お前が帰ってもみんなでやるよ。
そして怒濤の5週間がすぎた。僕はまだ自分で何が起こったかを把握できずにいる。把握するためにひとり北に向かった。
二日目にして涙が出てきた。