東北の高速 無料化打ち切り
「ただのバラマキ」「きっちり検証を」
トラックなどの「ただ乗り」が問題となっている被災地での高速道路無料化が31日、中型車以上で打ち切られました。高速無料化は民主党が「社会実験」と称して昨年6月に一部区間でスタートしたが、わずか1年で凍結。代わりに6月から震災復興支援として始まったのが被災地限定の無料化だが、対象車などをめぐりドタバタが続く。フェリーなど割を食った関係業界からは「何のための実験だったのか」という恨み節が聞こえてくる。
「『実験したけどアカンかったからやめる』と言われても、こっちは船も職も失った。結局、バラマキ以外の何ものでもなかったんでしょう」昨年11月、運航が休止された明石淡路フェリー(兵庫県明石市)の元社長大麻一秀さん(58)は憤りをあらわにする。自公政権が平成21年に始めた高速料金の「休日上限千円」を民主党政権が引き継いだことに加え、一部無料化の影響で観光客らを奪われ経営難に。所有していたフェリー3隻は売却、大麻さんは社長を解任された。「国は思いつきで始めた政策と船の運航停止の因果関係すら認めてくれない。実験というからにはきっちり検証してほしい」
国土交通省は無料化凍結後の7月、期間中の渋滞状況などに関する検証の「たたき台」を公表した。例えば京都丹波道路(沓掛IC~丹波IC)では338日のうち314日で1キロ以上の渋滞が発生したが「たたき台」では「ほとんどの区間で大きな渋滞はない」と記載。他の交通機関は「マクロとして実験開始前後で大きな変動はない」とした。
この「たたき台」に「よくそんなこと言ってくれるもんだ」と話すのは、伊勢湾フェリー(三重県鳥羽市)の福武章夫社長(60)。同社は航路に近い伊勢自動車道の無料化などで、利用者は一時ピーク時の約3割に落ちた。「道路や航空会社には税金が投入されるのに、海路は切り捨てられる。無料化が凍結されても、離れた客はすぐには戻ってこない」
新たに始まった被災地限定の無料化でも迷走が続いている。当初、国が検討していたのは被災地を対象とした全車種無料化だった。結局、被災者のほか、トラック・バスなど中型車以上に限定して適用。被災地への物資輸送をスムーズにして復興のスピードを上げる目的だったが、被災地と無関係な車両がインターチェンジを出てUターンする「ただ乗り」トラックが続出。きのう31日に中型車以上の無料化措置を打ち切るなど政府の方針は二転三転している。
首都圏と岩手県の被災地を往復、主に日用品や食料品を運ぶ盛岡市の運送業者は「無料化がなくなれば一般道に切り替えざるを得ない。輸送時間は3時間以上延びるし、運転手のシフトはさらに厳しくなる」(担当者)と嘆く。大畠章宏国交相は菅直人首相の退陣表明後、さらに対象者や地域を絞る意向を示す一方、「後任大臣にはこれまでの流れを継続してほしい」と新政権にげたを預けた。
制度設計が不十分なまま「見切り発車」した感が否めない無料化政策。全日本トラック協会も「荷主との関係もあり、料金が猫の目のようにコロコロ変わるのが一番困る」(広報部)としている。