榛原は寒かった…ゲホゲホ

 

1部 お芝居 暴れ行燈

*配役*

沼津の秋太郎(アキタロウ)*松丸家小弁太座長

美濃の藤太郎(トウタロウ)/神田の兼五郎(カネゴロウ)*咲田せいじろう副座長(2役)

藤太郎の母 おこう*松丸家美寿々さん

藤太郎の嫁 おつゆ*松丸家ちょうちょさん

おつゆの父 甚兵衛(ジンベエ)*下町かぶき組 昴斗真花形

村人*松丸家こももさん
 

 

*あらすじ*

1場:弁天山

沼津の秋太郎と美濃の藤太郎は、一宿一飯の恩義から、喧嘩出入りにかり出され刀を交える。

秋太郎に斬られた藤太郎は虫の息の中、「お前さんを男と見込んで頼みがある。五つの時に、親父の実の弟にに手を引かれ、商人になる為、おじの米屋を手伝っていたが、そこを飛び出しやくざに。この年になって生まれ在所が恋しく、故郷のお袋にも詫びが願い、この出入りが終わったなら、帰るつもりだった。あっしの弟分 江戸は神田の兼五郎からの手紙には、お袋は嫁を貰って待っていると。お前さんが、あっしになり代わり、半年だけでも一緒に暮らして、親孝行の真似事をやって下さい。お願げえでござざんす。」と話す。

「親孝行の真似事を致しましょ。」と引き受ける秋太郎に、「どうかお願えします。」と言い息を引き取る藤太郎。

「やくざは馬鹿な生き物と思っていたが…もしも許してもらえたその時は、あっしが必ず親孝行の真似事をしてみせやしょ。美濃の藤太郎さん、どうか成仏してくんなよ。」と言い手を合わせる秋太郎。

 

2場:おこうの家

藤太郎の帰りを今か今かと待つ母のおこうと嫁のおつゆ。

そこへ、おこうを訪ねて堅気姿の秋太郎が現れる。

秋太郎を藤太郎と思い違いする村人やおこうやおつゆ。

その皆が、藤太郎が帰って来た事を喜ぶ。

やって来た甚兵衛もまた、「よう帰って来て下さった。」と喜ぶ。

 

3場:半年後のおこうの家

秋太郎がおこうの許へ来て半年。

事情を話せないまま過ぎて行く日々。

畑仕事に精を出し、おこうに孝行尽くす秋太郎だが、後ろめたさから、おつゆを避けていた。

一向に、おつゆとの祝言の話が進まない事に心配する甚兵衛。

「俺は一体どうすれば良いんだ。一生騙し通すのが本当か、仇として討たれるのが本当か。」と思い悩む秋太郎だったが、「皆が幸せになりゃ、終いにはこの俺も幸せになる。」と、迷いを吹っ切り決心する。

そして、おつゆとの祝言の話を進めてくれるように、おこうに頼む。

それを聞き、嬉し泣きするおつゆ。

「おつゆ、泣くな。お前ばかりかこのわしも、こんなに涙が出とるじゃないか。」と、おこうもまた嬉し泣きする。

「御心配掛けてすいません。」と詫びる秋太郎。

 

4場:祝言の日のおこうの家

「倅の奴はこの家の行燈、種油がおつゆ。この家が明るく照らしてくれるだろう。」と喜ぶおこう。

藤太郎を訪ねて男がやって来る。

男は、「藤太郎とは血を擂り合った兄弟分。江戸は神田の兼五郎と申します。」と名乗る。

「今日は藤太郎どんの婚礼の日なんですよ。」と言い、おこうを呼ぶ村人。

おこうに連れられ、秋太郎も現れる。

藤太郎の遺髪をおこうに差し出し、「藤太郎を斬ったのは沼津の秋太郎と言う男。」と言う兼五郎。

そして、藤太郎になりすます秋太郎に、「このおおかたりめ!」と怒る。

「あっしが藤太郎を斬った沼津の秋太郎。」と告白し、今際の際の藤太郎の言葉を伝え、「初めから騙そうと思っていた訳ではない。皆が、自分の事を藤太郎だと思い違いし…ここに来る時から、自分の命はないものと覚悟していました。おふくろさんのその手で、一寸刻みにしておくんなさい。」と、自らの刀を差出す。

おこうが顔を背けると、「てめえの始末は、てめえのこの手でさせてもらいます。」と、自分の首に刀を向ける。

泣きながら止めるおつゆに、「あっしは亭主の仇だ。」と刀を差し出すが、おつゆもまた顔を背ける。

「甚兵衛さん、婿の仇を討ちなさるが良い。」と言うが、甚兵衛もまた顔を背ける。

「沼津の秋太郎、これより股旅草鞋を履いて出て行きましょう。」と言う秋太郎に斬り掛かる兼五郎。

「ここは堅気の家だ。表へ出ろ。おれの後から付いて来い。」と、おこうの家を出る秋太郎と兼五郎。

 

5場:村はずれの地蔵前

秋太郎に刀を向け、藤太郎の仇討ちを早る兼五郎に、「おめえも悪い奴じゃないんだろうが、ちょっと出しゃばった真似しやがるから、こんな事になりやがった。これを見な。手も足も豆だらけ。この手を見て喜んでくれる人たちが居るんだ。人を幸せにしてやれるんだ。お前さえ来なければ、お袋さんは幸せだったんだ。おつゆさんだって幸せになれた。親父さんだって幸せに余生を過ごす事が出来たんだ。何もかもぶち壊しやがって!大馬鹿野郎が!」と言う秋太郎。

その言葉を聞き、「この通り、どうか許してくれ。」と、手を付き頭を下げ詫びる兼五郎。

「俺の思いが分かってくれたのか。一緒に股旅草鞋を履いて旅に出ないか。」と言う秋太郎。

そこへ、おこうとおつゆ、甚兵衛の三人がやって来る。

「藤太郎、藤太郎なんじゃ、わしの倅の藤太郎なんじゃ。このわしが病に倒れたその時、三日三晩寝ずに看病してくれ、生爪剥がし、隣村の医者へ連れて行ってくれるお前は、わしのせがれの藤太郎なんじゃ。」と言うおこう。

甚兵衛もまた、「倅の藤太郎じゃ。」と言う。

「有難てえ。かたじけねえ。有難てぇ。」と泣く秋太郎。

「藤太郎、お前は我が家の行燈だからのぉ。」と言うおこう。

「あっしが行燈。明るく照らす行燈。嬉しいなぁ。」と喜ぶ秋太郎。

「秋太郎さん、じゃねえ、藤太郎さん、おめでとう。」と言う兼五郎。

「俺の生きて来たのは斬った張ったのあばれ行燈。今日から先は、お袋さんとおつゆさんと、親子行燈で暮らして行こう。」

おこうの手を、おつゆの手を、二人の手を取り合い、「有難うございやす。」と頭を下げる秋太郎、いや、藤太郎。

 

 

倅を殺した男、亭主を殺した男と幸せに暮らして行けるのかと、割り切れない気持ちがいつも残ります。

 

 

口上挨拶

松丸家小弁太座長

 

 

松丸家ちょうちょさん

 

②へ続く…