僕は、このように思っています。
『“信じる力”は、鍛えて身に付ける“能力”だ。』
と。
信じていた人に裏切られる。という経験は、誰にもあると思います。もちろん、程度の差はあると思いますが。「信じる」ということを「経験によって培っていく能力」として捉えたなら、いくつかの段階があると、僕は考えているのです。
最初の段階は、単に“信じる”という段階。
言ってみれば「経験則」に基づいた“信じる”という行為です。
「今までこうだったから、これからもこうだ。」
という考え方です。
例えば人間関係で、友達でもいいし、身内でもいい。ある人にとても親切に、優しくされたときに、私たちは
『この人は優しい人だ。』
という認識を持ちます。自分にとって「良いこと」をしてくれる人、という見方をするわけです。まあ、「良いこと」といっても、例えば、褒めてくれるとか、気が合うとか、具体的なものではないかもしれませんが。
(できるだけわかりやすいように言葉を選んでいるので、ちょっとおかしな表現になる可能性もあります。そのところは、ご容赦くださいね。)
そして、その「過去の自分の経験」を、”自分がそのように感じた”という観点ではなく、「その人がそうだ。」という捉え方をしているのが、この段階なのです。
そして、あるとき、その人が「自分の期待」に答えてくれない、という事態が起こります。
そのような事態が起こったとき、その感情的なショックが大きければ、大きいほど、
『裏切られた』という感情や感覚を感じるわけです。
確かに精神的にはショックだし、落胆や、失望や、あまり心地の良い感情を感じることはありません。
ここで、必要なのは”想像力”なんです。
相手が自分の期待に応えられなかったのは、「それなりの事情や、理由があるのだろう。」と。
もちろん、こちら側の思い込みや、勘違いで、相手にはなんの事情も、理由もない、ということもありますが。
この「裏切られた感」があるとき、実は自分自身の”見方”を一段階アップさせる、大きなチャンスなんです。
単に「経験則から信じる」という段階を超えていけるきっかけが「裏切られた」と感じる時なんです。
この”裏切りの段階”をうまく超えていくことができたとき、“信じる”ということが「経験」を超えて「能力」になっていくのです。
“信じる”最初の段階においては、どうしても「今までこうだったから」という”過去”が基準になってきます。
そして、私たちは『未来の経験』を持ち得ないわけですから、経験則から信じるということが“未来”に対して力を持たなくなってしまいます。
「人のせいにしてはいけない。」とよく言われますが、
「信じたのは自分だった。」という、裏切りにあった時に「自分にある責任」をしっかりと受け止めることができたとき、“信じる”という行為が、経験則から“意志の問題”に昇華するのです。
確かに『裏切り行為』をした相手には、問題があるでしょう。それは、自分が「信じたこと」とは、別の問題で、これは分けて考えなければならないのです。必要とあれば、法的に訴えることも考えることになるでしょう。社会的な制裁を、その人が受けるべきであることもあるでしょう。
しかし、「信じたのは自分」ということを本当に受け入れることができたなら、
『私は、私の意志でこの人を“信じる”』
というふうに”信じる”という精神的行為が、変わってきます。
これは、意識的な意志の行使、『私の選択』になるわけですから、
相手の状況、出方によっては、
『自分でその選択を却下する、変更する』
ということができるのです。
単に「経験則から信じた」状態では、相手が自分の”無意識の期待”にそぐわない状況になったとき、その瞬間に傷つきます。
一方、「自分の選択として、意識的行為として”信じる”ことを選んだ」場合、感情的には落胆や失望を感じるかもしれませんが、それも覚悟の上で信じたはずなのです。そのことが自分自身の心の中で理解できるのです。
そして、相手との関係を断つにしろ、距離を保ちながらつづけるにせよ、自分の選択と責任を知っているので、相手に依存することはありません。
誰かに、裏切られた。
そう感じたとき、
「信じたのは、私だ。」
「期待したのは、私だ。」
「相手が、私の”信じたこと”や”期待”に応えるかどうかは、相手が決めること」
そのような考えを持っていれば、必要のない恨みや落胆を抱えることはなくなるでしょう。
この話でさえ『ハムの一面』なわけなんですが(笑)。
「どんなに薄くハムを切っても、必ず二つの面ができる。」
というスピノザの言葉を考えると、「もうひとつの面からの見方」があるわけですよね。
今日はそちらからの見方については書きませんが、時間があったら考えてみてください。
”信じる”とは、自らの意識的な精神活動「意志の問題」だ。
に対する、別のもうひとつの見方、です。
それでは、今日はこの辺で・・・。