水熊の居間では、女将のおはま

    何やら外が騒々しいね~と、おはま。

    一体何をしているんだい?

そこへ板前が来て、女将さんに会わせろって奴が

来ていると言う。

どうせ、金をせびりに来たんだろう。

あたしが追い返してやるから

連れておいでと、お浜

 

 

きちんと居ずまいを正し、挨拶する忠太郎。

そして、江州の宿場番場の「おきなが屋忠兵衛」

と言う旅籠屋について聞く。

だが、お浜は、確かにそこに居て忠太郎と言う

子供がいた事は認めたものの

その子は9歳の時に流行り病で死んだと

言って聞かない。

 

「死んじゃいません、あっしがその忠太郎で

 ござんす。おっかさん!」

 

この人だ、この人に間違いない!

はやる忠太郎は抑えられずに、お浜に

近づくが

「そばへ来るんじゃないよ!何するんだい」

と、邪険なお浜。

 

挙句には、金が欲しいんだろう。と言われ

忠太郎は懐から胴巻きに入れた

百両を出す。

 

「もし、やっと会えた母親が苦しい生活をしていたなら

と、博打で良い目が出た時に貯めた金が百両。

決して金が欲しくて来たんじゃござんせん。」

 

と言えば、

 

「それじゃあ、この家に入りこんで身代を乗っ取ろうって

魂胆だろうが」

 

と、あくまでも冷ややかな対応のお浜。

 

あまりと言えばあまりだ。忠太郎は、先ほどの夜鷹が

昔はお浜と仲が良かったのに、今じゃ足蹴に

されていると言って居た話を思いだす。

 

「女将さんは、裕福に暮らしてなさる。

だんだん人が 信じられなくなって

来なすったんだね。わかりました。

これで失礼します。

この忠太郎二度とここには

参りません」

 

と、立ち上がる。

 

障子越しに聞き耳をたてていた板前や女中たちに

「お前らに聞かせる話じゃねえ! 失せやがれ!」

と一喝。

 

そしてハッとする。

 

「何てこった! 上の瞼と下の瞼を

合わせれば浮かんで来て居た

優しいおっかさんの顔が浮かばねぇ・・・・

その代わりに・・あの、冷たい女の顔が・・・!!

おいらぁ、自分からお袋の顔を

消しちまったぁ・・・・」

 

と、三和土を降りたところで、出先から帰って来た

お登勢と会う。

「これが妹か・・・」

「この人・・・誰かしら?」

と、互いに無言で見つめ合うが、忠太郎は足早に

そこを去る。

 

居間に飛びこむなり お登勢はそこで

呆然としている母に駆け寄った。

 

「おっかさん、今のは誰?おっかさんに

良く似て居たわ」

 

泣いて居る母親に

 

「以前、よく話して居た・・・兄さんじゃないの?

忠太郎兄さんなんでしょう?そうなのね!?」

 

お浜は、娘可愛さに忠太郎を邪険に扱い、

追いだしたと泣き崩れた。

 

 

   

   どこで聞いたのか、金五郎は恩を着せようと

  雇った浪人と共に忠太郎を切る算段を  していると

  耳にしたお浜とお登勢。

   急いで籠を頼み、忠太郎を追う。

 

 

  夜明けの川堤

  忠太郎は、金五郎達に襲われるが逆に

  切り捨てる。

 

  そこへ聞こえて来たのは、母と妹が呼ぶ声

 

 ~~忠太郎~~~

~~兄さ~~~~ん

 

何度も何度も聞こえる。

忠太郎は、その声を振り切って・・・・

耳を抑えて我が身を抑え・・・

 

※ ここで、二人の声を振り切って逆方向へ旅立つのが

  通常の映画であり、芝居だが・・・

 

 

(花道近くの暗い所でしゃがむ瞳太郎)

 

 舞台中央から

 「忠太郎・・・・そこにいるのは忠太郎! 忠太郎だね!」

 「兄さん!」

 

振り返った忠太郎は・・・・・・

弱々しく自分を指し・・・

そして、小さく頷くと、弾かれたように母親の所へ

飛んでいった。

 

「おっかさん!!!」

 

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※ 口上で、たつみ座長がおっしゃるには、通常の版と

   今回のと、もう一つ、花道の奥から忠太郎が

   走ってくる・・・と言う版があるそうな。

 

 

★ 余談だが、私は、相当 昔だが、TVで舞台中継で

  (新国劇かな)

  あまりお客が号泣するので、最後のシーンを変更して

  忠太郎と母親を会わせた。のを見た記憶が。

 

そしてナレーションで、「今回は急遽結末を

変えさせていただきました」と、

入りました。

 

忠太郎と母親が抱き合った時は

場内は割れんばかりの拍手でした。

こんな意表をつく、しゃれた事も当時は

あったんですね。