こんな夢をみた。


また、駅にいる。

ホームのちょうど真ん中のあたりで私は電車を待っている。開放感はあるがどこか仄暗い田舎の駅。緑に囲まれていて、木々の隙間から陽の光が柔らかくチラチラと差し込んでいる。森の奥のような不思議な静けさ。終点なのか、線路は片側にしか延びていない。


音もなく電車が駅の構内に進入してくる。いや、最初からいたのかな。分からない。やたらと車高が低い。屋根の部分は真ん中が1番高くなっていて、それでも私の腰くらい。先が細くて、棺桶のような形をしている。車体は地面より下に続いていて、中は案外広いみたい。半地下のような作りになっている。入り口が見当たらない。どうやって乗り込むんだろう、そしてどうやって進むんだろう。

天井部分に斜めに取り付けられた窓を覗き込むと、化けものが座って本を読んでいた。中は普通の電車と一緒だった。誰も下ろさず、誰も乗らず、電車は当たり前のようにゆっくりと駅を出ていった。


違う電車がやってきた。いや、これもまた気が付いたらホームにいたような気がする。ドアが開いたので乗り込んだ。こちらの電車は見た目も内装も普通、でもカーテンが付いている。電車には不釣り合いな淡いピンク色のカーテン。

右端に化けものが座っていたが、本から顔を上げる気配はない。変に避けるのも失礼かと思い、その少し横に腰を下ろす。左の端に座っていた小さな男の子がカーテンをシャーってやって遊ぼうとする。化けものがイライラしないかものすごく気掛かりだったが、特に興味を示さないようで安心した。

化けものは人より大きい。黒いマントを纏っていて、顔の部分に動物の頭蓋骨で出来た面のようなものをしている。だから表情を読み取ることはできない。男の子は発車する前にいなくなった。


電車はガタゴトと動きだす。車内には私と化けものの2人だけ。車窓を流れる景色を見て時間を潰していたけれど、代わり映えのないのどかな風景が続く。

目的地は分かっているのだけれど、言葉にしようとすると思い出せない。路線図はない。車内放送もない。この電車がどこに向かっているのか分からない。隣の化けものに話し掛けるのはなんだか怖い。読んでいるものが気になったが、チラッと見ると知らない文字だった。

見覚えのない駅をいくつか通り過ぎたが、一向に知っている駅は出てこないので次の駅で降りてみることにした。


小さな無人の駅。改札では切符を通して出た。切符は柔らかいオレンジ色をしていたけれど、何も書いていなかった。

駅前には商業施設が幾つかまとまっている。改札を出てプラプラしてみたけど、人に会わない。誰もいない灰色の町。電車に乗る前は晴れていたのにいつの間にか雲だらけになった空が、町の灰色に溶けていく。

駅前の歩道橋に登ってみると上は動く歩道になっていて、遠くの方まで続いていた。

人影はなかったのに気が付いたら周りにたくさん人がいて、みんな動く歩道へ向かっていく。身動きが取れないので流れに身を任せる形で動く歩道に乗らなきゃいけなくなった。化けものと、人と、でも皆んな口までしか見えない。誰の顔も分からない。皆んな大きい。化けものが特別大きいのだと思っていたけど、私が小さかっただけみたい。子供の頃いつも大人を見上げていた感覚を思い出した。

歩道橋の下で声がした。覗き込むと、車は走っていないけど広い道路があった。無機質な灰色。白い服を着た子が道路の真ん中からこちらに向かって何か言っている。うまく聞き取れない。なんだろう。また口が動く。

『戻れないよ。』

ハッとして後ろへ戻ろうとした。戻りたい、降りたい。降りられない。歩道は勝手に進んでいく。周りの人は道を開けてくれない。どんどん駅から離れていく。どうしよう、どうしよう。

にやりと笑った口元が見えた気がした。