サラ・ソーントン著 「現代アートの舞台裏」
日本経済新聞 (2009年7月) 記事より
現代美術の世界は不可解である。
真っ二つに割いた牛のホルマリン漬けや漫画にしか見えない絵
が、なぜ先端の作品といわれるのか。
国際的なオークション、アートフェア、権威ある美術雑誌や
国際美術展などの現場をリポートした本書は、現代美術がどの
ようにして認知され、評価を高めていくかを、臨場感たっぷり
に教えてくれる。
著者が取材した関係者は250人に及ぶという。
ある美術商は、最高価格を提示する者ではなく、売却候補者
の中で最も名声が高い人物に作品を売るという。
所有者によっても作家の評価が変わるからだ。
米国の有力な雑誌のオーナーは「市場に追随しない」のが信条。
作品収集をせずに市場との距離を保っている。
美術家の村上隆は、工房の経営者として多くのスタッフが働く
現場で徹底した品質管理をしているという。
美術家、美術商、キュレーター、ジャーナリスト、批評家、収
集家など様々な人々の絡み合いが、作品の本来持つ価値をアト
リエの片隅から引き出し、育てていくことを、著者は丁寧に解
き明かしている。
「あとがきに代えて」の中の「傑作はただ生まれるのではなく、
つくられるもののようだ」という記述は結論めいており、印象
的だ。
そこに新たな価値を掘り起こすことの喜びを重ね合わせると、
美術の一端が見えてくる。
吉田夢鏡 著
Lipstick on a pig(豚に口紅)の現代アートの舞台裏
「価値を育てる人々の絡み合い」は「価値を潰す人々の絡み合
い」でもあることを見事に暗示したサラ・ソーントン著「現代
アートの舞台裏」。
「傑作はただ生まれるのではなく、つくられるもののようだ」
しかし、ビゼーのカルメンのように「傑作はただ生まれるので
はなく、潰されるもののようでもある」。
これは結論めいており、印象的だ。
そこに新たな価値が潰されることの悲しみを重ね合わせると、
美術の一端が見えてくる。
中世の時代、王侯貴族のための芸術作品をつくることと、最も
名声が高い人物に作品が売られ、所有されることで、作家の評
価が変わることは酷似している。
などなど「現代アートの舞台裏」は、現在の現代アート界にお
いて、作品の本来持つ価値が無視されていることも、暴露して
いる結果になっている。
2008年~2009年、100年に一度といえる投機資本主義破
綻・経済破綻、地球温暖化の現代にいたっては、美術家、美術
商、キュレーター、ジャーナリスト、批評家、収集家など様々
な人々は、自己の形骸化した保守的な価値観や、権威を振りか
ざさず、多種多様な英知ある人々の見識や、純粋に創造力のあ
る作家のコンセプト、作品を、真摯に見つめ、耳を傾けるべき
時代に入ったといえる。
Artist Mukyo Yoshida( 吉田 夢鏡 )