夏の木漏れ日が裏窓にひとつの影をうきたたせていた。
扇風機の風が、れい子の髪をせわしく強引にゆらし、髪の先端
が、れい子の耳たぶを吐息のようにくすぐった。
汗が背中を、胸の谷間を、スカートの中の太ももの内側を、薬指
がそっと触れるようにひとすじ滴れた。
女の薬指は敏感。
女の薬指は清らかでしたたかな指。
女が男の指をセクシーに感じるのは、女にくらべて、人差し指よ
りも薬指が長いから。女はさほど変わらない。
れい子が初めて大人の女を意識した歳は、紅差し指を意識した時
だった。
裏窓を背にして、しなやかな腕のれい子は、両手を前開きのシ
ャツの中に、しっとりと汗ばんだ背中に、ゆっくりと差し入れた。
背中の、汗でしっとりとしたシャツの生地が、ゆらゆらと波打っ
た。
窓辺の抱擁のシーンが黄昏のなかで身悶えていた。
ジジーカナカナ 夏が黄昏れる時、蝉の泣き声は激しく痛々しい。
「アーン、もう、うるさいわねー!」れい子はイライラしていた。
学術論文の出版社の締め切りがまじかにせまっているのだ。
にもかかわらず、ちっとも執筆がすすんでいない。
その上、れい子は汗ばんだ身体を四日間もシャワーしていないのだ。
水道工事屋が配管ミスして水道が断水しているのだった。
れい子は、ふっと、気付いた。
「匂う、匂うわ!それに、あせもの背中がかゆい~」れい子は身
悶えた。
しなやかな腕のれい子は、あせもの背中のどこにでも手が届くの
だった。
それは自分自身の背中を抱擁するようなかっこうになった。
よう太の携帯電話は今宵も沈黙。
「あの日見たれい子の抱擁シーン、や、やっぱり、あいつ・・・・」
後書き:気を付けましょう!
窓辺を背にして自身の背中に両手を回すこと!