1,彰子の祖父で物語の鍵を握る雨野貴幸
さて、こちらはかなり久々で。
遥ちゃんの回で「登場順で」とか言いましたが、この人を先にやらないと他の雨野家にいけない……ということで。
今回は彰子の祖父・雨野貴幸です。
はい、作中で一度も直接登場の場面はないです。回想でもセリフもないか?
この人……『銅の軍神』のキーを握っています。本作では「昭和天皇誤導事件」はすべて彼が仕掛けた……という設定です。
これは、以前のコラムで書いた通り「誤導事件で本来なら先導車に乗るはずだった担当者が不明」なことから、創作としています。
つまり、、雨野貴幸が本来の担当者(篠塚伊助)を先導車から降ろし、本多重平警部を乗せた……という展開です。その前に、隼人の曽祖父の由良栄人となにやら打ち合わせている…‥という描写もあります。
嗚呼……なんて迷惑な人だ。貴方のせいで、その後の群馬県の人事が上へ下への大騒ぎになったというのに。この事実が明るみに出れば、県庁職員からさぞかし恨みをかったに違いありません。
彰子「お祖父ちゃんがご迷惑をおかけしまして……」
隼人「まあ、今の副知事問題ほどではないだろう」
志帆「なんの話?」
作中の直接登場が一切なく(一応、先導車乗り換えの場面を4章の冒頭に入れる案もあったのですが、ややこしくなるので断念)、人々の会話のみで登場します。雨野家……そして、「新田宗家」の当主です。帯文の「宗家当主」というのは貴幸のことです。
誤導事件を画策するとう都合上、警察官の設定で「警察特別警備隊」の警部という設定。明治45年生まれの事件当時は24歳で警部というエリート警察官でしたが、誤導事件のあとはみずから閑職に赴いて、戦後ほどなく退職しています。
彰子が小学生の時に亡くなっており、彼女のなかでは「無口な祖父」という印象でしかなかったですが、重い沈黙の中に過去を封じていたのでしょうか?
2,裏設定として……
さて、ここからは裏設定を少し。
雨野(天野)氏は新田義顕の末裔で、安芸に逃れてやがて毛利家家臣となり長州藩士になります。
本作では……大正5年、井上馨の葬儀で長州を訪れた井上武子が、密かに天野家の末裔を探させました。当時、貴幸は5歳。長州藩の下級藩士だった天野家は維新後は困窮を極めており、武子は密かに東京に連れてきて、稲村ヶ崎の井上邸で養育しました。
10歳の時に武子が死去。その後は大隈綾子に育てられました。綾子も3年後に死んでしまいますが、東京府立第一中学から警察講習所を経て任官しています。
長州閥になるので警察でもそれなりに出世できました(警察といえばイメージは薩摩ですが)
武子の死後、鎌倉にあった井上家の土地の一部を受け継ぎました。なので、明月院近くにあんな広い土地を持っているのか……
これは別に『猫絵の姫君』を描いたから取ってつけているのではなく、「天野氏は長州藩士なら井上家と関係がありそうだな」と、初期から漠然と考えていました。両者とも安芸時代からの毛利家の家臣です。
まあ、確定したのは武子があのキャラになってからですが……
「質実剛健で古武士のような人」というのが彰子の祖母で貴幸の妻・澄子による人物評です。その性格に反し、作中で彼のやったことは、警察官の職を利用して、多くの人の人生を狂わせた行為です。
そこまでして、彼が阻止したかったものが、本作で最後に彰子、隼人の口から語られています。雨野貴幸の後半生は「贖罪」の意識を背負った、どこか暗さを背負ったものでした。そこに救いがあったなら、孫の彰子の存在だったかも知れません。
昭和天皇桐生行幸
末広町交差点